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二十一話 そして誰もいなくならない

 

「それで、それでどうなったのですかっ」


 十豪会(じゅうごうかい)から一夜明けた朝にクロエがやって来た。


「強豪達が立ち上がる中、一人、余裕を持って座るタクミさんは堂々とこう言われました。お前らなど座ったまま、指先一つで倒してみせるわ」

「さすがっ、我らがドラゴン王っ!」


 レイアが話を盛っている。

 もはや、突っ込む気力もない。そしてドラゴン王でもない。

 しかし、よくあのような修羅場を無傷でくぐり抜けたものだ。

 しばらく腰が抜けっぱなしで、席に座ったまま動けなかった。



「ここで戦うのはやめておこうかの」


 バルバロイ会長のその言葉にどれだけホッとしただろうか。

 あの言葉で俺を警戒してくれたのだろう。


「ちょうど一ヶ月後にギルドの武闘大会がある。各自複数の代表を出し、そこで優勝した陣営の言う事をなんでも一つ聞くというのはどうじゃ?」


 ギルド大武会。


 トーナメント式のその大会には、昔、ヌルハチに無理矢理参加させられた嫌な思い出がある。

 見るも無惨な一回戦負けは軽くトラウマになっていた。


「なんでもと言うのは?」

「なんでもじゃ、ギルドはお前さんに一切干渉しない、と言えば、二度とここに来ることもない」


 さすがじじい、俺の一番の望みを的確に見抜いている。

 だが、逆に負けてしまえば、俺は生涯魔王として拘束されてしまうかもしれない。

 円卓で俺について来てくれたメンバーを見る。

 相手と見比べても負ける気はしない。


「複数の代表とは? 俺はここにいるメンバー以外、あと一人くらいしか仲間はいないぞ」


 最近までぼっちだったからな。後はクロエくらいしか思いつかないが、なるべくならお願いしたくない。だって、なし崩し的に王にされそうなんだもの。


「別に何人でもよいぞ。自信があるならお主一人でも良い」


 いやいやいやいや、逆に俺だけはお腹が痛いとか言って、参加したくない。

 しかし、向こうはギルド総動員ってわけか。考えただけで超怖い。

 

「それなら、四天王の残り三人も参加させるにゃ」


 獣人王ミアキスの言葉にちょっとだけ安心する。

 狂戦士(バーサーカー)ザッハを軽く撃退したミアキスと同等の強さを持つ四天王ならば、結構頼りになるんじゃないか?


「わかった。その提案を受けよう」

「決まりじゃな。こちらの代表は後日、そちらに伝達しよう」


 バルバロイが立ち上がり、背を向ける。

 他の五人は納得がいってないのか、まだ俺の方を睨んでいた。


「やめておけ、力のわからない相手と戦うなど愚の骨頂じゃ」


 その言葉でやっと五人がこの場から立ち去ろうとする。


「……余裕じゃな。その気になれば、本当にわしらなど造作もなく片付けられるのじゃろう?」


 いや、俺が片付けられる前に早く帰って。お願いします。


「じゃが、ギルドを舐めないことじゃな、魔王タクミ。こちらも取っておきの隠し玉が残っておる」

「そうか、楽しみにしている」


 まあ、後のことはお前たちに任せたとか言って、俺は一回戦で棄権しよう。そう心に誓う。


 こうして激動の十豪会(じゅうごうかい)はようやく幕を降ろしたのであった。



 レイアとクロエの会話はさらに盛り上がり、いつまで経っても終わる気配を見せない。

 洞窟から出ると、大きな岩の上で丸くなって日向ぼっこをしている獣人王ミアキスが目に入った。

 大人しくしていると、本物の猫のようでちょっと可愛い。


「んにゃ? 魔王様も日向ぼっこしにきたのかにゃ?」

「いや、違う。それよりお前、いつまでここにいるの?」

「魔王様は優しいし、ご飯も美味しいし、吾輩(わがはい)、ここの子になりたいにゃ」

「断固拒否する」


 昨日の夜、残ったみんなでご飯を食べてから、ミアキスがめっちゃ懐いてしまった。

 チハルとレイアだけでも大変なのに、これ以上扶養家族を増やすわけにはいかない。


「それより一つ聞きたいんだが、ここで感じた魔王の気配、あれから一度でも感じたか?」

「いや、全く感じないにゃ。こんなに近くにいても、クソザコのようにしか見えないなんて、魔王様の力を隠す能力は凄すぎるにゃ」


 久々のクソザコ攻撃に、涙で目の前がかすむ。

 しかし、ここでミアキスが気配を感じてくれたら、魔王候補がかなり絞れたのだが。


 一ヶ月後のギルド大武会。

 もしそれまでに本物の魔王を見つければ、俺は晴れて無罪放免、大会になど参加しないですむだろう。


 魔王候補はあの場にいた十二人。

 帰った六人と残った六人。

 一体、どちらに魔王はいるのか。


「おい、クソネコっ。てめえ、あれで勝った気になってんじゃねぇぞ」


 少し離れた所で、狂戦士(バーサーカー)ザッハが大剣を素振りしていた。

 なんで、お前まで帰らないんだ……


「俺様は暴走することにより、十倍以上の力を発揮するんだっ。あの時は真の実力の片鱗すら見せていなかったのだっ。いいか、大武会では逆にお前をコテンパンにしてやるからなっ」

「はいはい、わかったにゃ。なんなら今すぐ相手してやってもいいにゃ」

「……い、いや、大きな舞台で倒したいから、今はやめておこう。け、決して(おく)したわけではないぞっ」


 誤魔化すように大剣をブンブン振るザッハ。

 コイツが魔王ということはないと思うが、もしかしたら弱いふりをしているということもあるかもしれない。

 一応、警戒はしておこう。でもたぶん違う。


「ああ、そうだ。魔王さん。晩御飯は脂っこいものが食べたいから肉にしてくれ。狂戦士には脂が必要なんだ。あとご飯は最初から山のように盛ってほしい。いちいちおかわりが面倒くさい」


 お前まで、まだいるつもりかっ。

 洞窟前の円卓のほうでは、ゴブリン王とリックが将棋という東方のゲームをしている。

 まさか、みんな一ヶ月先まで居座るつもりじゃないだろうな?

 それはまずい。魔王だとか魔王じゃない以前に、食料の備蓄がなくなって、冬が越せなくなってしまう。


 そんな事を考えている俺の前に、一羽の伝書バートが飛んできて、前回と同じ黒い封筒を置いていく。


「まさか、もう向こうの代表が決まったのか?」


 慌てて封筒を破って中身を見る。

 案の定、代表者の名前が書かれていた。


「ああっ!」


 後ろから手紙を覗いていたザッハが大声を上げる。


「俺様の名前が入ってねぇっ!」


 うん、そこどうでもいい。


 そんなことより、ギルド側の代表者に書かれている名前に目を疑う。


 アリス。


 そこには確かにその三文字が刻まれていた。


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