表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
237/420

百八十三話 弱点

 

『ちょっとタッくんっ、あんましジロジロみんといてっ、蜘蛛の姿、恥ずかしいんやでっ!』

「ご、ごめん、カルナ。でもストラップみたいで可愛いぞ」

『え? ほ、ほんまに? ストラップがなんなんか、ようかわからへんけど。まぁ、可愛いいんやったらちょっとぐらいはいいわ』


 アリスとの修行が終わった昼下がりの丘。

 手に持った魔剣の柄から糸が伸び、そこで蜘蛛カルナがぷらんぷらん、と揺れている。

 ヌルハチによる、魔剣への無理矢理ねじ込み作戦は失敗に終わったが、なんとか先っちょだけ魂が入り込めたらしい。

 蜘蛛の身体と魔剣が糸一本で繋がることにより、前のように俺だけにしか聞こえない会話が可能になった。


「会話ができて便利だけど、力を吸ったり、必殺技を放ったりはできないんだよね?」

『そうやねん。もっと入り込んだらいけそうやけど、もう二度とあんな思いしたないわ』


 どうやら、力を放棄するくらい痛かったらしい。


「そうか、ごめんなカルナ。もうヌルハチには渡さないよ。いや、ヌルハチだけじゃない。アザトースや『彼女』にも、もう二度と誰にもカルナを渡さない」


『タ、タッくん……♡ キュン死しそうなるやん!いつのまにそんなたくましくなったん』

「え? そう? そ、そんなには変わってないよ?」


 まあ渡さないと言っても、全力で逃げることしか思い浮かばないんだけどね。


 神降ろしで小さくなれるし、土に潜れるし、高く飛べるし、上手くやれば、結構逃げれるんじゃないかな。


『まあ、タッくんが頑張ってる間、うちもただ蜘蛛になってただけやないで。これでも『彼女』の側でなんか弱点がないか、探っててんから』

「えっ!『彼女』の弱点が見つかったのかっ!?」

『弱点になるかわからへんけどな。タッくんやったら、もしかしたらいい作戦、思いつくかもしれへん』

「ほ、ほほぅ」


『彼女』はあまりにも完璧で、弱点など存在しないと思っていた。

 どんな小さな弱点でも、喉から手が出るくらいに欲している。


「お、教えてくれっ、カルナっ、その弱点、きっと役に立ててみせるっ」

『わかった。耳貸してタッくん。誰が聞いてるかわからんからな』


 たぶん、カルナの声、俺しか聞こえてないんだけどな。

 まあ、そういう雰囲気が大事なんだろう。

 魔剣ごと蜘蛛カルナを、耳に持っていくと……


『うわぁ、近いわぁ、なんか照れるわぁ』

「いいから早く言って。耳元でワシャワシャしないでっ、くすぐったいからっ」

『わ、わかった。ほな、いうで』


 ゴクリと自分が生唾を飲み込む音が響く。


『……実はな、『彼女』な』

「う、うん」

『動物、めっちゃ好きみたいやねん』

「ん? んんんん??」


 あれ? 今、俺、『彼女』の弱点を聞いてたよね?

 動物が好きって聞こえた気がしたけど、聞き間違いかな?


『聞き間違いちゃうで。動物が好きっていうてんで』

「…………へ?」


 う、うん ……それって弱点なの??

 俺も、いや大概の人は可愛い動物とか好きじゃないかな?


「ど、どうしてカルナはそれが『彼女』の弱点だと思ったんだ?」

『うん、あの女、普段からまったく感情ださへんやん。何考えてるかわからんし、誰にも心許してへんように見える。でもな、あの赤い小鳥おるやん。四神柱の』

「あぁ、スーさんのことか?」


 ずっと俺の中にいて、ボルト山まで復活させてくれたスーさんは、『彼女』によってアッサリと奪われてしまった。


『そうそう、そのスーさんと話すときだけやねん。なんかたまーにすっごい優しい顔してる。あれが『彼女』が隠してる素の姿ってところもあると思うで。それとな、あの人多分、人間が嫌いやねん』

「な、なるほど」※


 人間が嫌いか。

 確かに、いつもほのぼのした雰囲気を持っているのに、人を見る目は無機質な様に思える。

 嫌いというより、人に興味がないみたいだ。


 ……ほとんど役に立たない弱点だと思ったが、うまくやれば、少しくらいは隙をつけるかもしれない。


「じゃあ、アザトースの所に行って、スーさん以外の三神も借りてくるか。四神柱の中の亀と龍はイマイチだったけど、虎は猫っぽくなってたよね?」

『そやなぁ、白虎が1番かわいいわ。彼女の心、動かせるかもしれへんで』


 うん、特に青龍はなんだかよくわからないニョロニョロになってたしな。白虎だけ借りれたら、それでいいか。


「スーさんみたいに相性がよければ、白虎も俺の体に入ってくれないかな?」

『え? タッくん、まだ神様、入れる余裕あるん?』

「うん、よくわからないけど、いくらでも入りそうなんだ。身体の中に、なんか、すごい大きな空間があるような気がする」

『な、なんかすごいな。神降ろしの一族でもレイア以外一体しか降ろされへんのに。タッくん、なんか変なもん食べてへん? 悪い病気に感染してへん?』

「食べてないよっ! いいから、とにかくアザトースのとこに行こう。ベビモに乗っていきたいから、カルナ、呼んできてくれない…… え? カルナ?」


 な、なんで? 

 久しぶりにカルナと会話して浮かれていたのか。

 まったく接近に気付かなかった。

 さっきまで手に握っていた魔剣カルナが消えて、はじめてその存在を認知する。


「あらあら、ダメじゃない、タクミ。約束は守らなきゃ」

「カルナっ!!」


 もう二度と誰にもカルナを渡さない。そう誓ったばかりの約束だったのに。


 無機質な瞳をした『彼女』が魔剣と繋がった蜘蛛の糸を、俺の目の前でブチリと引きちぎった。



※ 『彼女』とスーさんのエピソードは「第五部 裏章 朱雀と彼女と白と黒」をご覧ください。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ