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二百四十話 ゴニョゴニョ

 

「ア、アリス?」


 永遠の場所へ旅立ってから一年。

 とんと音沙汰のなかったアリスが、まったく変わらない姿で帰って来た。


「もう向こうでの用事は終わったのか?」

「まだ、全然。でもタクミのピンチだから、ちょっと帰ってきた」


 ん? んんん?


「い、いや、ピンチだったら他にいっぱいなかったか? 六老導たちに襲われた時とか、レイアがラスボスとして頑張ってた時とか」

「あの程度はタクミにとってピンチでもなんでもない。今の方が大ピンチ」


 えっ? そこまでなの!?

「スケベ猛反省中」プレートっ!!


「はじめまして、でござるな。アリス様」

「やっぱり覚えてないか。この前、夢の中で会ったけど」

「あ、あの夢、やはり本物でござったか」※


 え? 夢で会ってるの? 二人が? どゆこと?


「……あれが本当ならタクみんのことは、しばらく拙者たちに預けておくはずでは?」

「そのつもりだったけど、今回は見過ごせない。アナタたち、たかが浮気くらいで、ジタバタしすぎ」


 い、いや、浮気じゃないよ。

 ちょっとダビ子に乗っただけなんだけど。

 でも、とてもじゃないけど、そんなこと怖くて言えない。


「そりゃジタバタでござるよ。ただでさえライバルが多いのに、浮気してこれ以上増やされるわけにはいかんでござる」


 ロッカの後ろのほうで、レイアやヌルハちぃが、うんうん、と小さく頷いている。

 アリスの恐ろしさを知っているみんなは、さすがに面と向かって逆らえないようだ。


「自分に自信がないからそうなる。途中、誰かの所へ行ったとしても、最後にワタシの元へ帰ってくれたらそれでいい」

「タクみんは最後に、自分を選ぶと思っているのでござるかっ!?」

「そうだけど、なにか?」

「……ぐうっ!!」


 喋り出したら止まらない、あのロッカがぐうのを出して押し黙った。

 圧倒的強者。レイアはヌルハちぃを握りしめ、洞窟の隅っこでカタカタと震えている。


「ま、まあまあまあ、それぐらいにしてやってくれ、アリス。ロッカたちも本気で俺にプレートを埋め込む気ではなかっただろうし」

「いや、本気だった」

「本気でござった」

「本気でした、タクミさん」

『本気と書いてマジやで、タッくん』

「ちちぃ」


 うん、本気だった。

 こ、こわっ、こわぁっっ!

 アリスありがとう! 来てくれてありがとう!!


「とりあえず、そのプレートは砕いておこう。タクミは自由に浮気していい」


 いや、だから浮気なんて今までしたことないし。恐くてできるわけないし。


「さ、させないでござるよ。いくらアリス様といえど、拙者たち全員でかかればっ」

「……かかれば、なに?」


 ほんの少し。一瞬だけアリスがその力を解放したかに見えた。

 それだけでロッカは、ぺたん、と尻餅をついて後ろに倒れる。


「み、みんな、なにしてるでござるかっ、タクみんのプレートをっ……あっ」


 ロッカが振り向いた先にみんなはいない。

 アリスが力を解放したと同時に、ビュンと逃げ出していた。


「どうする? 一人でもやる?」

「や、やるでござるよっ」

「腰が抜けて立てないのに?」

「腰が抜けて立てなくてもでござるっ!」


 や、やめてあげて。ロッカ涙目になってるよ。


「ならワタシが勝ったらタクミを永遠の場所に連れて行く」

「ごめんなさいでござるっ!!」


 気持ちがいいほどの、屈服をここに見る。

 腰が抜けたまま、見事なまでの土下座を披露するロッカ。


「プレートはあきらめるでござる。だからタクみんを連れて行くのはやめてほしいでござるよ」

「プレートだけじゃない。これからも多少のことは目をつぶれ。どうやってもタクミはモテてしまう。主人公補正というやつだ」


 主人公補正? え? 俺、主人公なの?


「ど、どこまで許せばいいのでござるか? いくらなんでもゴニョゴニョゴニョとかは許せないでござろう?」

「甘いな、ワタシならムニャムニャムニャまでは許せるぞ。まあ、さすがにムチョムチョムチョまでは許せないが」

「ほぁっ、そ、そこまで許さないといけないのでござるかっ!?」


 肝心なところはゴニョゴニョしててよくわからないが、ロッカの顔が真っ赤に染まっているので相当なことを話していると思われる。


 ……俺、どこまで許されてるの??


「それじゃ、逃げたレイアたちにも伝えておいて。契約破ったら、タクミ連れていくって」

「わ、わかったでござる」


 あ、あれ、この流れって……


「もしかしてアリス、もう帰るのか?」

「帰るんじゃない。行ってくるだけ。ワタシの場所はここだから」

「お、おお、そうか。で、今度はどれくらい行ってくるんだ?」


 永遠の場所で、アリスが何をしているのか、ハッキリとしたことはわからない。

 でも、俺たちや、この世界を守る為、頑張っていることはわかる。


「……タクミがピンチの時は、また来る」


 アリスは答えない。まだまだ時間がかかるのか。

 ここで俺が止めたら、アリスは行かないで残ってくれるのだろうか。いや……


「身体に気をつけるんだぞ。アリスがピンチの時は、俺たちが行くから」

「うんっ」


 アリスは止まらない。すべてをやり遂げるまで走り続ける。


「む、むむむ、二人とも、ちょっとゴニョゴニョ過ぎではござらんか」


 ロッカが「スケベ猛反省中」プレートを握りしめ、アリスの言う通りにバキバキと破壊していた。



※ ロッカとアリスが夢で会ったお話は、第七部 四章 「閑話 ロッカとアリス」に載ってます。よろしければ、ご覧になってみてください。


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