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百八十九話 二刀流

 

「さすが、タクミ様だ! 一撃でミノタウルスをやっつけてくださったっ!」

「い、いや、今、子猫がやらなかったか?」

「そんなわけあるか、バカ。猫をかばったタクミ様の攻撃に違いないっ!」

「ああ、そうに決まってるっ、早すぎて我々には見えなかっただけだっ!」


 村人たちが騒めく中、白虎が俺の足元に近づいて顔をすりすりしている。

 にゃーーん、と愛らしい白虎だが、その一撃は容赦ない。

 吹っ飛ばされたミノタウルスは、そのまま民家の壁に頭から激突して、突き刺さったまま、ぴくり、とも動かない。


「……お前、どうしてここに?」

「にゃん?」


 聞いてみたが、白虎にもわからないようで、小さく首を傾けている。


 か、かわいい。でもちょっと怖い。


 白虎の能力は、どんな不正行為をも許さない、だったはずだ。

 ミノタウルスがド派手にぶっ飛ばされたのも、悪いことをしていたからだろう。

 そして、俺も勘違いとはいえ、世界中の人々を欺いている。

 もし、白虎がそれを不正とみなすなら、塵も残らないほどの一撃を喰らいそうだ。


「と、とにかく、ソネリオンのところに戻ろう。なんでお前が店にいたのか、聞いてみないと……」

「ソッちん、とお呼び下さい、タクミ様」

「うわぁっ!」


 いきなり背後から声をかけられて、持っていた剣を落としそうになる。あ、落ちないや、よかった。いやいやよくないよっ!


「す、すまん、ソッちん。ちょっと混乱してて。お、村人Aに言われて、カルナと転移の鈴を持ってきてくれたんだな」

「村人A? いいえ、メンテナンスが終わったので、早く届けようとしただけですよ。店にはタクミ様以外、誰も来ていませんよ」

「へ?」


 ど、どういうことだ?

 村人Aは、確かにソネリオンの店に行って、白虎とこの剣を……


「あの、これ、四神柱の白虎と、呪いの剣なんだけど。ソッちんの店にあったやつだよね?」

「いいえ、タクミ様。どちらも初見でございます。しかし、これは、なんといっていいか、実に見事な魔装備でございますね」

『……フフ、タクミ、トモダチ』


 ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!


 この剣、ソネリオンのじゃないのっ!?

 え? じゃあ、あの村人Aは一体誰なの?


 や、やばいっ、めっちゃこわいっ、得体が知れないので、怖さが100倍くらいに跳ね上がったよっ!!


「ちょ、ちょっと、ソ、ソッちん、こ、これ回収して」

「ふむ、手にくっついて離れない、と。……このタイプは少々難しいですね」

「ええっ! お、お願い、早くなんとかしてっ!」


 しかも、利き腕にくっついてるから、カルナが使えない。


『ちょっと、タッくんっ!!』


 あっ、カルナ。

 ソネリオンに丁寧に磨いてもらったみたいでピカピカだ。


『なんなんっ、それっ、浮気やんっ! うち以外のからだをそんなに強く握りしめてっ!! いつからそんな男になってしもうたんっ!? 信じられへんわっ!!』

「ち、ちがうよっ、カルナと間違えたんだっ! 俺が握りたいのはカルナだけだっ!!」

『そんなん信じられへんわっ! 誰にでもそんなこと言うてるんやろっ! もうええっ、うち家出するっ!!』


 ま、まずい。

 ようやく戻ってきたばかりのカルナが、もう家出しようとしているっ!


「お、おい、誤解だと説明してくれっ! そして早く俺の手から離れてくれっ!!」

『……フフ、タクミ、コイビト』

「へっ!? コ、コイビトに進化してるっ!!」


 いや、トモダチでもなかったしっ!

 てか、この呪いの剣、女の子なのっ!?


「ふむ、やはりタクミ様はどんな魔装備にでも好かれる才能をお持ちだ」


 うん、いらない。そんな才能いらない。


「その魔装備の形態がカルナさんと似ているのは偶然ではありませんね。タクミ様に手に取ってもらうために、最も好かれる形に姿を変えたのでしょう」

『え? そ、そうなん、タッくん、う、うちのこと、そんなに好きなん?』


 あ、カルナの機嫌がちょっとなおってる。

 ここは、素直にコクコクと頷いておこう。


『……チッ、タクミ、ウワキモノ』


 うわぁ、今度はこっちだよ。

 超めんどくさい。


「とりあえず今は無理に引き離さないほうが良さそうですね。どんな副作用があるかわかりませんし、誰が何の目的でタクミ様にその魔装備を持たせたのか、それを先に探ったほうが良さそうです」

「た、確かにそうだな」


 やはり、一番怪しいのは村人Aか。

 うーん、どこにでもいるモブのおっさんに見えたけど、どこかで会ったような気もするんだよな。


 あれ? 最近似たようなことがあったような……


「にゃーん」


 あ、そうだった。

 呪いの剣だけじゃない。村人Aは白虎も一緒に連れてきたんだ。


「なあ、ソネリオン、これ持ってきたやつ、敵だと思うか?」

「……」

「な、なあ、ソッちん、これ持ってきたやつ、敵だと思う?」

「強力な魔装備をタクミ様に授けたのでしょう。私は絶対に敵ではないと思います」


 う、うん、やっぱりソッちん呼びじゃないと無視なんだ。※

 今、それどころじゃないんだよっ!!


「くっ、呪いの剣さんに直接聞けたら楽なのにっ」

『ちょっと、タッくんっ、何、新参者と見つめ合ってるんっ! ソッちん、うちも、うちも早くタッくんに渡してあげてっ!!』

「かしこまりました。カルナさん」


 え? カルナもソッちんって呼んでるの?


 ピカピカのカルナを左手に渡される。


『うち、負けへんで』

『……タクミ、ワタシノモノ』


 この日、魔装備二刀流デビューを果たした俺に向かって、白虎は満足そうに「にゃおん」と鳴いた。





※ ソッちんのエピソードは、「第四部 転章 百三十七話 武器商人の小さなお願い」をご覧になってみてください。


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