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二百三十八話 忘れもん

 

「ふむ、これは、パッと見ではわかりませんね」


 魔剣カルナをじっくりと眺め、鑑定する武器商人ソネリオン。

 以前と比べて、戻ってきてからカルナの口数が減っている。

 冬の備蓄を買い足しのついでに、タクミ村の武器屋に寄ってみたのだが……


「レイアの刀に入ったり、また元の剣に戻ったり、だいぶ無茶をしてきたみたいで、その反動が出たと思うんだけど」

「うーん、その割には力は充実していますね。異常は見当たらないので普通に話せるはずなんですが…… いや、まてよ、これはっ!!」

「な、なにかわかったのかっ!? ソネリオンっ!!」

「…………」

「……な、なにかわかったのか? ソッちん」

「はい、これは確証ではないのですが……」


 め、面倒くさい。忘れていたよ、ソッちん呼び。※


「今までのようにタクミ様にツッコミを入れる役割ではなにも進展しない。再会したのをきっかけに、ちょっとおとなしめにすることで、心配させて気にかけてもらう。いうならば、押してダメなら引いてみろ、作戦ではないでしょうか?」


 え? いや、まさか、いくらカルナでも、そんな馬鹿な作戦は……


『なに全部バラしてるねんっ! チョビ髭っ!!』


 馬鹿な作戦だった。


『もう少し、もう少しでタッくん、心配でうちを抱きしめて号泣するとこやったのにっ!! うちの大切さに気づいて、むちゅー、ってして、そこから結ばれてハッピーウェディング一直線いっちょくせんの予定やったのにぃっ!!』


 ムキー、と鑑定台の上でジタバタ暴れる魔剣カルナ。


「そんなうまくいきますかねぇ、私にはおとなしくなったカルナさんを、タクミ様が、そっ、と倉庫にしまって放置する未来が見えましたよ?」

『こ、こわっ、やめてっ、冗談でもそんなん言わんといてっ!』

「ま、まあ、とにかくカルナが無事でよかったよ。ついでにメンテナンスのほうも頼めるかな? その間に村で買い物をしたいんだが」

「承知致しました。見違えるほど綺麗にして差し上げます」

『いやぁ、タッくんっ、うちをこんなおっさんと二人きりにせんといてっ! あんなことやこんなことされたらどうするんっ!?』


 大丈夫、魔装備を愛するソネリオンは、中身が女の子でも下品なことはしない、絶対。

 でも、ちょっと騙されてたし、ここは一つ。


「徹底的にやってくれ。それはもう丸裸にして、隅から隅まで」

「ニヤリ、もちろんでございます、タクミ様」

『いやぁーーーーっっ!! なんて事言うん、タッくん! うち、これでもまだ生娘やねんでっ!!』


 カルナの絶叫が響きわたる中、俺はクールに背を向け、武器屋を後にした。



「しかし、何度来ても落ち着かないな、タクミ村は」


 村の中央には巨大な黄金のタクミ像がででん、とそびえ立ち、祭りでもないのに、そこら中に屋台がならび、俺の饅頭やグッズが売っている。


「これはこれは、タクミ様、本日はどのようなご用件で」


 話しかけてきたのは、クモの胴体を持つ魔族。

 ソロモン72柱とかいう伝説の魔族の一人だが、今はタクミ村で普通の住人として、呑気に暮らしている。


「うん、ちょっと冬の蓄えを買い足しに。おい、ちょっと待て、何をしている。なんだ、その魔法陣は」

「いえ、村の備蓄を根こそぎかき集めるため、仲間の召喚を。ご安心下さい。草の根一つ残さず、全てをタクミ様の元へ、お運び致します」


 うん、やめよ。俺のせいで村滅んじゃうから。


「そんなにいらないって。一冬越せるだけあれば十分だからっ」

「タクミ様は実に奥ゆかしい。望めば世界の全てが手に入るというのに」


 いらない。世界のすべていらない。


「とにかく何もしなくていいからなっ、ちょっと買い物に来ただけなんだからっ」

「……ふむ、来たるべき世界制覇の日まで、内密に行動するということですな。このソロモン72柱、一の柱バエル、その日まで存分に力を貯めておきましょうぞ」


 うん、貯めるだけ貯めて永遠に使わないで。

 やっぱりこの村に長く滞在しているとロクなことにならなそうだ。早く買い物を終えて帰ってしまおう。


『ブブンッ、ブオオンブォォォオオオンッ!』

 のりなっ、アタイが連れてってやるよっ!


 突然、ダビ子が爆音をあげながらフルスロットルで目の前に現れる。


「お、おお、久しぶりだな、ダビ子。でも、そんなに急いでないから大丈夫だよ」

『……ブブブブ、ブブォオォオォォオォォオォォオォン』

 ……そうかい、もうアタイには乗ってくれないんだね


 悲しみのからぶかしが村に響き渡る。これはもう選択は一つしかないのか。


「そ、そんなことないぞっ、いやぁ、助かるな、ダビ子。やっぱり俺、急いでたんだっ」

『ブブブンッ! ブオン、ブオォオオオォオォオンッ!!』

 そうかいっ! じゃあ、しっかりつかまっときなっ!!


 や、やめてぇ! 村の中を全力疾走しないでぇ!!

 あ、当たるっ、村人轢いちゃうよっ!?


『ブブブブブブンっ!』

 まだまだいくよっ!

「いやぁああああっ! いかないでっ!!」


 通り過ぎていく村人たちの顔が風圧で歪んでいる。こわい、こわい、こわい、こわい。


「ぶももっ!!」

「今、なんか轢いたよっ!!」

『ブオオォオォォオォォオォンっ!』

 アレは轢いてもいいやつだよっ!

「ダメだよっ! ミノタウロス轢いちゃダメだよっ!!」※


 激走するダビ子は止まらない。

 買い物は、あっ、という間に終わったが、普通に歩くよりも格段に疲れてしまった。


「あ、ありがとうな、ダビ子」

『ブン、ブブン、ブォンっ」

 おう、またな、タクミっ


 満足気に排気音を鳴らし、左右に揺れながら去っていくダビ子。


 洞窟まで送ってもらったので随分早く帰ってこれた。夕飯の準備の前に昼寝でもしよう。


「……なにか忘れてるような気がするけど、メモに書いた食材は全部揃ってるし、気のせいかな?」



 魔剣カルナの事を忘れていたのに気付いたのは、もうどっぷりと日が暮れてからだった。




 ※ソネリオンは、タクミからソッちんと呼ばれないと無視します。

 ※ ソッちんと呼ばれるようになったエピソードは、「第四部 転章 百三十七話 武器商人の小さなお願い」に載ってます。よければご覧になってみて下さい。


 ※ ミノタウロスは「第六部 裏章 レイアとロッカ」でもタビ子に轢かれてます。



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