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二百十六話 はじめてのおつかい タクみん編

 

「タクみんは旅の準備しないでござるか?」

「ああ、うん、そうだな。久しぶりの冒険だからなぁ」


 禁魔法解放の一日限定パーティーが結成され、皆がそれぞれ旅の準備をしているが、俺だけ特に用意するものがない。

 腰にいつも帯刀していた魔剣カルナも、封印が解けて戻ってしまった。


「ロッカは荷物それだけなのか?」

「拙者はこの剣だけで大丈夫でござるよっ」


 北方からここに来るまで、バスターソードだけで獣を狩りながら自給自足でやってきたらしい。実に頼もしい。


「うーん、俺も新しい剣や盾を持っていったほうがいいのかなぁ」

「おおっ、それならば拙者がふもとの村に行って買ってくるでござるよっ」

「おっ、それはありがたいな。そうだモウ乳が少なくなってきたから、それもついでに…… はっ!!」


 いきなり走馬灯のようにレイアとの思い出が蘇る。

 はじめてのおつかい、2回目のおつかい、3回目のおつかい。

 どれもとんでもない大騒動になったじゃないかっ。


「い、いや、やっぱりここは自分で見てこようかな。インスピレーションとか大事だし」

「ええっ、はじめてのおつかい、楽しみでござったのにっ! タクみんのために、死ぬ気で宇宙最強の剣を探してくるつもりだったでござるっ!!」


 うん、やっぱりやめといてよかった。

 準備のはずが、本番の冒険より大変なことになる予感しかしない。


「とりあえず、留守番を頼むよ、ロッカ。サシャも、いやサシャじゃないのか。出発までちょっと待っててくれないか」

「サシャでいいわよ。別の誰かを演じるのは、慣れているから」


 変身系の魔法が得意な人なのか。

 いいと言われても偽物とわかっていてサシャと呼ぶのは抵抗がある。


「とりあえず反対でシャサと呼ばせてもらってもいいかな?」

「あら、良いわね。そのままその名前で生きていこうかしら」


 どこまで本気かわからないが、俺がつけた名前を本当に喜んでいるように見える。


「あと、タクミポイントの一日パーティーは、準備が終わって出発してから24時間の契約だから、買い物はゆっくりで大丈夫よ」

「そうか、でもすぐに帰ってくるよ。昼すぎに帰ってこれたら、そのまま出発しよう」


 そう、俺はこの時点で、まさか自分がレイアの二の舞を踏むとは思ってもみなかった。



 ど、どうしてこうなった。


 俺が帰って来たのは夜もふけ、辺りが暗くなってからだった。

 あまりに遅いからロッカが迎えに来ようとした直前で、なんとか到着する。


「た、ただいま」


 ロッカと目を合わせられない。

 トラブルを避けるために自分で行ってきたというのにっ。まさかこんなことになってしまうとはっ。


「お、おかえり、でござる」


 ロッカが動揺して目をパチクリさせている。

 うん、仕方ない。

 自分でもなかなか現実を受け入れられないもの。


 普通の、ごく普通の剣を買いに行ったはずなんだけど、俺の右手にはお馴染みの魔剣が握られている。


「それ、レイア様が持ってた魔剣ソウルイーターでござるよな?」

「う、うん、そうみたい」


 なぜ俺が再びこの魔剣を持つようになったのか。

 ざっくり説明すると、毎度お馴染み武器商人ソネリオンのせいなんだが、今回は割愛する。

 何故なら、もっとちゃんと説明しないといけない事があったからだ。


「で、タクみん、それは盾とか言わないでござるよな?」

「あ、ああ、盾じゃないな」


 いまだにロッカと目を合わせられない。

 ダラダラと大量の汗が流れている。


 俺の左手に握られてるもの。

 いや、ものじゃない。


「たてじゃ、ないよっ」


 しゃべった。

 俺の左手をぎゅっと握って、にぱーー、と満面の笑みを浮かべる。


 エルフの幼女がそこにいた。


「どうしてこうなったでござるかっ!?」


 ようやくロッカがツッコミを入れた。



「この子が大賢者ヌルハチだというのでござるかっ」

「うん、たぶんそうだとおもうんだけど」


 前回、レイアが連れてきたエルフの幼女チハルは、後に魔力を失ったヌルハチだったことが判明された。

 だけど今回は……


「お嬢ちゃん、お名前いえるかな?」

「えーーと、えーーと…… わかんないっ」


 前はヌルハチの文字から一部を取ってチハルと名乗っていたけど。


「前よりさらに若返って記憶がなくなってるのかなぁ」

「人違いではござらんのか?」


 タクミ村で魔剣カルナを渡された後、気がついたらこの子は俺の服の袖を掴んでいた。

 間違いなくチハルだと思い、連れてきたのだが……


「俺のこともわからない?」

「わかんないっ、でも、いっしょにいると、ほわっ、てなりゅ、ちゅきっ」


 やっぱり前回とは違う。俺のことを知ってたし、タクミと呼んでいた。


「タクみん、もしかしてこの子供っ、未来から来た、拙者とタクみんの子供ではござらんかっ」


 うん、ややこしくなるから今はやめよ。


「なにか、覚えてることないかな?」

「うんとね、じじばばが、ろくにん、いたよっ」


 じじばばが6人?

 うーん、それだけだと手掛かりにはなりそうにないな。


「他になにかないかな?」

「えーと、えーと、あっ、このおねーちゃん、してゆっ、ロッカだ!」

「え?」

「へ?」


 俺のことは覚えてないのにロッカのことは覚えているのか?

 なんだ、この違和感は。

 本当にこの子はヌルハチじゃないのか?


「ロッカ、この子と会ったことあるの?」

「いやいやいや、初対面でござるよ。しかし、これで拙者とタクみんの子供という説が信憑性を増してきたでござるな」


 いやむしろ減ってるよっ。

 俺たちの子供だったらなんでロッカだけ覚えてるのっ。


「ふぅ、とりあえず、今日はもう遅いから、晩御飯を食べて休もうか。モウ乳だけはちゃんと買えたんだ」

「さすがパパみん、やればできる子でござるなっ!」


 パ、パパみんっ!?

 ぐっ、色々言いたいが、言い返せない。


「……モウ乳」


 チハル疑惑の幼女が、ぎゅっ、と俺の手を握る。


「どうした? モウ乳嫌いか?」

「ううん、ちゅき、あらびきビシソワーズつくりゅの?」

「え? なんでそれ……」


 俺のことを知らないという幼女が、俺の得意料理を知っていた。



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