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百八十四話 宝物

 

「カルナっ!!」


 突然、目の前に現れた『彼女』によって、蜘蛛カルナと魔剣が繋がっていた糸が切断された。

 これまで届いていたカルナの声が届かない。


 ど、どうする!? 『彼女』から取り戻す?


 不可能だ。

 全盛期のアリスでさえ勝てなかった『彼女』に、今の俺では太刀打ちできない。

 なら、できることはただ一つ。


「カルナを返してくださいっ! お願いしますっ!!」


 全力でお願いするだけだ。


「あら、人聞きが悪いわね。別にタクミから取ったわけじゃないの。ちょっと借りただけよ」


 借りたものなのに、糸ちぎらないでっ!


 思わずツッコミそうになったが、ギリギリで押しとどめる。

 ここは『彼女』のご機嫌を取り、気分よくカルナを返してもらいたい。


「え、えっと、カルナに何か用事ですか?」

「そうね。まあ最初は私の話をしていたから来ただけなんだけど」

「え、ええっ!!」


 ま、まさか、カルナと二人で『彼女』の弱点の話をしていたのを聞かれていたのかっ。


「私に内緒話は通用しないわ。この世界で起こった会話のすべてを聞くことができるの。面倒くさいからしないけどね。いくつかキーワードを設定していて、その単語がでた会話だけ聞いてるの」

「そ、そうですか。そ、それは、す、すごいですね」


 あっちの世界で見たキーワード録画みたいじゃないか。

 会話でもそんなことができるのかっ!


 そういえばレイアから、アリスは目を閉じればいつでも俺の居場所がわかる能力を持っていると聞いたが、『彼女』は、あきらかに桁違いだ。


 とりあえずできることはなんでもして、早くカルナを返してもらおう。


「わ、悪気はなかったんです。べつに弱点を知って、そこから反撃しようとかじゃなくて、えっと、そ、そう、ちょっとした好奇心っなんですっ、どうか許してくださいっ、そしてカルナを返してくださいっ、お願いしますっ!!」

「あらあら、気にしなくていいのよ。別に怒ってなんかないから。むしろ、カルナさんには、よく私を観察していたこと褒めてあげたいわ」


 ほ、本当に怒ってないの?


『彼女』の表情は微笑んでいるが、本当に笑っているのか、まったく心情が読み取れない。


「じゃ、じゃあ、カルナを返してくれるんですか?」

「ええ、私の弱点を話していたことなんて、全然まったく微塵みじんも気にしてないから」


 うん、めっちゃ気にしてるやん。

 どうしよう、これ。

 絶対ただで返してくれるはずがない。


『彼女』の手の上にいるカルナがプルプル震えながら、こっちを見つめてくる。


「でもちょっと待ってね。中途半端に魔剣と糸が繋がってたから、一度、切断してちゃんと元に戻してから返してあげるつもりだったの」

「そ、それはありがとうございます」


 ほ、本当か?


 確かにカルナを魔剣から蜘蛛に魂を入れ替えたのは『彼女』だ。

『彼女』なら簡単に元に戻すことができるかもしれない。


「でもね、タクミ。やっぱりタダってわけにはいかないわ。ただより怖いものはないでしょう? 簡単なお願いを一つ聞いてもらっていいかしら?」


 やっぱり何か言ってきたっ!

 絶対簡単なお願いじゃないよっ!!

 弟子より強くなりなさい案件だけでも手一杯なのにっ!!


 カルナのほうをチラ見すると、ぶんぶんと激しく首を横に振っている。


 わかっている。絶対受けちゃダメだ。

 でも、聞くだけなら……


「ど、どんなお願いですか?」

「ちょっとした人探し。いえ、人じゃないわね。迷子になったペットを探してほしいの」


 ペット? やはり、カルナが言ったとおり動物が好きなんだろうか。

 でもなんで俺なんかにペット探しを?

 そういえば、いつも『彼女』の肩に止まっているスーさんを見かけないが……


「もしかして、迷子になったペットってスーさん?」

「ちがうわ。スーさんはおうちでお留守番。見つけてほしいのは、また別の子よ」


 一見、簡単そうに見えるお願いだが、『彼女』が見つけられないペットを俺が見つけることができるのか?


「そ、そのペットが見つかるまでカルナは返してくれないのか?」

「いいえ、探してくれると約束するなら、すぐ魔剣に戻して返してあげるわ。いい条件と思わない?」


 いい条件すぎて逆に怖い。

 再びカルナを見ると、さっきよりも激しく首を振っている。

 大丈夫? それ、首ちぎれないよね?


 いったいどんなペットなんだろう。

『彼女』が見つけられないなんて、絶対ただのペットじゃない。

 とんでもない猛獣とかだったらどうしよう。

 探してるフリだけしようかな、怖いから。


「じゃあカルナを魔剣に戻しましょう。あ、探してるフリだけとかだったら、後でペナルティがあるから気をつけてね」


 うん、バレてた。

 後でレイアやヌルハチにも話して一緒に探してもらおう。


「さて、他の者には魂の転送は難しいかもしれないけど、私にとっては造作も無い、目を閉じていてもできる簡単な作業よ。こうやって、軽く押し込んで ……むっ、意外とかたいっ、むむむっ!」

『いたぁーーーーい!! 痛い痛い痛い痛いっっっ!! なんやこれっ! ヌルハチと同じやんかっ!! 痛い痛い痛い痛いってぇぇぇーーーー!!』


 蜘蛛カルナが魔剣にぐりぐり触れているので、声が聞こえてくる。


『あかんっ! タッくんっ! これあかんてっ!! 弱点のこと話したから、戻すフリして殺されるパターンのやつやん!! 早くとめてっ!! 痛い痛いっ、めっちゃいた…… あれ?』


 すぽんっ、と蜘蛛カルナがいきなり魔剣に吸い込まれた。


『タ、タッくん、うち、元に戻ってる?』

「あ、ああ、うん、ちゃんと魔剣から声が聞こえてる。あ、蜘蛛のほうはどうなったんだ?」

『魔剣の中にちゃんとおるで。長いこと一緒におったから、仲良くやれそうやわ』

「そ、そうか、よかったな」


 さすが『彼女』だ。

 入口にねじ込む時はちょっと苦戦したみたいだが、うまくカルナを魔剣に押し込んでくれた。


「はい、かえすわね」

「あ、ありがとう」

『ありがとうな』


 元々『彼女』に蜘蛛にされていたのだが、それを忘れているのか、俺と一緒に礼をいうカルナ。


「いいのよ、あなたは忘れかけていた、とっても大事な事を思い出させてくれたの。私のこと、よく見ててくれてありがとう」


 そう言って微笑んだ『彼女』の表情は、決して無機質ではなかった。






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