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二百四十五話 雪解け

 

「師匠。力を分散させずに一点に集中したい。どうすればいい?」

「え? え、えーと、そうでござるな。こうやって、ぐぐっ、としてから、ばーん、ってやればいいでござるよっ」


 うん、なにを言ってるのか、さっぱりわからん。

 絶対、ロッカもわかっていない。


「なるほど、蛇口の先にホースをつけて出力を調整するようなイメージ?」

「お、おおっ、そ、そうでござるよっ、よくわかったでござるなっ、その通りでござるよっ」


 アタミ(アリス)に隠れて必死にメモを取るロッカ。

 完全に師匠と弟子が入れ替わっているが、この数日でロッカは飛躍的に成長している。


「アリス様変わりましたね。私の時は、あんなに教えるのが苦手だったのに」

「そうだな、永遠の場所で成長したのかな。レイアも後で修行してもらったらどうだ?」


 昼食後、丘の上で行われるロッカとアリスの修行を、レイアと二人で見学する。

 特に決めているわけではないが、いつのまにか一日のルーティンに組み込まれるようになっていた。


「いえ、私はやはりタクミさんに教えてもらいたいです。カット能力を身につけラスボスまで成長できたのも、全部タクミさんのおかげですから」


 うん、やめてね。

 ラスボスになったの俺のせいみたいだから。

 あと、芋の剥き方以外、まったくなにも教えてないからね。


「俺に教えることはもう何もないよ」


 最初からないけど。


「わかっています。言葉ではなく、タクミさんを見て、自ら学べということですね」

「よ、よくわかったな、その通りだ」


 ダ、ダメだ。レイアの前では条件反射で、いつものやつを言ってしまう。


「それにしても、こうして二人で、若い二人の修行を見ていると、私たち、子供の成長を見守る夫婦みたいですね」


 やめて。

 修行してる二人が鬼のような形相で睨んでるから。

 作り笑いを浮かべるので精一杯だよ。


『タッくん、相変わらずモテモテやな』

「ちぃ、ちちぃ」


 あ、そうだった。

 腰にカルナを、胸ポケットにヌルハちぃを入れてたんだ。


「そ、そうそう。ちょっとやってみたいことがあったんだ。カルナがロッカの魔力を吸いすぎてこれ以上吸収できないらしい。それをヌルハちぃに分け与えることはできないかな?」

「魔力の譲渡ですか。難しいですね。カルナは吸収、私はカット、どちらも奪うことはできますが、与える能力は備わってません」


 やはり難しいのか。

 しばらくしたら、また勝手にもどるような気もするけど。


「まあ、ヌルハチの魔力をカットしたのは私ですし、元に戻したいですね。ちょっと手荒ですが、神降しを利用してなんとかしてみましょう」

「ち、ちちっ!?」


 手荒という言葉に反応して、ヌルハちぃが胸ポケットで暴れ出す。


「だ、大丈夫だよ。大袈裟に言ってるけど、そんな痛いことはしないはず…… だよね? レイア?」

「めちゃめちゃ痛いですよ」

「ちちちちちぃ!!」


 逃げ出そうとするヌルハちぃをなんとか捕まえる。

 ちょっと可哀想だが、ヌルハチには早く復活してほしい。

 ルシア王国もサシャ1人で大変そうだし。


「では、魔剣カルナを借りますね。タクミさんはそのまま、ヌルハちぃを持ってて下さい」


 腰に刺さったままの魔剣カルナを、レイアが、すっ、と抜き取る。


『なあなあ、レイア、これ、うちはもちろん痛ないやんな?』

「同じくらい痛いですよ」

『いやぁーーーーーああっ!!』


 必死に暴れる魔剣と小人。

 うん、2人とも頑張ってね。俺がしっかりと見守って……


「ま、まさかと思うけど、俺は痛くないよね?」

「タクミさんが一番痛いですよ」


 いやぁああああぁぁあぁっ!!


きわめ神降ろし 大悪烈王嶽禍丸だいあくれつおうごくまがまる


 叫ぶ間もなく、いきなり神降しを実行するレイアさん。

 極ってなにっ!? 大悪烈王嶽禍丸ってなにっ!? 神様の名前も完全に悪物じゃないっ!?


「ま、まてっ! 戻ったっ! ヌルハチは戻ったぞっ!!」


 ぼんっ、と小さなヌルハちぃが煙と共に人間サイズに復活する。


「やはり、とっくに魔力は溜まっていたのですね、ヌルハチ」

「ぐっ、貴様、ハメおったな」

『え? なに? どうなったん? 大悪烈王嶽禍丸でてこおへんの?』

「そんな神様いませんよ。名前長いし、漢字難しいし」


 や、やられた。全部レイアの嘘だったのか。


「さすがに自分だけではなくタクミさんにも被害が及ぶなら戻らざるを得なかったでしょう?」

『うちはっ!? うちはいらんかったんちゃうのっ!?』

「オマケ」

『オマケで怖がらせんといてっ!』


 俺も怖がらせないでっ。


「くっ、やるではないか、レイア。この大賢者をたばかるとは」

「ずっと小さいままタクミさんの側にいられると思わないでっ。夜中に忍びこんで一緒に寝てたの、知らないとでも思った!?」

「そんなことはしとらんっ! たまにしかしとらんっ!」


 た、たまにしてたの!? 怖いよっ、寝返りうったら潰しちゃうよっ!


「とにかくこれでタクミさんに特別可愛がられることもなくなったわね。正々堂々戦いましょう」

「むぅ、大賢者を舐めるなよ。可愛いだけではないところを見せてくれるわ」

「カルナっ、またラスボス戦が始まりそうだぞっ、2人を止めてくれっ」

『ちゃうねん、そういうやつちゃうねん。これは誰にも止められへんやつやねん』


 雲の隙間から、太陽の光が雪を溶かす。

 長かった冬も、いつのまにか終わり告げていた。




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