表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/420

百八十一話 アイデンティティ

 

「タクミさぁん、神様あまってるんですけどぉ、よかったらぁ、入れちゃいますかぁ」


 早朝からレイアントが神様の押し売りをしてくる。


 う、うん ……神様ってあまってるとか言っていいものなの?


「え、えと、どんな神様かな?」

「はいぃ、蕗乃葉下住人コロポックルといってぇ、小さくなれる神様ですぅ。タンスの隙間に落ちたぁ、カギとか拾うのにぃ、便利ですよぉ」


 ああ、ヌルハチ全裸ねじ込まれの時の神様か。

 あの時の光景は今もまだちょっとトラウマだ。


「小さくなる神様かぁ、うーん、できれば大きくなるほうが強そうだな」

大太郎法師だいだらぼっちはダメですよぉ、すごく私に懐いてるのでぇ、離れたくないそうですぅ」


 そ、そっか。

 なんだか神様というよりペットみたいだな。

 しかし、小さくなる神様か。

 強くなるどころか、弱くなりそうな気もするが……


 いや、まてよ。

 そういえば、向こうの世界に行ったとき、小さくなった男がお椀にのって川を移動したり、鬼の体内に入って中から針で攻撃する昔話を聞いたな。

 まあ、半分作り話かもしれないが、小さくなることで新たな戦略が生まれるかもしれない。


「うん、入れてみようかな。お願いしていいか、レイアント」

「はいぃ、じゃあ、いきますねぇ」


 レイアが目を閉じて集中し、まずは亜璃波刃アリババを神降ろす。

 奪うことも、与えることもできる神。

 レイアの背後に両手を鎖で繋がれ目隠しをされた、囚人のような神がゆらりと棒立ちになっている。


 多邇具久たにぐく宇古呂毛知ウゴロモチを入れてもらった時にも思ってたけど、どこかで見たような気がするんだよなぁ。


 顔、ハッキリとわからないけど、誰かに似てるのかな?


 囚人の知り合いなんていなかった気がするが……


「いってらっしゃい、蕗乃葉下住人コロポックル


 亜璃波刃アリババのことを考えているうちに、身体の中に暖かいものが流れ込んできた。


 これが蕗乃葉下住人コロポックルか。


 入ってきた神様は、頭の中にその姿が浮かんでくる。


 多邇具久たにぐくは、潰れたヒキガエルのような姿で。

 宇古呂毛知ウゴロモチは、ヘルメットをかぶったモグラの姿で。

 そして、蕗乃葉下住人コロポックルは、葉っぱを傘のように刺している着物姿の小さな女の子だった。


「かわいいな、蕗乃葉下住人コロポックル。なんだかレイアに似てる気もする」

「えぇっ! そ、そうですかぁ、て、照れちゃいますぅ」


 巨大な身体をクネクネと動かすレイアント。


 うん、レイアントをかわいいと言ったわけじゃない。


「けどぉ、すすめておいてぇ、あれですけどぉ、小さくなっても強くなれないですよねぇ」

「いや、そんなことはないぞ。目の前でいきなり小さくなったら、相手は消えたと勘違いするし、よけれない攻撃もかわすことができる」


『彼女』と戦うなら、大きくなっても勝てないだろう。

 むしろ小さくなるほうが戦略の幅が広がりそうだ。


「なあ、レイアント。この蕗乃葉下住人コロポックルでどれくらい小さくなれるんだ?」

「えっとぉ、最小で豆粒くらいですねぇ」


 うん、いけるな。

 ちょっと小さくなって色々試してみよう。


「ちょっと出かけてくる。アリスが起きたら、今日の修行は昼からだと伝えてくれ。あと朝ご飯、任せてもいいかな」

「はぁい。じゃあ、朝の修行で剥いたお芋のご飯作っておきますねぇ」


 芋に関してだけは、もはやレイアントはエキスパートと言っても過言ではない。


「ありがとう、よろしく頼む」


 外はまだ日が登り始めたばかりで薄暗い。

 しかし、俺の心は晴れやかで、新しい神様を早く試したくて、ワクワクしながら、いつも修行している丘に向かっていた。



「すもきゅー、すもすもきゅー」


 丘の大きな木の下で、ベビモが丸くなって寝息をたてている。

 うん、元から丸いけどね。

 そして、その上で、蜘蛛子が白い毛に埋もれながら、同じような

 格好で眠っている。いつも仲良しさんだ。


「おはよう、二人とも」

「もきゅ〜ん」


 ベビモが綿毛を揺らしながら目を覚まし、その動きで蜘蛛子も起きてカサカサ動き出す。


「ごめんな、朝早くから。新技を思い付いたんで、ちょっと二人に協力してほしいんだ」

「もきゅもきゅ」


 二人とも同じようにコクコクと頷いてくれる。

 寝起きだというのに、本当にありがたい。


「うん、ベビモと蜘蛛子は本当にいいコンビだな。二人になってから格段に強くなった気がするよ。いまだに俺の攻撃はまともに当たらない」

「もきゅう」


 いややわ、タッくん。お世辞いうても、なんもでえへんよ。


「えっ? 蜘蛛子、なんか言った?」


 あれ? カルナの声が聞こえた気がしたのに、どうして俺は腰の魔剣じゃなくて蜘蛛子に話しかけたんだ?


 少し違和感を感じながらも、とりあえず保留にしておく。

 いまは必殺技を開発することが先決だ。


「ま、まあ、いいか。それより、これを見てくれ。新しい神様を降ろしたんだ。蕗乃葉下住人コロポックルっ」


 小さな神様を降ろし、自分の身体を小さくする。

 おお、蜘蛛子よりも小さくなれるぞ。

 しかも、レイアントの大きくなる能力と同じで、着ている服や装備まで一緒に小さくなっている。


 針よりも小さくなった魔剣カルナを抜いてみると、蜘蛛子が近寄って手を伸ばしてきた。


「だ、ダメだぞ。蜘蛛子。この剣は譲れない。これは俺の大切な相棒なんだ」


 しかし蜘蛛子は止まらない。

 8本の手足をワサワサさせて、剣を奪おうとしてくる。


「ちょっ、やめてっ、こらっ、蜘蛛子っ、そこ触っちゃだめっ、わ、わかった、か、貸すからっ! ちょっとだけ貸してあげるからっ!!」


 こわっ。

 小さい身体で蜘蛛に全身ワサワサされるの、めっちゃこわっ。


 仕方なく魔剣カルナを蜘蛛子に貸してあげると、なんだか慎重な面持ちで、剣を握りしめている。


「か、貸すだけだからね? あげないからね?」

『……タッくん』


 聞こえた。

 今までのような気のせいではない。

 本当にカルナの声が聞こえてきた。

 それもその声は剣からではなく……


「ま、まさか、蜘蛛子。お、お前がカルナなのか?」


 蜘蛛子は魔剣カルナを握ったまま、こくん、と大きく頷いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ