二百二十話 緑の国
「タクミ、六老導の意識が戻ったわ」
お弁当が完成した頃、シャサに気絶させられた六老導のおじいちゃんが目を覚ました。
「ロッカとクロエはまだ目を覚さないのか?」
「ええ、しばらく寝てると思うわ。かなり強力な魔法だから」
どれだけ強い者でも寝てしまったら、無抵抗のうちにやられてしまう。
ほとんど無敵だったロッカがまったく役に立たなくなるとは、六老導恐るべし。
「聞きたいことがあったら、次の刺客が来る前に聞いておいたほうがいいわね。話すかどうかわからないけど」
ロープでぐるぐる巻きに縛られて、ハゲ頭に禁と書かれたお札を貼られているおじいちゃん。
「これ、魔法封じてるの?」
「簡易的にね。10時間くらいしか持たないから、二人が起きたらすぐに出発しなきゃ」
確かに、また大睡眠を使われたら厄介だ。
頑張ったハルを起こしたくないし、いまのうちに聞きたいことを聞いておこう。
「あー、おじいちゃん、えっとお名前は……」
「イップクとお呼び下さい、超宇宙タクミ」
一服か。睡眠の魔法と合わせて、お似合いだな。
縛られて魔法を封じられても、どこか余裕があるように見えるのは気のせいだろうか。
「さっきは話の途中だったけど、禁魔法を使うと世界に重大な影響が及ぶって言ってたよな。具体的にはどういうことになるのか、教えてくれないか」
「ええ、ええ、それは是非に。ただ、わたしが知っているのは、禁魔法のうちの一つ、緑一色だけですが……」
そういえば、大睡眠は緑一色の劣化版と言っていたな。
「うん、いいよ。それだけでも教えてくれ」
「ええ、ええ、お聞きくだされ。大精霊魔法、緑一色の恐ろしい代償を」
大精霊魔法。
つまり『彼女』が考えた魔法か。
確かにちょっと嫌な予感がする。
「緑一色は、平和の魔法と呼ばれております。その効果が発動すれば、どれだけ争っている人々でも、心に緑が溢れ、闘争心が消えていくのです」
「え? めっちゃいい魔法じゃないか。うまく使えば世界が平和に……」
「いえ、そうはなりませんでした」
俺が言い終わる前に、イップクが言葉をかぶせる。
「まだ世界が五つの国に別れていなかった時代。強大な二つの国が百年にも及ぶ戦争を繰り広げておりました。それを解決しようと、中立の立場だったかつての大賢者が、一度だけ緑一色を使ったとされています」
かつての大賢者? ヌルハチが生まれるより前の時代か。
「長きに渡った戦乱は、その瞬間に終わりを告げました。子々孫々、何代にも渡り続いていた怨恨は全て絶たれ、敵対していた兵士たちは、手を取り合い、平和を誓い合ったのです」
「おお、やっぱり完璧じゃないかっ」
「いえ、問題はこれからでございます。失われたのは闘争心だけではなかったのですよ」
闘争心だけじゃない? なんだ? なにか大切なものも失ったのか?
「緑一色をかけられた兵士たちは、闘争心と同時に様々な活力も失われていきました。だんだんと動くことすら億劫になり、やがては食べることすら、放棄してしまいました」
「そ、それ、死んじゃうよね?」
「いいえ、その頃には日に当たるだけで光合成ができる身体になっておりました。つまり、全ての兵士たちは争いのない植物のように生まれ変わってしまったのです。ゆえに緑一色。ルシア王国に広がる大草原は、かつての兵士たちだったと言われております」
こ、こわっ!
やっぱり『彼女』が考えた魔法はろくなもんじゃない。
「どうですか? 超宇宙タクミ、この話を聞いても、まだ禁魔法を解放なさる、おつもりでしょうか?」
「え、ええっと、シャサ、こんなに危ないって知ってた? やっぱり解放するのやめとく?」
「やめないわ。私は禁魔法を解放すると言っただけで、それを使用するとは言ってない」
ん? 使わないのに解放? どういうこと?
「……五つの禁魔法を解放するだけ? なぜ、そんな意味のないことを……」
「違うわ、イップク、あなたは知っているはずよ、五つの禁魔法を解放すれば、六つ目の禁魔法が解放されることを」
「っ!?」
余裕の表情を浮かべていたイップクの顔が、驚いた表情のまま固まった。
え? 六つ目っ!? 五つじゃなかったのっ!?
そもそもタクミポイントで、一日限定のパーティーを組んで冒険に行くだけだったはずなのに。
それがサシャは偽物だし、魔法王国トップのおじいちゃんは絡んでくるし、オマケに人間緑化みたいな禁魔法とか出てくるし……
てか、たった一日で、そんなにいっぱいの禁魔法、解放できるの?
「バカなっ、どこからそんなことをっ、六つ目の禁魔法は秘匿中の秘匿。それを知ることが出来るのは…… ぐふっ!?」
「はい、もういいわ」
また何か大事なことを言う前に、気絶させられるイップク。
「お、おい、シャサ」
「いいのよ、タクミは細かいことは気にしないで。心配しなくても世界の理は乱さない」
し、信じていいのだろうか。
緑一色の代償を聞いた後だと、素直に頷けない。
「もし危険だと感じたら、タクミポイントなんて関係ない。俺がなんとしても君を止めるよ」
まあ、主にロッカやクロエやハルたちが止めるんだけどね。
「ええ、それで構わないわ。あなたに止められるなら本望よ」
夜が明け、洞窟の入り口から光が降り注ぐ。
逆光で顔が見えなくなったのに、本当のシャサの顔が見えた気がした。




