二百三十九話 唯一の味方
『タッくんっ! なんでうちのこと、忘れて帰ったんっ!?』
「ご、ごめん。ちょっとバタバタしてて」
武器商人ソネリオンの所に置き忘れた魔剣カルナを、翌朝すぐに迎えに行ったのだが、怒りがおさまることはない。
『バタバタ? それってバイク娘とのドライブちゃうやんな?』
バ、バレてるっ! まずい、なんとか誤魔化さないとっ。
「いやぁ、カルナ、綺麗になって帰ってきたなぁ。鞘なんてもう新品みたいじゃないか」
『うち本体は、中身やからな。ガワの魔剣褒められても嬉しくないねんけど』
ガワワワ、余計なことを言ってしまったっ。
『……で、タッくん、あのバイク娘にどんだけまたがってたん? うちのこと忘れるくらいやし、さぞかし楽しかったんやろな』
そ、そんなことはないって。
村人にぶつかりそうで、めっちゃめちゃ怖かったし、ミノタウロスは轢かれてたし。
『ちょっと、レイア、アレもってきてくれへん?』
「アレ? ああ、アレですね。少しお待ちを」
レイアの刀に入っていたからか。
二人は以前よりもずっと仲良しになっている。
俺にしか聞こえなかったカルナの声も、今のレイアには聞こえるようだ。
「はい、コレですよね、カルナ」
『そうそう、コレやコレ』
「コ、コレはっ!?」
封印されていた「スケベ猛反省中」プレートじゃないかっ!!
「え? 嘘だろ? まさかコレ、俺が付けるの?」
『そらそうやろ。これでも足りへんぐらいやで。浮気もん』
あわわわわ。
冗談じゃない。
こんなの付けているのをロッカに見られたら、なんて言われるかわからないっ。
「レ、レイア。レイアならわかるよな? 俺は潔白だよなっ!?」
「いえ、タクミさんはこれを付けるべきだと思います。……半永久的に」
カルナよりひどいっ。
なんで? 俺、ちょっとダビ子に送ってもらっただけだよっ。
『タッくんは自分が天然のたらしってことに気づいてへんからな。もう浮気できへんように、これからはプレートをぶら下げて生きていって』
「い、いやだっ。俺、浮気してないよっ! い、いや、そもそも誰とも付き合ってないんだけどっ!!」
「朝から何を騒いでいるでござるか?」
「うわぁっ!!」
最悪のタイミングで起きてくるロッカ。
俺の胸にぶら下がる「スケベ猛反省中」のプレートをじっ、と見る。
「……スケベとは助平のことでござるか?」
「スケベで助平でもないよっ!!」
「いえ、タクミさんは、村で行きずりの女に一日中またがり、カルナを忘れて帰るくらい、助平になっておりました」
「ち、ちがっ」
だいたい合ってるけどぜんぜんちがうっ。
「ほぅ、このプレート、ぶら下げてるだけでは頼りないでござるな。いっそ、肉体に埋め込ませて一体化させてしまうというのは、どうでござるか?」
「なかなかいいアイデアですね」
『ええやん、それならもう浮気できへんな』
いやぁあぁあぁぁあぁあぁっ。
ダメだ。このままじゃ俺は本当に「スケベ猛反省中」と、生涯を共にすることになってしまう。
「ちちちぃ?」
ああっ、ヌルハちぃっ!
「ヌルハちぃ、助けてくれっ。このままじゃ、俺、スケベの烙印を刻み込まれて生きるハメにっ!」
「それはお主の自業自得というものじゃ」
「え?」
「ちぃ、ちちちぃ」
今、ヌルハちぃから普通にヌルハチの声が聞こえたような?
い、いや気のせいだよな。
こんなに可愛いヌルハちぃから、そんなものが聞こえるはずがない。
……でも心なしか、俺を見るヌルハちぃの目が冷たいような気がする。
「み、味方がいない。一人もいない」
『そんなことないで』
「そうですよ、私たちはみんなタクミさんの味方です」
「ちちぃ、ちちぃっ」
「え? そうなの? じゃあ「スケベ猛反省中」付けなくてもいい?」
左右に首を振りながら、ロッカが、ぽん、と俺の肩を優しく叩く。
「それとこれとはまた別の話でござるよ」
「いやぁあああああぁあぉああぁあっ」
のたうち回って逃げ回るが、すぐに捕まってしまう。
時間を戻したり、場面をカットしたりする人達から逃げられるはずもない。
「超宇宙であられるタクみんなら、拙者たちから逃げるのなど造作もないこと。あっさり捕まったということは、自分の非を認め、「スケベ猛反省中」を受け入れるということでござるな」
「よくわかっ……てないよっ! その通りじゃないよっ!!」
ダ、ダメだ。このままじゃ俺は一生、「スケベ猛反省中」を背負って生きていくことになる。
「さあ、タクみん、もう観念して…… ん? な、なんでござるかっ!?」
「どうしました、ロッカ。早くタクミさんにプレートを…… はっ!?」
『な、なんやこれ、なんかものごっついのが近づいてくるでっ!?』
「ちっ! ちちぃちちぃちちぃ!!!」
突然、みんなが騒ぎ出すが俺には何もわからない。
え? 誰かやってくるの?
ざむっ、と洞窟の入り口から、足音が聞こえてくる。
な、なんだ、この圧倒的な雰囲気はっ!?
人類最強クラスのメンバーたちが、身動き一つできずに固まっている。
「ど、どうして? ラスボスだった私の最終決戦でもタクミさんの前に現れなかったのにっ!?」
うん、俺もちょっとそう思う。
たぶん、来るタイミング間違ってる。
「……助けにきたよ、タクミ」
永遠の場所から、アリスが普通に帰ってきた。




