二百四十一話 最速
「タクみんっ! 次の修行はなんでござるかっ!? 早く教えてほしいでござるよっ!!」
「お、おう、ちょっと待ってくれ。今、朝ご飯の支度中だ」
スケベ猛反省プレート事件からロッカの圧が凄い。常にまとわりついて来るので、気の安まる暇がない。
「とりあえずカルナに力を吸って貰おうかな。少しは大人しくなるだろう」
声をひそめて、コソコソと相談する。
『タッくん、それは無理やで。あの子、ナンボでも力湧いてくるから、うち、もうお腹パンパンやねん』
「え、ええっ!?」
『敵もおらへんし、発散する機会もないからな。当分、ソウルイーターの能力は使われへんわ』
や、やばい。カルナに力を吸ってもらわないと、とてもじゃないが俺の身が持たない。
「拙者、だいぶ強くなってるでござるよ。そろそろタクみんと練習試合とかしたいでござるなぁ」
キッチンの向こうで恐ろしいことをつぶやくロッカ。
「朝ご飯ができるまでに、なんとかいい修行を思いつかないと……」
『最後の晩餐になってしまうな。朝やけど』
うまいこと言った、みたいに言うけど全く笑えない。
とりあえず少しでも時間を稼ぐため、朝ご飯はいつもより豪華なものを用意した。
「ふぅ、朝からすごいごちそう、お腹いっぱいでござるっ、さっそく新しい修行を頑張るでござるよっ」
「う、うん、そうだね、頑張ろうね」
ワクワク気分のロッカに反比例して落ち込んでいく俺。
ダメだ。いい修行がまったく思い浮かばない。
「レイア様から、タクみんとアリス様は激しい練習試合をしていたと聞いたでござるっ」
げ。なんてことを言うんだ、レイア。
「あのアリス様ですら、まるで歯が立たなかったらしいでござるな。拙者、まだまだ実力不足でござるが、ぜひ一度お手合わせ願いたいでござるよ」
うん、あれは『彼女』のせいで、アリスがレベル1の子供に戻っていたからだよ。まともにやって勝てるわけないからね。※
「そ、その修行はロッカにはまだ早いな」
「な、なぜでござるかっ!? それならもっと、今の拙者に見合った修行があるのでござるかっ!?」
「も、もちろんだっ」
か、考えろ、考えろ、考えろっ! 思考停止は死を意味するっ!!
「アリスやレイアにあって、ロッカにないもの、それが何かわからないか?」
「む? なんでござるか? それは?」
知らないよっ! 知らないから自分で考えてみてっ!
その答えから、修行のアイデア導き出すからっ!
「……アリス様はタクみんの一番弟子。レイア様はタクみんの二番弟子でござるが、元はアリス様の弟子だったでござるな」
うん、そうだね。そのままアリスの弟子でよかったのにね。
「はっ! そういえば拙者もタクみんの弟子になる前は、レイア様の弟子でござったっ!! もしかしてっ!?」
おお、そうだ、それだっ。それに違いないっ。
なにかわからないがそれにしておこう。
「アリス様もレイア様も誰かを弟子にしたことがあるでござるよっ! 人に教えるだけが修行ではない、人に教えることもまた修行っ! タクみんは拙者にそう言いたかったのでござるなっ!?」
素晴らしい。アホの子だと思っていたが、やるじゃないか、ロッカさん。
大きく息を吸った後、俺は久しぶりにあのセリフを吐き出した。
「ふー、よくわかったな、その通りだ」
完璧だ。これなら俺にはなんの負担もかからずに、当分の間自由だ。
弟子が弟子を取り、また弟子を取る。
弟子の永久機関が完成してしまった。
「弟子を取るんだ、ロッカ。自分では気が付かなかった弱点も、人に教えることによって自ら気付くことができる。ロッカの修行も、ようやく第二段階に突入だな」
「うおおおっ、なんだか、かっこいいでござるなっ! ちなみにタクみんとの練習試合は第何段階でござるか?」
「そ、それはっ、……そうだな、うん、365段階くらいかな?」
「そ、それほど先の段階でござったかっ!?」
うん、絶対登らせない。
「しかし、タクみん。拙者、いったい誰を弟子に取ればいいのでござるか? こういうのって、向こうから弟子にしてくれと、お願いされるものではござらんか?」
「そうだな、すでに修行は始まっている。まずはロッカが師匠となるのに相応しい風格を身につけなければならない。そうなれば、期せずして弟子は集まってくるものだ」
「む、むむむぅ、それはなかなか難しそうでござるな」
うん、これなら当分、俺は何もしないでいい。
アリスはレイアを弟子にするまで10年くらい一人だったし、レイアもロッカが来るまで5年くらいかかった。
まぁ、数年は俺もゆっくりできるだろう。
「ではこれより弟子が弟子を取る修行、『弟子っ子でしでし』を開始するっ!」
ああ、素晴らしき時間稼ぎ。
これで当分の間、俺はゴロゴロと怠惰な日々を過ごすことができるぞ。
『なあなあ、タッくん』
「ん? どうした、カルナ?」
『いっつも弟子の弟子は、結局、タッくんの弟子になるやん? また一人厄介な弟子が増えるだけやないの?』
「え?」
そ、そういえばレイアもロッカもそうだったな。
また一人増える?
いやいやいや、そもそもロッカに弟子ができること自体、いつになるかわからない。その時にはもう、俺は隠居して、老後をのんびりと暮らしているはずだ。
「は、ははは、大丈夫だよ。俺の弟子はロッカで最後だ。もうこれ以上、厄介ごとなんて増えないさ」
「タクみんっ! 拙者のお弟子さんがやってきたでござるよっ!!」
「…………………へ???」
まだ朝ご飯の片付けも終わってないのにっ!?
ロッカの弟子が最速でやってきた。
※ アリスが『彼女』にレベル1にされた話は、「第五部 五章 百六十七話 スパイダーとプロポーザー」を。
タクミとアリスの練習試合は、「第六部 序章 百八十話 タクミバーサスアリス」を、ご覧になってみて下さい。




