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二百三十七話 かわいい宅急便

土曜日間に合いませんでした。すみません。

 

「ん? なんだ、あれ?」


 レイアの引っ越しが終わった翌日の朝。

 一羽の大きめの伝書バートが飛んできて、洞窟の前に小包を置いていった。


 荷物など、この洞窟に来てから15年間、一度も届いてない。

 手紙ですら、5年前に一度、バルバロイ会長から届いたぐらいだ。


「い、いやな予感がするな、また十豪会や大武会の招待じゃないだろうな」


 恐る恐る小包に触り、軽く振ってみる。

 カサカサと音がするが、爆発物とかではなさそうだ。

 でも、やっぱりロッカに開けてもらおうかな。ちょっと怖いし。


「ち、ちぃ」

「えっ!?」


 蚊の鳴くような声だが、確かに聞こえたっ! こ、この声はっ!!


 小包の包装を乱暴に破って、封を切る。

 両開きの箱を、慌てて開けると、そこには……


「ヌ、ヌルハちぃっ!!」

「ち、ちちぃ」


 ああっ、ごめんっ、小包を振ったから目がまわっているっ!

 でもなんで? 転移魔法も使えるヌルハチがどうしてヌルハちぃになって小包で送らせてきたんだ?


 おが屑の中から、そっ、とヌルハちぃを優しく取り出すと同時にポトリと何かが地面に落ちた。


「手紙? ルシア王国の家紋の封蝋ふうろうがされている。サシャからか? いやこれは……」

「ちぃ」


 封を開けると、そこには三歳児くらいが書いたようなぐっちゃぐちゃな文字が書かれている。


「もしかしてこれ、ヌルハちぃが自分で書いたのか?」

「ちぃ!」


 いやそんなふうに俺の手のひらでドヤ顔されても、半分くらい読めないんだけど。わかるとこだけ要約すると……


『レイア、かっとされた、魔力なくなて幼女、みんなもどた、ヌルハチもどらない、ヌルハちぃになた。どゆこと?』


「つまり、レイアに魔力をカットされて幼女になったけど、カット能力の効果が切れて他のみんなは元通りになった。それなのに、ヌルハチだけ戻るどころかさらに悪化した、ってこと?」

「ちちちぃ、ちちぃっ!!」


 うん、正解ぽい。


「いや、けど、俺、魔法関係わかんないし。あっ、ロッカならわかるのかな? 魔法そのものみたいだし」

「ちっ、ちちぃ、ちっ」


 露骨に嫌な顔をするヌルハちぃ。

 そういえば、ヌルハチの時にロッカと戦って撃退されてたな。


「大丈夫だよ。ヌルハチとヌルハちぃは、全然違うから。ロッカも小さくて可愛いヌルハちぃになら、協力してくれるよ」

「ち、ちちちちぃ ……ちぃ」


 可愛いと言われて照れているのか。

 小さい顔を真っ赤に染めてもじもじしている。うん、可愛い。


「タクみんっ、レイア様に注意してほしいでござるっ! いくら戻しても拙者の荷物をヌルハちぃハウスに運びやがるでござ…… あれ? それは、ヌルハちぃ?」

「ちぃ」

「おお、ロッカ、いま呼びに行こうとしてたとこなんだ」


 なんて都合のいい展開。ナイスタイミングだ、ロッカ。


「なんで大賢者までいるのでござるか、だ、誰が来ても拙者の部屋は譲らないでござるよっ!」

「いやいや、そういうのじゃないんだ。レイアのカットがなくなったのにヌルハチだけ元に戻れなくて困ってるらしいんだ。もしかしたら魔力が影響しているかもしれないし、ロッカなら解決できるんじゃないか、と思って」

「むぅ、戻ったらさらに洞窟が狭くなるでござるが…… タクみんのお願いなら仕方ないでござるよ」


 ロッカが俺の手のひらから、ヌルハちぃの首ねっこを掴んで持ち上げる。


「ち、ちちぃっ!」

「ロッカ、優しくなっ、落とすんじゃないぞっ」

「なるべく気をつけるでござる」


 くっつきそうになるくらい目の前にヌルハちぃをぶら下げ、じーー、と見つめるロッカ。


「むむむ、どうも魔力がなくなっているのはレイア様のカット能力のせいではないでござるよ」

「え? じゃあどうしてヌルハチはこんなに可愛いヌルハちぃに」

「ちぃ♡」

「むぅ」


 可愛い発言にうっとりするヌルハちぃとむくれるロッカ。


「……かなり大きい魔法を使った痕跡があるでござる。これは拙者と同じ禁魔法、『星海スターオーシャン』の代償でござるな」


 え? 始まりの禁魔法、星海スターオーシャンっ!!


「ヌ、ヌルハちぃ、禁魔法なんてつかったのかっ!?」

「ちちぃ〜」


 レイアに指でつままれたまま、腕を組んで胸を張るヌルハちぃ。うん、褒めてはないよ。


「ヌルハちぃはリンと同じように魔法が使えなくなってるのか?」

「同じ禁魔法でも代償の種類は違うみたいでござるな。魔法がつかえないというより、魔法使いになる前に戻っているみたいでござるよ」


 魔法使いになる前に?

 魔法使いになる前、ヌルハチはヌルハちぃだったのか?

 いや確かヌルハチは生まれた時から膨大な魔力を持っていたはずだ。

 魔法使いでなかったヌルハチなど存在しないから、ヌルハちぃというイレギュラーなものへと変わってしまったのか。


「で、どうやったら元にもどるんだ?」

「どうやっても元には戻らんでござるよ」

「……」

「……」

「ちぃ」


 


「……ん?」

「……え?」

「……ちち?」


 ええっ!! ヌルハちぃ、ずっとこのままなのっ!?


「えっと、ほらほら、やり直したりとか、禁魔法を使ったのカットしたりとかさ、そういうので治らないの?」

「禁魔法に禁魔法は効かないでござるよ。だから拙者にはどうすることもできないでござる。レイア様のカットも禁魔法だけは無かったことにはできないでござるよ」※

「じゃあ、ヌルハチはずっとヌルハちぃのまま……」

「ちちぃっ」


 わかっているのか、いないのか、ヌルハちぃは、なんだか元気だ。


「ああっ、もしかしてヌルハちぃ、小さいままだと、タクみんとずっと一緒にいれて可愛がってもらえると思っているでござるなっ!!」

「ちっ! よけいなことを…… んんっ、ち、ちちちぃ」

「タクみんっ、コイツ、いま普通に喋りやがったでござるよっ!」

「え? そ、そう? き、聞こえなかったよ?」

「ちくしょーーっ、でござるよっ!!」


 うん、可愛いままがいいから、黙っておこう。


「ちちちぃ」


 ヌルハちぃが俺の手のひらに戻って、指にきゅぅっとハグをした。



※ ヌルハチがレイアに禁魔法を使ったお話は、第七部 一章「閑話 レイアと大賢者」に載ってます。よければご覧になってみてください。

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