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二百四話 ドリームチーム

 

 紅蓮に燃える12枚の翼。

 その全てが、ふわりと俺を優しく包みこんでいる。


 かつて、俺の中にいたスーさんが戻ってきてくれた。


「ス、スーさん」

「タクちゃん」


 久しぶりの再会を喜びたいところだが……


「あついっ! めっちゃあついっ! ちょっと離れてもらっていい?」

「ええっ、ほんまに? 感動の再会やのに?」


 うん、少しくらいなら我慢できるが、そういうレベルじゃない。

 ヌルハチにならったアイスの魔法をかけ続けないと、燃え尽きてしまう。


「包み込むのカッコええやろ? もうちょっと頑張らへん?」

「いや、無理だってっ! もう魔力なくなるしっ! あっ、ヤバい。氷出せないっ! あっつィ、もう離れてっ! あついあついあついあついィィィィッ!!!」


 スーさんがさみしそうに、すぅー、と空に戻っていく。


「ふ、ふぅー、あつかった。あっ、スーさん、そこらへんでストップ。ちょっとそこで待機しててね」

「む、むぅ」


 不満そうだが、しぶしぶ言うことを聞いてくれる優しいスーさん。

 よかった。このまま帰られたら、世界が滅亡してしまう。


「さすがタクミさんっ! 神降ろしの一族でも降ろせない四神柱の長、朱雀を完璧に使役していますっ!!」


 うん、まあ、使役というか。

 しばらく一緒にいて友達みたいになっただけなんだけどね。


「……さて、これで『彼女』を復活させられるが、このまま復活させてもいいものか」


 大人に戻ったばかりで、まだ意識がはっきりしていないアリス以外、全員が首を横に振る。


「それはダメじゃろう。なんの策もなく復活させれば、ここにいる者たちは全滅するぞ。間違いなく」

「そ、そうだな、ヌルハチ、なにか対策を考えないとな」


 世界の滅亡まで24時間あると、謎の男が言っていた。

 それが本当なら、それまでに……


「なんらかの形で『彼女』をどこかに閉じ込めて、封印することはできないだろうか?」

「……封印か。それは難しいな。『彼女』の力なら、そんなもの簡単に無効にしてしまうじゃろう。それよりも……」


 ヌルハチが、頭を抑えながら起き上がったアリスのほうを見る。


「『彼女』が復活した瞬間、もう一度アリスに首をもいでもらうのはどうじゃろうか?」

「うぇ? えっ、えええええええっっ!?」


 い、いや確かに、人類最強状態に戻ったアリスなら、復活と同時に『彼女』の首をもぐことができるかもしれない。

 でも、それって24時間ごとに、毎回やらないといけないんじゃないの?

 想像するだけで、うぷっ、と酸っぱいものが込み上げてくる。


「ほ、他になにか案はないかなぁ。次も成功するとは限らないし。そもそもよく見えなかったんだけど、アリスはどうやって『彼女』の首をもいだんだ?」


 宇古呂毛知ウゴロモチで土を柔らかくして、ファイアーボールで砂埃を舞上げ、そこに全員が突っ込んだ。

『彼女』への目眩しにはなったが、こちらからも最後の戦闘状況は、まったく見ることができなかった。


「いや、ヌルハチはひたすら攻撃魔法をぶつけておったからのう。誰かその瞬間を見ておったか?」


 再び、アリス以外の全員が首を横に振る。

 各個それぞれ、必至に『彼女』を攻撃していたようで、誰もその瞬間は見ていない。


「アリスは? 覚えているか?」


 ぼー、として立っているアリスに声をかけると、かなりゆったりとした動作で俺のほうに首を動かす。

 まだ、目がうつろで、寝起きみたいにボンヤリしている。


「……長い夢を見ていたようで、記憶が曖昧……」


 ずいぶんと久しぶりに聞く大人に戻ったアリスの声。

 なんだか、どきっ、とする。


「……でも、なにか、『彼女』の首を掴む前、小さいなにかが足元を横切った…… ような気がする」


 小さいなにか?

 もしかして、『彼女』はそれに気を取られたのか?

 それが何かわからないが、次も現れるとは限らない。

 復活するたびにアリスが『彼女』の首をもぐ作戦は、リスクが高い気がする。


「スーさん、蘇らせるのって完全復活しかないのかな? 半分だけ復活とか、動けないくらいの瀕死で復活とか、そんな調整できない?」

「そ、そんなんあらへんよ。あったとしても『彼女』ならすぐに自力で全快してしまうで」


 そうか、怪我や疲労もなかったことに書き換えられるのか。


「あとは封印するぐらいしか…… あっ、そうだっ、四神柱の結界で『彼女』を閉じ込められないかっ!?」

「無理やとおもうで。前にアリスにも破られてもうたし。『彼女』を封じ込める結界なんて作られへんよ」


 そういえば、大武会に乱入するとき、アリスが簡単に、ぱりん、と割ってたな。


「でもアレは本来の力じゃないだろう? 柱に力の一部を付与しているだけってレイアが言ってたぞ。四神のみんながスーさんみたいに具現化していたら、ものすごい結界ができるんじゃないか?」※

「む、むぅ。確かに多少は強力になるはずやけど。でもほかの四神、どこにおるかわからへんよ」


 いや、かわいい子猫になった白虎はうちにいるぞ。※

『彼女』から解放され、スーさんが小鳥から戻ったなら、白虎も本来の力を取り戻しているに違いない。

 他の四神はまだアザトースのところにいるはずだが……


「ヌルハチっ、急いで、ルシア王国に転移してくれないかっ、アザトースに頼んで残りの四神をっ……」

「……その必要はなさそうじゃな」


 突然、前方に、カッ、と巨大な魔方陣が浮かび上がる。

 ヌルハチが転移してくる時の、何千倍もの魔方陣だ。


 そこから地面が隆起するように、ぐごごごっ、と山のような甲羅が出現する。


「ま、まさか、玄武なのかっ!?」


 巨大で真っ黒な亀。

 そのあまりの迫力に思わず後ずさる。さらに……


 巨大魔方陣が、左右同時に出現する。

 左の魔方陣からは、光のかたまりがあふれ出し、辺りすべてを真っ白に染めていく。

 右の魔方陣からは、滝が逆流するように、天に向かって大量の水柱が噴出する。


「四神、集合やな」


 いつのまにか、スーさんが再び俺の背後に舞い降りていた。

 光はいつのまにか、獰猛どうもうで神々しい純白の虎に変わり、逆流した水はそのまま、天にとどかんばかりの青い龍に変わっていく。


「こ、これが本当の白虎と青龍の姿か……」


 東に青龍、西は白虎、南に朱雀、北は玄武。

 すべての四神が、俺を中心として正位置に具現化された。

 そして、黒い玄武の背中に、ゆらり、と闇を纏いながら、俺と同じ顔の男が立っている。


最終楽章グランドフィナーレだ、匠弥タクミ協奏曲コンチェルトを始めよう」


 指揮者のようなポーズで悦に浸るアザトース。

 俺は失笑しながらも、真の最終楽章グランドフィナーレを予感していた。



※ 四神柱の解説は「第一部 五章 二十七話 大武会 開催」に載っています。


※ かわいい子猫白虎とのエピソードは、「第六部 二章 百八十八話 神業」に載ってます。

よろしければご覧になってみてください。

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[一言] アザートスさん、今更カッコつけてもw
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