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二百三十二話 領域

コロナ陽性になり、先週はお休みさせて頂きました。

ご心配をおかけして申し訳ありません。

応援してくださった皆様ありがとうございます。

本日からまた頑張っていきますので、これからもよろしくお願い致します。

 


「だからぁ、俺は……どんなおっぱいでもおっぱいが好きなんだよっ!!」

「……」

「……」


 タクミさんが久しぶりに、自分の性癖を暴露する。

 懐かしい空気に、心が過去を抱きしめる。


「……お、おっぱい星人だったでござる」


 崩れ落ちるロッカを見て、ほくそ笑む。

 私ならタクミさんのすべてを……


「ぐっ、そ、それでも拙者、ギリ受け止めるでござるよっ!!」


 ……強い。

 肉体だけではなく、挫けない精神も持っている。


「……ただの魔法ではなくなった、ということか」


 ロッカは、かつて私がいた場所を容赦無く奪い、タクミさんの隣に存在している。


 もう一度そこに帰りたかった。


 バレたら、タクミさんに嫌われるかもしれない。

 それでも、サシャの人生をカットしてまで禁魔法の封印を解き、六老導まで利用した。

 なのに、どうしてだ。

 どうして、お前は、なんの努力もせず、ただヘラヘラとタクミさんの隣りで笑っていられる。


『レイアが今回のラスボスでよかった。きっとまたハッピーエンドだ』


 無理ですよ、アリス様。

 私はアリス様のように他の誰かがタクミさんの隣にいることを許せない。


「悪いけど、ハッピーエンドにはなりそうもない」


 すっ、と腰に刺していた刀を横に抜く。

 真っ黒い刀身から、さらにドス黒い瘴気しょうきのような煙が立ち上った。


「っ!! この気配はっ!?」


 さすが、タクミさんだ。

 性質は変わっていてもすぐに気がついた。


「レイア、その刀はっ!?」

「はい、カルナさんが入ってます」


 そう、タクミさんが持っている魔剣の中身はカルナじゃない。

 私が適当な神様を入れ込んだダミー品。

 本物は、この刀に移してずっと力を貯めていました。


「ど、どうして?」

「どうして? だって、これ、タクミさんが与えてくれた修行じゃないですか」


 今も、昔も、これからも、ずっと私はタクミさんの弟子なんですよ。

 そんな、チンチクリンな魔法じゃなくてっ、私がっ、私が、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、タクミさんの弟子なんですよっ!!


 いつのまにか、声に出したはずの言葉は、ただの咆哮に変わっていた。

 もう自分を止めることができないみたいだ。


「下がったほうがいいでござるよ、タクみん」

「え?」

「これ以上、タクみんが何か言うと壊れてしまうでござるよ」


 壊れる?


 壊れているのは、魔法のくせに意志を持ったお前のほうだっ!!


 獣のような雄叫びをあげ、ただ真っ直ぐに、一直線に突っ込んでいく。

 刀から漏れた黒が空中に線を引き、境界線を描くように、そこに残った。


「参る、でござる」


 臆することなく、堂々と、タクミさんを守るようにバスターソードを構えて前に立つロッカ。

 出会った頃の、何も考えてなかった若い私がそこにいる。


 そこは……

『そこは……』


 刀の奥から声が響く。


 私のものだっ!!

『うちのもんやっ!!』


 刀を持った手から全身へ。

 邪龍カルナと同調し、全てが黒に染まっていく。


「うおりゃあぁァアアアアっ、でござるっ!!」


 振るったのはお互い一刀。

 ロッカは上段から下段へ振り下ろし。

 私は左から右へ横一文字に薙ぎ払った。


 黒線こくせん


 大切断オールカットを取り込んだカルナの黒が、線を引いた部位を次元ごと切断する。


 ロッカのバスターソードは、手元から、斜めに、すとん、と綺麗に別れて地面に落ちた。


「さすが、でござるな」


 剣の残骸ざんがいを放り捨て、拳を構えるロッカ。

 自らが斬られたことに気づいているのか? いないのか?

 黒線は、確実にバスターソードごと、その身体を真っ二つにしていたはずだ。

 なのに、何事もなかったように、平然とそこに立っている。


 ロッカの背後から六枚の花びらが、ばっ、と翼のように広がった。


 魔法による防御?

 違う、ロッカは魔法そのもので、そんなものを使った痕跡はない。

 溢れる魔力が、自動オートで身体を修復するのか。

 ならば、その花をすべて散らすしかない。


 黒線蓮弾こくせんれんだん


 縦に、横に、斜めに、縦横無尽に。

 刀で作った無数の黒線が、狭い地下室を覆い尽くす。

 ロッカ以外に、何か大切なものがそこにあったような気がするが、それが何かも思い出せない。

 今はもう、目の前のものをバラバラにすることしか考えられなかった。


「ふんぐっ!!」


 全部はかわせなくても、いくつかの黒線はかわせたはずだ。

 なのに、ロッカは誰かを守るように、両手を広げ、すべての黒線を真正面から受け止める。

 魔力が飛び散り。六枚の花びらは、見るも無惨に、ボロボロに刻まれていく。


「ロッカっ!!」


 誰の声だかわからない。

 でも、その声はいつも私の名前を呼んでくれていた気がした。

 そして、もう二度とそんなふうに呼ばれることはないのだろう。


 極黒線ごくこくせん


 黒い力がさらに増幅し、黒い線はさらに太く、ドス黒く、世界のすべてを拒絶する。


『それでは今夜はもう休むとしよう。そこからこちらがレイアの領域だ』



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 それは、かつて洞窟の床に引かれた線に、とてもよく似ていた。









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