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二百十一話 タクミ領域

 

「それでは今夜はもう休むとしよう。そこからこちらがロッカの領域だ」


 洞窟の床に棒で線を引く。

 小さくなって逃げ出したが、ロッカはいつまでたってもあきらめず、洞窟に居座ってしまった。

 アリスのように強い力を持っているが、俺を見つけるような気配察知などの細かい技術は持ち合わせていないらしい。

 結局、半泣きでうろうろしているロッカを放っておけず、滞在を許可してしまったのだが……


「こ、これがレイア様から聞いていた絶対タクミ領域(フィールド)っ」


 え? 何それ? 


「一見、なんの変哲もないただの線ですが、それを乗り越えた者は一瞬にして木っ端微塵(こっぱみじん)に爆破霧散するという、宇宙最強の結界と聞き及んでおりまするっ」


 こ、こわっ。

 そんな線ひかないよ、てか、ひけないよ。

 でも、まあ近くで寝られても困るし。


「う、うむ、よくわかったな。その通りだ」


 とりあえず、いつものセリフを言っておく。

 レイアの時と変わらず、やはり若い女の子との同棲はいっぱいいっぱいだ。

 色々とルールを決めておきたいが、とにかく今日はもう疲れてしまった。


「本格的な修行は明日からだ。今日はもう早く休むといい」

「はいっ、どうか末永くよろしくお願い致します」


 うん、一刻も早く修行を終えて帰ってほしい。

 ロッカがここに来たことで、なにかまた、よからぬことが起こりそうなんだもの。


「おやすみなさいませ、タクみん」

「あ、ああ、おやすみ、ロッカ」


 何か、簡単に免許皆伝できる修行を考えねばならない。

 レイアの芋剥き修行は数年かかってしまったからな。


 そんなことを考えていると、すぐに睡魔が襲ってきて。

 まどろみの中、ゆっくりと意識は途切れていった。



「タクミ」


 あれ? 目の前にアリスがいる。

 おかしいな、確か俺は新しく来た弟子の弟子の弟子、ロッカと一緒にいたはずなのに。


「もしかして、これ、夢なのか?」

「うん、ワタシ、いまこっちに来れないから。意識だけ飛ばしてきた」


 相変わらずアリスには常識が通用しない。

 もうなんでもありだな。


「どうしたんだ? というか、あれからどこに行ってたんだ? みんな心配してたぞ」

「うん、ちょっと遠くに、ね」


 遠く? もしかしてあっちの世界に行ってるのか?

 いや、アリスはもっともっと想像もつかないような遠くにいる気がする。


「そっか。どこだかわからないけど、気をつけて帰ってこいよ。ああ、夢に来たくらいだから、何か用事があるのか?」

「ううん、特にないよ。顔を見に来ただけ。タクミは何も心配しなくて大丈夫」


 夢の中でも凛とした佇まいのアリスを見て確信する。

 ずっと世界が平和なのは、アリスがどこかで何かと戦っているからだ。


「そっちは一人で大丈夫なのか? 俺、あまり役に立たないけど、手伝いに行こうか?」

「大丈夫。顔を見ただけですごい力が湧いてくる。誰にも負ける気がしない」


 夢の中のアリスが背を向けて、ゆっくりと俺から離れていく。


「アリスっ!」


 追いかけようにも、全身に重りがのしかかっているみたいに身体が動かない。


「またね、タクミ」


 去っていくアリスが一度だけ振り向いて。

 花のような笑顔を見せてくれた。



「アリスっ!」


 手を伸ばした先に洞窟の天井が広がっていて、夢から覚めたことに気がついた。

 なのに、夢と同じく身体が動かない。


「え? なんで?」

「むにゅう」


 柔らかいものが俺の上に乗っている。

 当たってはいけない、ぷにぷにとした感触が、全身にまとわりつく。


「ロ、ロッカっ」

「ふにゅ、タクみん、むにゅむにゅ」


 こ、こいつ、フツーに境界線を超えて、こっちきてるじゃないかっ! 

 寝ぼけてるのかっ! 俺、抱き枕みたいにホールドされてるっ!?


「ちょ、ちょっと離れてっ、くっ、力つよっ、いたいたたた、ぎゅーーってするなっ!」

「むに〜〜」


 ほっぺを、ぐぃ〜、と全力で押しても、吸盤みたいにくっついて離れない。


「おまっ、ほんとに寝てるのかっ、ちょっ、あぶっ、胸がっ、やめっ、いやぁああああぁーーーっ!」


 ち、小さくなって逃げっ! 

 いやっ、今小さくなったらプチって潰されちゃうっ!

 あ、コレやばい。

 身体のあちこちが悲鳴を上げ、意識がどんどんと遠のいていく。

 こんなの前にもあったよねっ。デジャヴが止まらないよっ。


 薄れゆく意識の中、ロッカに与える新修行の案が思い浮かんだ。



「タ、タクみんっ! こ、この円はいったいっ!?」


 身体がぶっ壊れたまま目を覚ますと、ロッカは俺から離れて自分の寝床に戻っていた。

 頭は上下逆で、両手両足を目一杯広げ、大の字で豪快なイビキをかいている。

 も、もう、二度と近づけないようにしなければっ。

 ボロボロの身体にムチを打ちながら、寝ているロッカを囲むように棒で丸い円を描く。

 目を覚ましたロッカは、すぐにそれに気がついて、青ざめた顔をした。


「そうだ、これは絶対タクミ領域(フィールド)と同じ強力な結界だ。ただし、その威力は数十倍。名付けてシン絶対タクミ円環(サークル)だっ」

「な、なぜ、そんな危険なものを拙者の周りにっ!?」


 うん、理由考えてなかった。

 また抱きつかれたら、俺、死んじゃうから、とは言いづらい。


「も、もしかしてっ、無駄な動きが多すぎる拙者のため、小さい円の中で生活し、必要最小限の動きで、最大の力を発揮する修行を与えてくださったのかっ!」


 うん、勘違いもレイアから受け継いできたんだね。

 輝かしい瞳で、勝手に納得してくれている。

 全然違うけど、そういうことにしておこう。


「うむ。よくわかったな。まさしくその通りだ」


 後にこの修行が芋剥きを上回る超伝説の修行となり、宇宙的に有名になるなんて、この時の俺には想像もつかなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] シン絶対タクミ円環が宇宙的に有名になるのはそりゃ想像がつきませんよねw
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