表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
262/421

二百三話 サービス終了

 

「と、とれてる」


 あまりのことに思考が追いつかない。

 圧倒的ラスボスとして、無敵を誇っていた『彼女』の頭を、アリスが鷲掴みにしている。

 変装のため着ていたゴブリン王の抜け殻は、ボロボロになって脱ぎ捨てられていた。


 もみくちゃになってわからなかったが、どうやってアリスは『彼女』の頭を引っこ抜いたんだろう。

 急速に成長していったアリスの力は、『彼女』にも予想外だったのか?


 運がよければ、アリスを元に戻せるかもしれない。

 俺が考えていたのは、それくらいだった。


 それが、まさか、いきなり完全決着してしまったのか?


「い、いや、ラスボスは倒したと思っても、変身して復活するパターンがほとんどだった。……もしかして『彼女』も」

「さすが、タクミさんっ、私たちが知らない間に、いつのまにか大量のラスボスを倒しまくっていたのですねっ!」

「よ、よくわかったな、その通りだ」


 うん、ゲームの話だけどね。

 だいたい人間タイプのラスボスは、第二形態や第三形態に変わるんだけど……


 恐る恐る近づいて、頭のない『彼女』の身体を魔剣カルナでつんつんする。

 ピクリとも動かない。どう見てもこれは、ただのしかばねのようだ。


「ちゃくみ、これ、すててよい?」

「あ、ああ、そうだな。ちゃんと埋めてあげようか」


 目を閉じた『彼女』の顔を覗き見るが、やはり動く気配はない。

 本当に、本当に、これで終わっちゃったの?


「あ、ありぇ? ちゃ、ちゃくみぃっ」

「ど、どうしたっ、アリスっ!」


 突然、『彼女』の頭を落とし、アリスが地面にうずくまった。


「や、やっぱり『彼女』が蘇ったのかっ!?」

「ち、ちゃうっ、これっ、ありしゅっ、もとに、もどりゅっ!!」

「うええええええっっ!!」


 小さかったアリスの身体が急速に成長していく。


 間違いない。『彼女』が亡くなって、書き換えたものが元に戻っていってるんだ。


「ああっ、嬉しいけど、ちょっと名残りおしいっ、ア、アリスっ」


 うずくまりながら、アリスが俺のほうをチラ見する。

 すでにもう、幼い面影はほとんど消えていた。

 なにか声をかけたいが、特に何も浮かばず……


「か、かわいかったぞ、子供アリスっ」

「あいがと、バイバイ、ちゃくみ」


 最後の笑顔は、完全に子供アリスの笑顔だった。



『彼女』の死と、アリスの復活。

 だが、それだけでは終わらなかった。


 かちんっ、かちんっ、と時計の針が動くような音。

 それがどこからともなく、聞こえてくる。


「え? なに? 誰か時計持ってきた?」


 まだ意識がハッキリしていないアリスを覗いた全員が、首を横に振る。


 かちんっ、かちんっ、という音は鳴り止まない。

 まるで、頭の中で鳴っているみたいに。すぐ近くから。


「なんだこれ? みんなも聞こえているのか?」


 今度はみんなが揃って頷く。

 異質で、異常な、何かを察しているのか。

『彼女』を倒したというのに、全員、警戒体勢を解いていない。


「カウントダウンだ」


 突然、隣の男がつぶやいた。

 さっきまでいなかったはずなのに、まるで最初から俺の隣にいたように、その男はそこに立っている。


「カウントダウン? いや、てか誰だよっ、あんたっ!?」

「……もうすぐ思い出すよ、その前に世界が終わらなかったら、な」


 何を言っているのかわからないが、この男、確かにどこかで見たことがあったような……


 思い出そうとしていると、今度は、びきっ、と何かにヒビが入るような音がした。

 かちんっ、かちんっ、と針の音も止まらない。

 それどころか、どんどんと早くなっている気もする。


「あれ? なんか空、おかしくない?」


 空に巨大な稲妻のような枝分かれした亀裂ヒビが走っていた。


 ま、まさか、さっきのびきっ、って……


「いやいやいや、空が割れるなんて、まさか、そんな、ねぇ?」

「割れてるよ。崩壊がはじまったんだ」


 なぜか、仲間たちより、見知らぬ隣の男に尋ねてしまう。

 まるでそうすることが自然のように。

 ずっと昔から一番頼りにしていたように。


「この世界は『彼女』と連動している。『彼女』が停止すれば、24時間以内にすべてのサービスが終了するんだ」

「ええっ!! なにそれっ!? まるでオンラインゲームの打ち切りじゃないかっ!!」


 向こうの世界で、めちゃ課金したゲームが終了したときの悲しみがフラッシュバックした。

 どれだけレベルを上げても、どれだけアイテムをあつめても、どれだけ仲間を増やしても、サービスが終了してしまえば、そのすべてが消失する。


「そ、そんな馬鹿なことってあるかっ! ものすごい奇跡に信じられないような奇跡が重なって、刹那の確率で『彼女』を倒せたんだっ! その報酬が世界滅亡なんて、あり得ないだろっ!?」

「あり得るんだよ。なんでもありだからな。彼女が死ぬと、世界も終わる。ゆえに復活せざるを得ない。ゆえに絶対無敵だ」

「復活? 復活なんて、どうやって……」


 ふわっ、と紅い羽が一枚、上空から舞い落ちてきた。

 地面に触れた羽が、ぼっ、と燃えあがると、辺り一面が紅い光に包まれる。


「きたぞ、全ての生と死を管理する最重要システムが」


 顔を上げると、ひび割れた空に、十二枚の翼を広げた巨大な紅い鳥が、もう一つの太陽のように燃えながら輝いている。


「……ス、スーさん」


 もう『彼女』の肩にのっていた小鳥の姿じゃない。

 本来の神の姿、四神柱の朱雀が降臨する。


 そうか、だから俺の元から去り、『彼女』のそばに寄り添っていたのか。


『ただいま、タクちゃん』


 スーさんは翼を交差させ俺を包み込み、ゆっくりと背後に舞い降りた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、世界の管理人がしねがサービス終了は当然ではありますが……何とかなるんでしょうかコレ?w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ