レイアとロッカ その2
恐ろしいまでの力の差だった。
北方で蛮勇を奮い戦姫などと呼ばれていた自分が恥ずかしい。
何もできないまま、瞬殺で倒され、あまつさえ、どうしてそうなったかもわからない。
強さの次元そのものを、測ることすらできなかった。
「拙者を弟子にしてください」
再び東方の礼儀に従い、レイア様に向かって土下座をしていた。
その時、ずっと表情を崩さなかったレイア様が露骨に顔を歪め、嫌そうな顔をしたのを今でも覚えている。
「私はまだ人に教えるほどの高みには達しておりません」
「なにを言われるかっ、人類最強と呼ばれるレイア様以上に、高みに達している者など、この世に存在しないっ」
あきらめるわけにはいかない。
慢心していた自分が、一からやり直すには、レイア様の元で強くなるしかないのだ。
「……それは思い違いです、ロッカ。私など、師に比べれば、まだのまだまだ。ようやく長き武の道へ、第一歩を踏みしめたところですよ」
「そ、そんなっ」
人類最強、宇宙最強、超宇宙。
ずっと噂に尾ひれがついたホラ話だと思っていた。
冗談じゃない。
噂なんか、簡単に超えてるじゃないかっ。
「ただ、側に置いて頂けるだけでかまいません。どうか、その長き武の道、拙者もその後ろを歩ませては頂けませんかっ」
せめてその力の片鱗でも掴むことができるまで、帰るわけにはいかないっ。
「ロッカ、私の修行について来れますか? ついて来れるなら勝手になさい」
「ありがとうございますっ!!」
どんな修行にでもついていける自信があった。
だが、それはわずか数分後、粉々に砕け散る。
「一日の修行は、この超宇宙薄皮芋剥千極練から始まります」
いきなり、あの芋かっ!
レイア様はカゴの中から二つの芋を取り出して、一つを私に放り投げる。
床に落ちている、皮にいっさいその身を残さず、皮のみを剥いた究極の芋。
一体、どのようにして、そんなことができたのか。
両の目を見開き、一瞬たりとも見逃さぬよう、レイア様の一挙手一投足を観察する。
がっ、しかし。
コロンと床に芋が転がるまで、私には何が起こったのかまるでわからなかった。
おそらく、皮を剥かれた芋自体も、自分の皮がなくなっていることに気がついていない。
「ゆっくりで大丈夫ですよ。私も最初は不器用でした」
絶対にうそだっ。
こんな神業を披露してよくそんな口を叩く。
「はァアアアアァアアアアっ!!」
少しでも早く、丁寧に芋の皮を剥く。
ただ、それだけのことなのに、剣技における基本がすべて含まれていた。
力の加減を間違えるだけで、皮だけでなく実も削れる。
私が必死に剥いた芋は、凸凹の形をした、見るも無惨なものとなった。
「くっ、この修行はレイア様が考案なされたのですか?」
「いえ、これは私が師匠のタクミさんより教わった最初の修行です。まあ、私の芋剥きは、まだまだタクミさんの足元にも及びませんが」
……へ?
いやもうほんと、どうなってんのっ!?
これ以上の皮剥きなんて、超宇宙でも無理でしょうがっ!!
悔しいので、カゴから2個目の芋を取り出そうとすると……
「超宇宙薄皮芋剥千極練は一日一個の決まりです。次の修行に移りますよ」※
「は、はい」
またしても、だ。
芋に手を伸ばした腕を掴まれたが、またしてもその動きを見ることができなかった。
動作そのものが、時間を飛ばしたみたいにカットされ、私はレイア様の動きをまるで感知できない。
「次はこちらを。最初はそうですね。1分くらいが限界でしょう」
日記のような本が置かれた神棚の奥から、レイア様が漆黒の長剣を取り出す。
鍔や柄に宝石を埋め込んであり、鞘にも彫刻や飾り付けがされていた。
だが、それより気になるのは、剣に「禁」やら「封」とか書かれたお札がべたべたと貼られているところだ。
レイア様の右手からすごく禍々しいオーラが流れているのを感じる。
「これは……」
「魔剣ソウルイーター、かつて邪龍カルナが封印されていた魔装備です。邪龍なき後も、その力は残り、持つ者の力を吸い取っていきます」
なるほど、定期的に力を吸わせることで、能力の底上げができるのか。だが、一歩間違えれば……
「限界を見極めなさい。間違えれば命を落とします」
「……ちなみにレイア様の限界は?」
「今は24時間といったところでしょうか」
それで私は1分かっ。
随分と見くびられたものだ。
せめて、1時間は力を吸わせてみせるっ!
「ヌオォオおおおっおおおっ!!」
はっ? なにっ、これっ!! こ、こんな一気に吸われんのっ!? あ、ちょっ、だめっ、そんな奥までっ!!
「ふにゃああああぁぁぁあぁ」
1分どころか、30秒ももたない。
腰が抜けたように、その場にへたり込み、魔剣ソウルイーターを、カランと床に落とす。
「はぁはぁはぁ、ば、バカな。レイア様はこんなのを24時間もっ!?」
「たった24時間です。私の師であるタクミさんは、この剣を数年間持ち続けても平然としておられました」
…………ほへ?
もうなんと形容していいのかわからない。
私はこの時、レイア様は強くなりすぎて、頭がおかしくなっている、本気でそう思ってしまった。
「そ、それは妄想の類じゃないんですか? タクミさんって、レイア様の心の中にだけ存在する、イマジナリー師匠とか、そういったやつですよね? 」
「何を言うのですか。我が師、タクミさんはちゃんと存在します」
「ほ、本当に、人間ですか? その人」
「人間ですよ。ただし父は世界を創造した全知全能たる神、母は自然界を守る大精霊です」
それは人間とは呼ばない。
そう言おうと思ったが、その前に……
「もっともタクミさんは、そのご両親も簡単に倒してしまいましたが」
うん、ありえない、絶対にありえない。
私はすでにこの時、絶大なる興味を持ちはじめていた。
レイア様の師、超宇宙タクミという怪物に。
※ 芋剥きが一日一個のお話は、「第一部 序章 五話 そして伝説へ」に載っております。興味がある方は、よかったらご覧になってください。




