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百九十話 ペットブーム2

 

 どうしてこうなった?


 タクミさんが帰って来たのは夜もふけ、辺りが暗くなってからだった。

 カルナさんのメンテナンスにしては、あまりに遅いので迎えに行こうとした矢先、いつもの優しい気配を感じて外に出た。


「た、ただいま、レイア」


 目を合わせずにタクミさんがそう言った。

 そう、まるでいつもの私のように。


「お、おかえりなさい、タクミさん」


 なんとか、そう言いながら目をこすって、改めて状況を確認する。


 ああ、やっぱりまぼろしなんかじゃない。

 なかなか現実を受け入れられない。


「それ、2本ありますよね?」

「う、うん、増えちゃった」


 タクミさんは未だに目を合わせてくれない。

 ダラダラと汗を流している。

 その両手には、黒い魔剣を2本、握りしめていた。


「え、えっと、右の方がカルナさんですか?」

『なにいうてるねんっ、うちがカルナやっ、そいつがうちのポジションに居座っとるねんっ、レイア、そいつ、引きちぎってっ!』

『……ココハ、ワタシノ、バショ、ジャマシタラ、コロス』


 カルナさんに力を吸わせる修行をしているおかげか。

 最近、ようやく魔剣の声が聞こえるようになってきた。

 どうやら、カルナさんだけではなく、魔剣すべての声を聞くことが出来るようだ。


「カ、カルナさん、すごく怒ってますよ。その怖いこという魔剣、どこで拾ったんですか?」

「う、うん、カルナと間違えて握ったら、離れなくなっちゃった」


 すべてが完璧なタクミさんとは思えない凡ミスだ。

 いや、もしかしたら、なにか深い考えがあってのことかもしれない。うん、きっとそうに違いない。


「どうやら呪いの魔剣のようですね。大きな代償と共に、大きな力を得ると言われていますが、この剣は、一体、どのような能力を持っているのでしょうか」

「それもわからないんだ。魔装備に詳しいソネ…… ソッちんもわからないくらいだから、相当珍しい魔剣だと思う」

『……フフ、イイオンナ、ミステリアス』


 あ、なんかイラッ、としました。

 私、この魔剣キライです。


 ……油断している時に、カルナさんと共謀して、亡き者にしてしまいましょう。


「そういえば、タクミさん、珍しい食材や、ペット捜索に役立つ道具も見てくるって言ってましたけど、なにかいいものはありましたか?」

「う、うん、まあ、あったような、なかったような」


 あ、あれ?

 まだ、タクミさんが目を合わせてくれない。

 まさか、まだなにかあるのでしょうか?


 ん? そういえばタクミさんのお腹が若干、膨れている……


「にゃあ」


 ……ようにゃ。


 にゃっ!?


「タ、タクミさん、お腹から子猫が……」

「あ、あれぇ、気づかなかったなぁ、こ、こいつぅ、どこで潜り込んだんだぁ」

「にゃーん」


 こ、これもなにかの計画なんだろうか?

 そ、そうに違いない。大剣聖であるタクミさんが、私のような失敗をするはずがないっ。


「そ、その猫はおそらく四神柱の白虎ですよね? 随分と可愛くなっていますが、神の気配を感じます。アザトースの所から奪ってきたんですか?」

「い、いや、普通の村人から呪いの剣と一緒にもらったんだよ」

「普通の村人? タクミ村のですか?」


 普通の村人が神を使役することなどありえない。

 神降しの修行を受けた私ですら、四神柱を具現化させたまま従わせるのは、相当な胆力たんりょくを必要とする。


「う、うん、どこにでもいるようなおっさんだったけど、村の人達は誰も知らないみたいなんだ。ソッちんと二人で探したけど、村のどこにもいなかったよ」

「……怪しいですね。『彼女』の関係者でしょうか」

「うーん、そういう感じでもなかったかなぁ」


 呪いの魔剣に、四神柱白虎。

 ただでさえ、完全無敵のタクミさんに、無駄に強いオプションを追加してきた。

 その村人。敵か味方かわからないが、少し警戒していた方がよさそうだ。


「で、さすがに、もうこれ以上はもうなにもないですよね、タクミさん」

「ウ、ウン。モウ、ナニモ、ナイヨー」


 ぼ、棒読みだっ!

 清々(すがすが)しいほどの棒読みアンド目線逸らしだっ!!


「ま、まだ、なにかあるんですかっ、タクミさんっ!」

「はははっ、まさか、レイアじゃあるまいし、ナニカ、アルワケ、ナイジャナイデスカー」

「じゃあこっち向いて、ちゃんと喋って下さい、タクミさんっ」


 肩を揺さぶるが、そのまま首を、力なくぶらんぶらんさせるタクミさん。


 そして、それは大きな足音をたてて、近づいてきた。


「ブモー」

「ブモーって、鳴いてますよっ、タクミさんっ!」

「あれぇ、どこからきたのかなぁ? ボク、ハジメテ、ミルヨ」


 モウの頭に人間の体、巨大な斧を携える魔物、迷宮の王といわれるミノタウルスが子犬のように尻尾をパタパタふっている。


「こ、こらっ、くっつくんじゃない、ミノッチ。知らないフリしていろって言っただろ」

「ブモっ、ブモブモっ」


 なついている。超なついている。


 そこに迷宮の王の威厳は微塵もなく、タクミさんの足にしがみついたミノタウルスはブモ〜、と幸せそうに甘えた声をあげた。


 

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