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二百十三話 フェイクフラワー

 

「いい天気ね、タクミ。洗濯日和だわ」


 サシャが俺の服を洗いながら微笑みかける。


 再びのタクミポイント騒動は、一旦収束を見せ、ナナシンさんとヌルハチは帰って行った。

 まずは、サシャが先に20億分のタクミポイントを使うことになったのだが……


「……拙者の心はどんより曇ってますけどね」


 洗濯するサシャの後ろでロッカが殺意のこもった目で洗濯物を眺めていた。

 ここに来た当初はロッカも洗濯にチャレンジしていたが、初期のレイアと同じく力加減ができず、服をボロボロにしてしまった。

 それ以来、洗濯は全部、自分でやっていたが。


「おいで、ロッカ。洗濯教えてあげる」

「よ、よいのかっ」

「もちろん。女の子なんだから洗濯くらいできないとね」


 ロッカの顔がぱっ、と明るくなる。

 二人して俺の洗濯物を洗う光景になんだか少し照れ臭くなる。

 そんな俺を見て、サシャが小さな声で呟いた。


「まるでループしてるみたいね。ロッカがレイアに変わっただけで」


 その一言に言葉を失う。


『そうだな、なんだか懐かしいな』


 以前、サシャが来た時の記憶が蘇るが、懐かしむ余裕などない。

 そうだ、ロッカが来た時からずっと感じていた。

 デジャヴじゃない。

 まるで、もう一度、同じ物語を繰り返しているようだ。


「サシャ殿、これでいいのですかっ。いつのまにか、消えてなくなっているのですがっ」

「ああっ! ダメだよっ! 原子レベルで分解されてるっ! ちょっとその力、押さえてみてっ!」

「むむぅ、コントロールが難しいでござる」


 ……しかも、なんだかレイアの時より危険度が上がってる気がする。



「私のものになりなさい、タクミ」


 怪しい笑みを浮かべたまま、数年前と同じセリフを言ったサシャに、どきっ、とした。

 あの頃と変わらない。

 いやあの頃よりも妖艶に、サシャは美しくなっている。


「ほ、本気なのか? サシャ」


 その質問にサシャは答えなかった。

 答えるかわりにサシャはゆっくりと俺に近づいて来る。


 ごくり、と息を飲む俺に顔を近づけてきた。


 前にキスされそうになった時の事を思い出し、回避しようとしたが、ぐっ、と後頭部を掴まれた。そのままサシャは俺の耳元に顔を近づけて小さな声でつぶやく。


「冗談よ。残念だけど、そんなにポイントが残ってないの」


 クスっ、と笑って、サッ、とサシャが距離を取る。


「そうね。まずは前と同じ、一日お泊まり券にしてもらうわ。残りのポイントは、一緒にいる間に考えさせて」

「あ、ああ」


 ほっ、としたような、肩透かしを喰らったような、なんとも言えない微妙な気分でいると、ロッカがジト目でこちらを睨んでいた。


「な、なんだよ」

「なんでもないでござるっ」


 プイっ、頬を膨らまし、そっぽを向くロッカ。

 こうして、再びサシャとの共同生活が始まった。



「今回は引っ越しの荷物たくさん持ってこないんだな」

「ええ、そんなに長く滞在しないわ。2、3日中にポイントの使い道、考えるわね」


 いくつかの相違点。

 前回はタクミポイントを利用した陰謀が渦巻いていたが、今回はそういった事態にはなっていない。

 サシャがどんなことにポイントを使うのか、予測不能だ。


「タクみん、あの人、どこに寝るつもりでござろうか」


 ん? そういえば前にサシャが来た時は、レイア以外にクロエがいて、そんな話をしていたな。


「まさか、拙者のシン絶対タクミ円環(サークル)より、手前ではござらんな?」

「う、うん、そうだな。それよりも遠くにしておくよ」


 ぱぁ、と笑顔になるロッカに反比例し、どんよりとした表情になるサシャ。


「……確か、ポイントで添い寝があったはず」

「そ、それは卑怯でござるよっ!!」


 いや、確かにちょっと怖いけど、それぐらいで済むなら、それでいいとさえ思えてしまう。

 なんだろうか。早くポイントを使い切って帰って貰わないと、よからぬことが起きそうな予感がするのだ。


「今回もルシア王国は、ヌルハチに任せているのか?」

「そうね、最近は私より、ヌルハチの方が国民支持率が高いのよ。……色々あったから」

「そ、そうか、そ、それは悪かったな」


 うん、あまりこのことについて触れてはいけない。

 な、なにか話題を変えなければ……


「ああ、そうだ。晩御飯はアレを作るからな。昼は少し軽めのやつにしておこうか」

「アレ? アレとはなんでござるかっ!? 拙者が来た時にはなかった特別な料理を作るでござるかっ!?」

「いやまあ、パーティーを組んでた時からのお約束みたいなもんだからな。そんなに特別ってわけでもないんだよ」


 鶏肉のお腹の中にお米と少量の野菜を詰め込み、ローストする得意料理。

 前回もサシャがやって来た記念に作ったし、冒険者時代は、大きなクエストを達成した時にいつも作っていた。


「ありがとう、タクミ。とっても楽しみだわ。仕込み手伝うわね」

「……ああ、うん、結構手間がかかるからな。助かるよ」


 そうか。うん、これでハッキリとした。

 仕込みを手伝おうと、台所に材料を取りに行くサシャに後から話しかける。


「で、サシャのフリをしているお前は一体、誰なんだ?」


 まるで時が止まったように、サシャは微動だにせず、こちらを振り返らなかった。


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