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百九十一話 始まりのパーティー?

 

「タクミさんは、本当に色々なものに好かれますね」

「う、うん、なんでだろうね、あっ、こらっ、ミノッチ、顔はやめてっ」


 ミノタウルスのミノッチに、顔面をベロンベロン舐め回される俺を見て、レイアがあきれた顔をしていた。

 なんでこんなに懐いてしまったのだろう。倒したのは俺ではなく、白虎なのに。


『ハナレロ、タクミ、ワタシノ』

『ワタシノちゃうわっ、うちのやっ、お前が離れんかいっ』

「タ、タクミさんは誰のものでもありませんっ!」


 右手に握っている呪いの剣さんと腰のカルナが争い、レイアまでそこに参戦する。

 朝も早くから大騒動だ。

 利き腕が塞がってるからご飯もろくに作れない。


「ブモブモっ」

「ぶふっ、は、鼻はやめてっ、鼻の穴に舌をねじこまないでっ! うわっ、カルナっ、こんなとこで必殺技出すんじゃありませんっ! レイアも剣を抜かないでっ!」

「……何をやっとるんじゃ、お主らは」

「おおっ、ヌルハチっ、ちょっとこれ、どうにかしてくれっ」


 じっ、と眺めた後、ヌルハチは……


「ん? どれを?」


 キョトンとした顔でそういった。



「全部だよっ、全部なんとかしてほしいよっ」

「うん、無理じゃな。タクミが変なものに好かれるのは昔からじゃ。あきらめてうまくやっていくがよい」


 騒動の後、ヌルハチと二人で朝ご飯の支度をしていた。

 右手が使えないので細かい作業は出来ないのを、ヌルハチが上手くサポートしてくれている。


「こうして二人で作るのは、タクミが料理下手になった時以来じゃな」

「その節は随分とお世話になりました」


 元々、俺の料理上手は、向こうの世界からこっちに送られた時に付けられた設定だった。

 それを失ってから、また元のように作れるようになったのは、ヌルハチが根気よく付き合ってくれたからだ。※


「下ごしらえは終わったので、後はどうにかなるじゃろ。ああ、そうじゃ、そういえばリックが昼頃、こっちに来るからの」

「え? リックが? いや、嬉しいんだけど、どうしてまた急に……」

「ヌルハチが呼んだんじゃ。サシャにも声をかけたが、絶対行かない! と拒絶されたわ。まぁ、王女の気まぐれかのぅ。……始まりのパーティーを集結させたかったんじゃがな」


 どうして?

 と、いう言葉を飲み込んだ。

 俺も何故かそうしなければならない、とずっと思っていた。


 あの月明かりの日からだ。

 理屈はわからないが、あの日から大切な何かを忘れている気がする。

 そして、それが冒険者時代に組んでいた、始まりのパーティーに関係している気がするのだ。


「みんなが集まったら、この胸のモヤモヤも解消するのかな」


 ヌルハチはそれに答えず、あの日のようにただ空を眺めていた。



 正午すぎにリックが到着し、俺は昼寝をしていたアリスを起こしてきた。


「ふみゅう」


 まだ眠いらしく、ぐずっているが、なるべく始まりのパーティーを揃えたいというヌルハチの意見を尊重する。


「久しぶり、リック」

「ああ、久しぶりだな、タクミ」


 以前のような全身鎧でなく、リックは眩しいばかりのイケメンフェイスを隠していない。


 うん、どうみても俺より主人公ぽい。

 元勇者だし、できれば代わってくれないかな、主人公。


「この先の森にヌルハチがテントを作ってるんだ。面倒だがそこまでついてきてくれ」

「……なるべく、あの頃を再現しようとしているんだな。サシャがいないのが残念だ」

「一応、それも代役をたてたみたいだけど、まあ、とにかく行ってみよう」


 サシャの代役てなに?

 みたいな顔でリックが首を傾げている。


 うん、質問されなくてよかった。

 俺もおんなじこと思ってるからねっ。



 山を少し登ったところにある森のテントに、始まりのパーティーが再集結する。


 俺、ヌルハチ、リック、アリス、そして、

 ……サシャ?


「ヌ、ヌルハチ、このサシャ、い、いやサシャさんは一体……」

「ああ、急にやっぱり来れるといいだしての。全員揃ってよかったのう」


 そ、そうか、あくまで本物というていで話を進めるのか。

 ちょ、ちょっと無理があるんじゃないかなぁ。


「ねぇ、ちゃくみ、しゃら、ふとた?」

「しっ、おくち、ぺいしなさい、アリスっ」

「ふぁっ、ふぁい」


 かなりボリュームを増したサシャ(?)さんが、こちらを睨む。


 こ、怖いっ。本当に誰だよっ、この人っ! やっぱりいないほうがいいんじゃないかっ!?


「……おい、完璧にコピーするんじゃないのか? 子供にもバレとるぞ」

「……申し訳ありません、実物を見て変化していないので。しかし、ヌルハチ殿もこれぐらいだと言ってませんでしたか?」

「……う、うむ、どうやらヌルハチの記憶より痩せとったようじゃな」


 サシャが聞いたら激怒しそうな会話をコソコソ話すヌルハチと偽サシャ。この口調と変化の魔法、絶対アイツじゃないかっ。


「まあいい、とにかく形からというしな。さっそく始めよう」

「えっと、まだ何を始めるか聞いてないけど?」


 あれ? 俺、なんか変な質問したか?


 ヌルハチだけではなく、リックやアリス、さらには偽サシャまで、何言ってんだコイツは? みたいな顔をしている。


「ふん、始まりのパーティーが揃ったんじゃ。やることは決まっておろうが」


 うん、揃ってないからね。若干一名偽物だからね。


 それでもヌルハチは、実に嬉しそうに宣言する。


「冒険の始まりじゃ」


※ ヌルハチと料理を頑張る話は、「第四部 一章 百十一話 ヌルハチキッチン」に載ってます。よかったら読み返してみて下さい。

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