閑話 ロッカとアリス
これが夢だということはすぐに理解できた。
見たことがないような美しい光に包まれている。
赤青黄緑紫、様々な色の光がめまぐるしくうつり変わりながら、どこまでも続くような白い空間を照らしていた。
「まるで虹の中にいるみたいでござるな」
「ブルーライトというらしい」
幻想的な光景の先に一人の女が立っていた。
風になびく金色の髪は、照らされる光よりも美しく、青い瞳は宝石のように輝いている。
銀の鎧を身に纏い、大剣を背負ったその姿は、まるで神話に出てくる女神のようで……
「えっと、神様でござるか?」
「ちがうよ、アナタと同じ、ただの人」
ただの人間なはずはないでござるよ。
これが夢だとしても、ハッキリと確信したでござる。
拙者がまるで敵わないほどの強者。
これほどまでに圧倒的な実力差を感じたのは、タクみんを除いて初めてでござるよ。
「……名前を聞いても良い、でござるか?」
「アリス。もっともこちらでは1005と呼ばれているけど」
ア、アリスっ!!
この人がタクみんの一番弟子でござるかっ!?
まさか、拙者との間にこれほどの差があったとはっ!!
「い、いや、これは拙者の夢でござる。拙者が勝手にイメージを膨らませて、強くしているだけで……」
「これ、夢じゃないよ。アナタが永遠の場所と繋がったから、強制的に呼ばれたの」
???
何を言っているのか、ちんぷんかんぷんでござる。
やっぱり夢だから、支離滅裂なんでござろうか。
「まあ、深く考えなくていい。ここでの出来事は帰ったら、ほとんど覚えていないから。でも、ロッカ、アナタとは少し話してみたかったんだ」
「ほほう、それはもしかして、恋バナというやつでござるか?」
「恋っ! ……いや、ちがうぞ。その魔力の根源や、第六魔法としての在り方を……」
「そんなのより、拙者、二人でタクみんとのことを話したいでござる」
永遠の場所とかはサッパリでござるが、こっちのほうは拙者、得意分野でござるよっ!
「まあ、そうだな。タクミの話も重要なファクターだ。だが決して恋バナとか浮ついた話ではない。この世界の、物語が続いていく為の、大きな流れをタクミが担っているということを……」
「ふむ、つまりアリス様はタクみんのことが大好きなのでござるな」
「……」
平静を装っても無駄でござるよ。
同じタクみんを愛する者として、隠しきれない愛情が溢れまくってるでござる。
「どこまでも真っ直ぐだな。うらやましいよ、ワタシやレイアはそんなふうにできなかった」
「そっちのほうが不思議でござるよ、それほど膨大な愛をよく内に留めておけるでござるな」
想い続けた年月でござるか。
拙者はまだそこまでの域には達していない。
だが、いずれはそれも抜き去って、拙者のタクみん愛が宇宙一になるでござるよ。
「そうだな、いつか、なんの制約も無くなったら、ワタシも参戦する。それまでアナタに預けておくよ」
「制約? まだ何かあるでござるか?」
「物語の制約。その世界には主人公がいて、常に物語が進行していないといけない。何もない平穏な日常だけが続けば、アップデートは行われず、やがて消滅してしまう。めでたしめでたしで終わった物語は、ずっと平和な世界が続いていくんじゃない。そこで打ち切りだ」
ふむ、やはり恋バナ以外は全然わからんでござる。
「そんなの気にしないで戻ってきたらいいでござろう。それに拙者とタクみんがいれば、どんな危機が迫って来てもへっちゃらでござるよ」
今回も魔力が無くなって、かなりヤバかったでござるが、なんとかなったでござる。
「そういえば、拙者の魔力はこの場所から来ているようでござるな。もしかして、タクみんではなくて、アリス様が繋げてくれたのでござるか?」
「違うよ、上位世界への接続なんて、ワタシにも、タクミにもできない。さらに上の存在、永遠の場所を超える最高位の者が助けてくれた」
最高位?
超宇宙であるタクみんより、上の者が存在するでござるか?
『わふっ』
「ん? 何か言ったでござるか?」
「……聞こえた? 認識できないはずなのに。数字だったワタシと魔法だったアナタ、似たような存在、ということか」※
似ている?
確かに髪色は同じ金髪でござるが……
「とりあえず、誰だかわからんでござるが、助けてくれてありがとうでござる」
小さい気配が、フリフリしながら遠ざかっていく感覚。
「さて、そろそろ時間だ。今回の物語は早く終わった。いつもの三分のニほどか。残った三分の一は、のどかで平和な日々が過ごせるはずだ」
「そ、それは、タクみんとただひたすらイチャイチャ過ごせるということでござるかっ!?」
「……ふっ、そううまくいくといいけどな」
初めて見るアリス様の笑顔。
その美しさに、不覚にもちょっとドキドキしてしまったでござる。
「あまり油断しないほうがいい。タクミの周りの者たちは、みんな、一筋縄ではいかないからな。油断していると足元をすくわれるぞ」
「油断しているのはアリス様でござろう。拙者にタクみんを預けるなど、余裕ぶったこと後悔させてやるでござるよ」
「ふっ、ふふふ」
「ふひひ、でござる」
数字と魔法の笑い声は、ブルーライトの光の下、いつまでもぎこちなく続いていた。
※ アリスが数字だったお話は、「第六部 終章 二百七話 1005」に載ってます。よかったらご覧になってください。




