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閑話 お兄ちゃん

 

「たんたた♪ たんたた♪ たんたたたたた♫」


 パパが少し音程を外しながらメロディーを口ずさみ、赤ちゃんを抱いている。

 こないだ生まれたばかりの、お猿みたいな顔をした僕の弟だ。

 いつもは僕が抱っこされる時間だけど、お兄ちゃんだから譲ってあげる。うん、仕方がない。


「また、その歌?」


 ママの声が聞こえてきて、尻尾をたくさん振る。

 やった。ママの手はあいている。ほら、僕はここだよっ。


「ああ、匠弥たくみはこの歌を聴くと泣き止むんだ」

「……あなたが歌うからよ。他の誰が歌っても泣き止まないわ」


 ママは僕に気づいてくれない。

 声を出そうと思ったが、なんだか二人とも真剣な顔をしているのでやめておいた。お兄ちゃんはえらいからね。


「……数千年の時を超えた転移をするですって? もうこの子に会わないつもり?」

「不老と不死の設定を組み込んだ。運がよければ、また会える」

「運がよければっ!? どうしてあなたが未完成で危険な過去転移をしなければならないのっ!? あの子を見たでしょうっ!! 失敗して、真っ二つになったわっ!!」※

「ふ、ふわぁああああっ!」


 突然、ママが大声を上げたので弟が驚いて泣き出した。


「たんたた♪ たんたた♪ たんたたたたた♫」


 パパが再び、あのメロディーを口ずさむと、弟はすぐに落ち着いて泣き止んだ。


「あなたは聖杯の適合者として、ただの転移をするはずだったじゃないっ!」※

「私より聖杯に適合する者が現れたんだ」

「嘘よっ! あなたの数値を上回るなんてありえないっ! 半年前、全人類のデータを調べて……」


 ママの言葉が途中で止まり、泣きやんだ弟のほうへ、ゆっくりと

 振り返る。


「……まさかっ!?」


 パパは何も答えない。

 え? なに? 弟がどうしたの?


「そんなことまでして救わないといけないのっ!? そこまでして守る価値があるのっ!? そんな世界なら滅んでしまえばいいのよっ!」※


 声を荒げながら、それでも弟が泣かないように、必死に音量を抑えている。


「……そうだな。きっとそれが正解なんだろう」


 パパとママはもう、何も話さない。

 僕も空気を読んで黙っている。


「あっきゃきゃきゃ」


 そんな中、空気の読めない弟だけが一人笑っていた。



 深夜。

 パパも弟も寝静まった頃。

 ママは物音を立てず、静かにリビングに降りてきた。

 僕も完全に眠りに落ちていたが、ママの匂いに反応して、脳が一気にクリアになる。

 やった。昼間、僕を抱っこしてくれなかったことを思い出してくれたんだっ。


 だっこする? おやつくれる? それともあそぶっ?


 パタパタと尻尾をふりながら近づいていくと、ママは口元に指を立てて、しー、と小さくつぶやいた。


 なんだ、僕に会いにきたんじゃないんだ。


 がっかりして、丸くなっていると、ママは僕の頭を優しく撫でてくれた。


「明日はいっぱい遊んであげるわね。今日で全部終わらせるから」

「わふっ」


 小さな声で言われたので、僕も小さな声で応えた。

 どうやら、パパにバレないように、なにかをしたいみたいだ。


 テーブルに置いてあった、薄くて四角い機械を開けて、たくさんのボタンを叩いていく。

 あれは確かママの機械じゃなくて、パパの機械だ。


『……聖杯。すべてを受け入れる空っぽの器。力を持つことはできないが、大きな力を持つ者たちを許容し勘違いを誘発させる』


 僕に話してるんじゃない。

 機械に向かって、静かにブツブツとつぶやいている。


『……その器はやがて世界の王となり、我々が侵略する際に入れ替わる。匠弥は聖なる生贄いけにえとなるだろう』


 機械に出てきた文字を読んだママの顔が歪んでいた。


「……匠弥を聖杯の適合者なんかにさせないわ。空っぽの器なんて必要ないのよ」


 いつもの優しいママじゃない。 

 眉間にシワを寄せた怖い顔を見たくなくて、伏せをしてまた丸くなる。


「イヤというほど、詰め込んであげる。書き換えてあげるわ。あなたは宇宙最強になるのよ、匠弥」


 ママが何を言っているのかわからない。

 いつもと違う見た事のないママの姿に、僕は怖くてただ震えていたんだ。



「あー、だー」


 と、よだれを垂らしながら弟が僕の顔をベタベタさわってくる。

 あれからパパとママは仲がいいふりをしながら、ずっとほんとの気持ちを隠していた。


「ねぇ、聞いてくれる?」


 パパに気づかれないよう、そっ、と僕の耳元でママがつぶやいた。


「ママはきっと誰の事も愛せないの。人は信用できない。でもあなたの事は信用してるわ。どんな時もずっとママの側にいてくれた。大事な大事なママの息子よ。愛してる。」


 僕も愛してるよ! 名前、名前呼んでっ。甘いお菓子と一緒の僕の名前っ。


「やっと愛せるかもしれないと思えるあなたの弟が生まれて、その子とも離ればなれ。あの子の事も、もうきっと愛せなくなるわ」

「くぅん」


 そんな事いわないで、ママ。僕だけを愛してるって言ってくれるのは嬉しいけど、僕の弟だから。


「シンクロ率は安定している。いまなら二人同時に送れるだろう。

 人のいい宿屋の親父の息子と、その飼い犬として転移させる」


 パパが僕の頭と弟の頭を一緒に撫でる。


「私も後から行く。まあ過去に飛ぶから、お前たちが着く頃には、私はすでに存在しているはずだ」


 うん、なにを言ってるのかさっばりわからない。

 でも、頑張るよ、僕、いい子だから。


「わふっ」


『たぁみなる』からあふれる白い光が、僕と弟の身体を包み込む。


「……っ!」


 ママが僕の名前を叫んだけれど、それは最後まで聞こえない。


 すべてが白く染まる中、弟と離れないように、僕より大きい、小さな身体をしっかりと抱きしめた。


※ 真っ二つにされたあの子のエピソードは、「第四部 二章 閑話 マキA」をご覧になってみて下さい。


※ 聖杯の設定などをお忘れの方は、第四部の終わりに掲載してある「うちの弟子解体新書 その3」を見て頂けると解りやすくなると思うので、ぜひご覧ください。


お待たせ致しました!

『うちの弟子』漫画版2巻が、11月8日(月)秋田書店様の少年チャンピオンコミックスから発売されました!


挿絵(By みてみん)


1巻に引き続き、小説版にはない面白さがさらに加速しています!

十豪会や大武会など物語も大きく動きます!

漫画版で躍動するタクミたちをぜひご覧になって見てください!

どうか、よろしくお願い致します!


挿絵(By みてみん)


WEBマンガサイト「マンガクロス」様でうちの弟子、漫画版最新話、掲載中!

新章突入で、タクミポイント制度が始まるよ!

超絶に面白いので、みんな見てねー!


次回公開は11月29日火曜日予定です!


漫画版はなんと、あの内々けやき様に描いていただきました。

かなり素敵で面白い漫画になってますので、ぜひぜひ、ご覧になってみてください!!


第7回ネット小説大賞受賞作「うちの弟子がいつのまにか人類最強になっていて、なんの才能もない師匠の俺が、それを超える宇宙最強に誤認定されている件について」


コミカライズ連載がマンガクロス(https://mangacross.jp/)にて3/30(火)よりスタート!!


WEB版で興味を持って頂いた方、よかったら漫画版もご覧になってみて下さい!


またWEB版と書籍版もだいぶ変わっています!


一巻は追加エピソード裏章を多数追加。

タクミ視点では書き切れなかったお話を裏章として、五話ほど追加しており、レイアやアリス、ヌルハチやカルナの前日譚など書き下ろし満載でございます。


二巻は全編がかなり変更されており、さらに裏章も追加されてます!

WEB版では活躍が少なかったマキナや、出番のなかった古代龍エンシェントドラゴンの活躍が増えたり、タクミとリンデンの幼い頃のお話や、本編でいつもカットされているレイアの活躍が書かれています。


書籍版も是非、よろしくお願い致します!



挿絵(By みてみん)

⬇︎下の方にある書報から二巻の購入も出来ます。⬇︎


これから応援してみよう、という優しいお方、下のほうにあるブックマークと「☆☆☆☆☆」での応援よろしくお願いします!

すでにされている方、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.


茄子炒め 様から素敵なレビューを頂きました。

いつも応援ありがとうございます!

言葉にならないほど感謝しています!


感想も、どしどしお待ちしています!

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― 新着の感想 ―
[一言] 当初はアザトースがやる予定だったけれど、タクミのほうが選ばれた。夫と子供で立て続けに世界のために生け贄になれと言われたら、まぁ暴走だってするよね感
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