二百二十五話 脱皮
床に散らばった瓦礫の隙間から、何かの模様が見える。
三角形を上下に重ねた星のようなもの、六芒星とかいうものだろうか。
「ここは?」
「西方ウエストランドの王城、マジックキングダムの地下室よ。随分と派手に壊れてるけど」
また、えらいとこに転移したもんだ。
敵の本拠地ど真ん中じゃないか。
「だ、大丈夫なの? こんなところにいきなりやってきて」
「仕方ないのよ。この転移磁針、決められた場所にしか飛べないから」
シャサが諦めたように、深いため息をつく。
「できれば、誰もいないことを望んでいたけど、そうもいかないようね」
「え?」
辺りを見渡すが何も見えない。
俺たち以外誰もいないよね?
「ほう」「我らの姿が」「見えているのか」「不可視の魔法が」「効いてないのか」
姿は見えないのに、それぞれ違う5人の声が一息に聞こえてくる。
「き、気持ち悪っ、なにこれ? 幽霊っ!?」
「六老導よ。魔法で姿を消してるだけ。イップクがいないから、1人足りないけど」
い、いきなり5人かっ!?
イップクの大睡眠だけでも大苦戦したのにっ!!
「魔法が使えないはずなのに」「なぜ」「変身できておるのか?」「お主は本物のサシャ様では」「なかろうに」
あ、本当だ。今までまったく気付かなかった。
すべての魔法が使えないなら、変身の魔法など使えるはずがない。
ん? あと、いま、サシャ様って言った?
こいつら、サシャのこと知ってるのか?
「別に魔法でなくても変身できるし、魔法が使えなくても、あなた達に勝つこともできるわ」
「くっくっくっ」「イップクに勝った程度で」「調子にのりおって」「イップクは我ら六老導の中でも」
え? あれで一番弱いの? だったらさすがにこの5人にはっ!
「最強」
「最強なのっ!?」
お、思わず叫んじゃったよっ。
まあ、そうか。
一番強いのがやられたから、残り全部で待ち構えていたのか。
「そうね、でもそのイップクでさえ、もう大睡眠など使えないくらい老いていたはず。誰があなた達を若返らせたの?」
「ふふ」「それは」「我らの」「新しい」「王」
こいつらが西方の王ではない?
まだ黒幕が存在しているのかっ!
「どうやら簡単に封印は解かせてくれないみたいね」
「禁魔法は」「禁じられた」「ままでよい」「あれは人には」「過ぎた力よ」
うん、そこはちょっと賛成。
緑一色とか、絶対使っちゃダメなやつだもん。
「バカバカしい。だったら、どうして一番危険な六つ目が発動してるの?」
「それは」「我らの」「預かり」「知る」「ところではない」
ざっ、ざっ、ざっ、と俺たちの周りを走る音がする。
姿の見えない六老導たちが、円を囲みながら近づいきているようだ。
「私の後ろにピッタリ張り付いてて。ほとんどの魔法はそれで防げる」
「ほ、ほんとに? めっちゃ怖いんだけど。もう謝っちゃおうよ」
「大丈夫よ、2人で戦って負けたことないから」
ああ、確かに。
なんだか、シャサの背中に隠れていると凄く安心する。
「あれが」「超宇宙」「タクミ」「なぜに」「戦おうとしない?」
うん、まったく見えないし、戦うとか無理だからね。
「あんたらごとき、私1人で十分だってさ」
「おのれ」「我ら」「六老導を」「舐めおって」「石海っ!!」
ぶわっ、と地面に散らばっていたすべての瓦礫が一斉に宙に浮く。
それが空中で花火のように爆ぜ、細かくなった小石が超スピードで降り注ぐ。
「星海の劣化版かっ! 伏せて、タクっ!」
そういえば、イップクも緑一色の劣化版を使っていた。
こいつら、全員、禁魔法に近い魔法を使ってくるのか!?
ガガガがガガガがっ、と雨のように降り注ぐ石礫を、シャサが両手を広げて身体で受け止めていく。
いや、正確には、シャサに当たる寸前に、さらに粉々になり、砂のように崩れて消えていた。
「す、すごいな、本当に魔法効かないんだな」
「油断しないで、まだ終わってないっ」
確かに、石礫はしつこいくらいに止まらない。
でも、当たる前に消滅するなら、そんなに怖くは……
「っ!? シャサ、潰れない石がっ!!」
「ちっ!!」
降り注ぐ小石に紛れながら、正面から拳大の大きな石が、シャサの顔面めがけて飛んでくる。
ギリギリのところで、顔をずらして避けようとするが、石はシャサの額を、カッ、とかすめていく。
「なに? 普通に石を投げてきたの? 魔法使いのプライドはどこにいったの? サンポ」
「数千年に渡り」「大賢者に」「なりそこねた」「我らに」「あるはずもなしっ」
石の雨が降り注ぐ中、シャサの拳が、ぐっ、と握られる。
「シャサ、額に傷がっ!!」
「平気よ、中身は大丈夫」
あ、あれ? 確かに血がまったく出ていない。
べろん、とひらいた、おでこの傷の向こうに、また別の色の肌がのぞき見える。
「なるほど」「人面マスクか」「変身して脱皮した」「ゴブリン王の」「皮を被っておるのかっ」
お、おおう。
そういやそれ、『彼女』を騙すときにも使ったな。※
「ここまでね。もう少しシャサでいたかったけど」
傷ついたサシャのマスクが、ズブズブと溶けるように崩れていく。ゴブリン王のマスクは、傷つくことによって解除されるのか。
「やはり」「貴様か」「かつての」「天才」「魔法使い」
禁魔法の一つ、世界逆行を使った天才魔法使い、リンデン・リンドバーグがそこにいた。
※ ゴブリン王の脱皮で『彼女』を騙すエピソードは、第六部 五章「二百一話 セーブとロード」に載ってます。よかったらご覧ください。




