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三百三十一話 性癖デジャヴ

 

「タクみんは、拙者のものでござるよっ!」

「タクミさんは、私のものですっ!」

「い、いや俺は誰のものでも……」


 どんっ、とロッカが大きく踏み込んでレイアに迫る。


「はんっ! なんでござるかっ、『タクミさん』なんて呼び方、ヨソヨソしい。拙者の『タクみん』なんて超フレンドリーでござるよっ!!」

「はうっ!」


 レイアが胸を押さえてひざまずく。

 え? ダメージうけてるの?


「くっ、確かに呼び方がフレンドリーなのは認めざるを得ない。でも、そう呼んでいるのはあなただけで、タクミさんは普通にロッカとしか呼んでないわっ」

「む、むむぅ」


 今度は立ち上がったレイアが、どどんっ、とさらに大きく踏み込んでロッカに迫る。


「私はタクミさんに、『レイアント』とずっとあだ名で呼ばれていましたっ!!」

「ぐはぁっ!!」


 ロッカが吐血しながらうずくまる。

 ええっ!? そ、そんな大きなダメージが入るのっ!? レイアントでっ!?


「ま、負けないでござるよっ、拙者もいつか『ロッカちん』と呼ばれる日が来るでござるよ」


 フラフラになりながら、かろうじて立ち上がるロッカ。

 うん、そんな日は永遠にこないからね。でも今言ったら死にそうだから黙っておこう。


「……それに拙者、絶対タクミ領域(フィールド)を超えて、タクみんとピッタリくっついて寝たことがあるでござるよっ!!」※1

「ごぱぁああっっ!!!」


 レイアが後方に大きく吹っ飛んで、地下室の壁に激突する。

 そ、それ、自分で飛んでるよね?


「バ、バカな、私ですら超えたことのない絶対タクミ領域(フィールド)をっ、ど、どうやって……」


 カット能力を有し、無敵とさえ思えたレイアがボロボロになっている。

 ただロッカの寝相が悪かっただけなのに、レイアが今にも敗北しそうだ。


「愛の力でござるよっ! 拙者のタクみんを愛する力で、絶対タクミ領域(フィールド)を無効にしたでござるよっ!」

「うわぁあああああああっーーー!!」


 うん、無効もなにも元々存在しないからね、絶対タクミ領域(フィールド)

 それでもレイアには確実なダメージが入っているようで、バキバキと身体が内部から破壊される音が聞こえてくる。こ、こわいよ。


「ぐぐぐっ、あの境界線を乗り越えるとはっ、うらやまっ……ちがうっ、許せないっ!!」

「ふふふん、でござるよ」


 壁にめり込んでいたレイアが、渾身の力を込めてはいでてくる。


「でも私とタクミさんは、物理的に離れていても心は一つ。なぜなら、私が降ろした神がタクミさんの中に入っているからです! これはもう私とタクミさんが合体しているといっても過言ではありませんっ!!」

「げぼぉああっっ!!」


 今度はロッカがレイアと真逆の壁に吹っ飛んで激突する。


 いや過言だって…… 合体はしてないから。


「レ、レイア様の中にいた神が、タクみんの中を出たり入ったり……や、やらしいでござるっ、ぐふっ」


 うん。出たり入ったりもしてない。


「……でも大丈夫でござるっ」

「なんだとっ!?」

「タクみんはっ、タクみんはっ、大きいのが好きだと聞いているでござるよっ!!」


 瓦礫を吹っ飛ばし、ロッカが両手を広げて、ばーん、と復活する。


「ど、どこからそんな国家機密レベルのタクミさん情報をっ!?」


 なんで俺の性癖が世界レベルまで発展してるんだよ。


「チョビ髭から聞いたでござるよっ!!」


 あ、あいつ、い、いらんことをっ。


「た、確かにタクミさんは自他共に認める大きいの好き……」


 いや、だから別に大きいのが好きなわけじゃないて。


「加えて私の胸は、まるでカットされたかのような断崖絶壁」


 そ、そこまでカットしなくていいんじゃない? まあ、余計なことは言わないでおこう。


「だけど……」


 ん? レイアの頭からモウのようなツノが生えてきてるぞ。

 あ、あれ? 心なしか胸が膨らんでいっているような?


「だけど私には牝乳神スラビーを降ろして大っきくすることができるのですっ!!」

「それはずっこいでござるっ!!」


 おっきくなったレイアを直視できないのか。

 ロッカがまぶしそうに目を細めて突っ込んでいる。


「そんな反則で大きくなってもタクみんは、喜ばないでござるよっ!!」

「何を言うのですかっ、タクミさんのあの顔を見なさい! いつも精悍で凛々しいお顔が、だらしなく崩れているではありませんかっ!!」

「タクみんの顔はいつもあんなもんでござるっ!!」


 なんか2人とも何気にディスってない?? 


「いいえっ! あの顔は「スケベ猛反省中」のプレートをかけていた時と同じ顔ですっ! そんなこともわからないとはっ、まだまだアマちゃんですね、ロッカっ!!」


 なにこれ、俺にまでダメージが飛び火してきたんじゃない?


「ま、まさか、拙者のタクみんが、そんなにおおきいのが好きだったなんて……」


 ぐしゃっ、と倒れるように崩れ落ちるロッカ。

 いやぁああああ、ロッカ負けないでっ!

 このままだと、俺、巨乳好き変態になってしまうよっ!


「タ、タクみんは本当に」


 ギギギ、と壊れかけたロボットみたいに、ゆっくりとロッカがこちらに首を回す。


「おっきいのが好きなのでござるか?」

「ちがっ、俺はっ」

「……大きいの、好きですよね」


 有無を言わさない、レイアのプレッシャー。

 何コレ? ドウシテコウナッタ?


「いやだから俺は……」

「だからなんでござるかっ!?」

「なんですかっ、タクミさんっ!?」

「だからぁ、俺は……どんなおっぱいでもおっぱいが好きなんだよっ!!」

「……」

「……」


 なぜか俺の性癖紹介は、どんな事態をも収束してしまう力があるようだった。※2


※1 タクみんとロッカがピッタリくっついて寝るエピソードは、第七部 新章「二百十一話 タクミ領域」をご覧になってください。


※2 事態を収束させた前回の性癖紹介は、第四部 序章「百九話 二回目のおつかいインフィニティ」をご覧になってください。


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