二百十五話 限定パーティー
「これは何でござるかっ。鶏肉の中にお米が入っているでござるよっ!」
夕食に出した料理にロッカが衝撃を受けている。
うむ、今回も俺の得意料理は上手くできたようだ。
「ふふっ、懐かしいわ。冒険者時代、大きなクエストを達成した時、いつも作ってくれたわね」
サシャも嬉しそうに食べてくれている。
しかし、それを見る俺とロッカの目は冷ややかだ。
「……タクみん、あの人、偽物なのでござろう? 料理を振る舞ってる場合ではないのではござらんか?」
「うん、でもまあ、せっかくいっぱい作ったし、偽物だからって食べさせないわけにはいかないだろう」
「タクみんの懐は、海よりも深いでござるなぁ」
そんな俺とロッカのやりとりをサシャはにこやかに眺めていた。
偽物だとバレても、全く変わらずサシャとして振る舞っている。
「で、まだ正体を明かす気はないのかな?」
「そうね、できればもう少し、このまま過ごさせてくれると嬉しいわ」
「本物のサシャは、無事なんだよな?」
「ええ、安心して。すこぶる絶好調よ」
たぶん、嘘はついてない。
無邪気な笑顔の彼女からは、一切の悪意を感じられない。
まあ、目的がわからないので不気味ではあるのだけど。
「でも不思議だわ。どうしてバレたのかしら。ヌルハチやナナシンにも気づかれないくらい、完璧にサシャを演じていたのに」
「あまりに完璧だったからだよ」
完璧な偽物は本物じゃない。
曖昧な偽物のほうが惑わされることもある。
「前にサシャがここに来た時のセリフ、洗濯の仕方、ロッカとのやり取り、トレースしたみたいに同じだった。本人すら気づいてないような細かい癖や仕草まで、数年前とまったく同じだったんだ」
「それなら、どう見ても本物じゃないの?」
「まさか。こんな俺でも変わってるんだ。サシャが数年前のサシャと全く同じはずないじゃないか」
お皿が空になってたので、おかわりをよそってあげる。
「さすがね、タクミ。やっぱりルシア王国の王として相応しいわ」
「いやぁ、三度目は遠慮するよ。お互い世間の目も厳しいだろ?」
「それもそうね、ふふふふ」
「ああ、そうだろ、うひひひ」
「ふ、二人ともなんだか怖いでござるっ。ご飯は暖かいのに、空気が凍りついてるでござるっ!」
ふ、甘いなロッカ。
ちょっと前までこれぐらいの修羅場、日常茶飯事だったぞ。
「やっぱり今回のことはタクミポイントから始まってるのか?」
「そうね。タクミが思っている以上に、あのシステムには様々な国の利権が絡んでいたのよ」
「だろうな、リックの事件が解決してからもずっと気になっていたんだ。大草原の戦いで、ルシア王国と東方、北方、南方が争っていたのに、システムに手を加えた西方だけ傍観していたからな」
もっと詳しく言えば、ここ数年で起こった事件すべてにおいて、西方ウエストランドだけは、ずっと絡んでこなかった。
「……さしずめ君は、西方から来た魔法使いってとこかな」
「鋭いわね。あなた、本当に本物のタクミ?」
「さあ、どう思う?」
「あわわわわ、拙者、タクみんが偽物だったら絶望でござるよっ」
うん、まあ本物なんだけどね。
しかし、西方が動き出したとしたら厄介だ。
あそこのトップにいる老人たちは、一癖も二癖もある曲者ばかり、できるだけ関わりたくないとヌルハチが言っていた。
「ぶっちゃけ、タクミポイントを利用して西方が何をしようとしているのか、教えてもらってもいい?」
「そうね。特に秘密にする必要はない、と王には言われてるわ」
ん? 王?
確か西方ウエストランドのトップは六人の老人たちによる六老導だったはずだけど……
「あなたにはタクミポイントにおける一日パーティー券で、ある場所に行って封印された禁魔法を解放してほしいの」
き、禁魔法を解放っ!?
「大精霊の秘魔法 緑一色。
創造神魔法 天地崩壊。
始まりの魔法 星海。
空間魔法 世界逆行。
そして、名前すら失われた究極魔法 無名」
ああ、そうだ。
確かタクミ教室をしていた頃、俺が書いた絵を見て、みんながそんな名前を叫んでいたな。※
全然まったく知らないけど。
「王国創世記から発動記録は、天才魔法使いリンデン・リンドバーグによる世界逆行、たった一度のみ。西方の魔導研究所ですら、その全貌が明らかになっていない禁断の五大魔法よ」
うん、そんな魔法の封印、俺が解放できるわけないじゃないか。
魔法なんて、ヌルハチに教えてもらった初歩のやつしか知らないんだから。
「無駄にポイントを使うことになるぞ。あとから返せと言われても返さないからな」
「大丈夫、あなたならきっと上手くやってくれる。王はそう言っておられたわ」
誰なんだよ、その王は。
「お腹もいっぱいになったし、すぐに準備しましょう。料理おいしかったわ」
「おおっ、はじめてのお出かけでござるなっ、拙者、ワクワクが止まらないでござるよっ」
え? ロッカもついてくるつもりなの?
俺は不安でドキドキが止まらないよっ!
こうして禁魔法解放の一日限定パーティーが結成された。
※ 禁魔法の名前がでてくるエピソードは、「第三部 序章 七十三話 タクミ魔法は語れない」 に載ってます。興味がある方は、ご覧になってください。




