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閑話 レイアントとヌルハちぃ

 ※ご存知の方もおられると思いますがヌルハチは自分のことをヌルハチと呼びます。


「ちぃ〜〜、ん、よいしょ、と」


 大きく背伸びをして、そのまま身体に魔力を流し込む。

 小さかった身体はみるみると大きくなり、ヌルハちぃ形態から、元のヌルハチへと復活する。


「ふぅ、完全に魔力が戻ってきたのぅ。もうヌルハちぃでいるほうがしんどいわ」


 タクミが出かけたのを見計らってたびたび戻っていたが、もうヌルハちぃのままでは、膨大な魔力を抑えきれなくなっていた。


「あらあらあらぁ、もどってるじゃないですかぁ、ヌルハチどのぉ、それではぁタクミさぁんに、かわいがられませんよぉ」


 一部始終を見ていたレイアントが、地下室から顔を出し、嬉しそうに、ニマニマしている。


「ふん、そういうお主こそ、もう元に戻れるはずだ。いつまで巨大化しとるつもりだ?」

「あらぁ、気づいてたんですかぁ」


 巨大な風船が萎むように、急速にレイアントの身体が縮んでいく。

 ヌルハチと違い、服まで一緒にサイズが変わるのでちょっと羨ましい。ちなみに、ヌルハチはいま全裸である。


「最初に大きくなったときはコントロールできなかったんですけど、いまはもう自由に元に戻れます。きっかけはお使いに行った帰りに、なぜか勝手に私の中に入ってきた巨大な神様のせいでした」


 確かに、あの時、世界になんらかの歪みが生じていた。

 それがレイアの神降ろしを暴走させたのであろう。


「でも普通サイズでいるより大きいほうが、タクミさん優しいんですよ。なんでですかね?」

「タクミは女に慣れとらんからの。通常サイズだと緊張するんだろう。はぁ、どこかで魔力を使いたいが、もうすぐ最終決戦の予感もするし、どうしたものか」


 ヌルハちぃでいる時のタクミの甘やかしぶりは天井知らずだ。

 もういっそのこと、世界の危機などほっておいてタクミと甘い生活をおくるのも悪くない。


「なんか、ダメダメなこと考えてません?」

「ちぃ、ちちちちぃ」

「……その姿で、ちぃちぃ言っても可愛くありませんよ」

「ちっ」


 どうやらレイアは味方ではないようだ。

 このままでは、マスコット的存在としてタクミと末永く暮らしていく計画が阻止されてしまう。


「そういえばレイアの、その大きくなる力は無制限なのか?」

「ええ、特に制限なく協力してくれます。ねぇ、大太郎法師だいだらぼっち


 自分の中にいる神に話しかけているのか。

 どうやら、関係は良好そうだ。

 くそぅ、こちらは魔力のコントロールが難しいというのに。ちょっと羨ましいぞ。


「あー、ものは相談だが、タクミに教えたようにヌルハチにも神降ろしを教えてはくれんか? 身体を小さくする神様とかいないかの?」

「いるにはいるんですが、無理ですよ。普通は生まれもっての素質と厳しい修行がないと神降ろしは使えません。宇宙最強のタクミさんだから、なんとか成功したんですよ」


 うん、なるほど。誰でもできるという事だな。


「大丈夫だ、問題ない。すぐに教えてくれ」

「……知りませんよ、どうなっても」



 レイアが目を閉じて集中する。

 うっすらと背後に、両手を鎖で繋がれ、目隠しをされた異形の神が浮かんできた。


 あれがレイアの主神、亜璃波刃アリババか。


 神を強奪できる神。

 その反則級の能力はさらに進化を遂げ、神降ろしの一族からだけではなく、世に存在するあらゆる神を奪い、連れ去ってくることができる。


「……いた。おいで。蕗乃葉下住人コロポックル


 小さくなれる神を見つけたのか、レイアがその名前を呼ぶと、背後の亜璃波刃アリババが鎖で繋がれた両手を天に掲げた。

 そこに小さな光のようなものが集まり、レイアの中へと吸収されていく。


「ふぅ、小さくなれる神、降ろしました。今からこれをヌルハチ殿に入れちゃいます」

「へ? それだけなのか?」

「はい、それだけですけど、なにか?」


 んんんっ!? 思っていたのと、ちょっと違うぞ。

 タクミが今、神降ろしを使えているのは修行したからでなく、まずはレイアが降ろした神をタクミの中に注入していたのかっ!?


 い、いきなり神様なんて入れても大丈夫なものなのか?


「あれ? ちょっとビビってます? やめときます?」

「馬鹿にするなっ! 我が名はヌルハチ。ヌ族、ルシア領、第372代目ハシュタル家当主、大賢者チルトだ。神降ろしなど容易たやすくマスターしてくれるわっ!!」


 これでもう後には引けぬ。

 さあ、いつでも神を…… っ!!?


 レイアが手をかざすと、光の塊がヌルハチの中に入っていく。

 だが、それは小さな穴に無理矢理大きいものがねじこまれていくような、例えるなら、鼻の穴にスイカをぶち込まれるような、つまり……


「いたっ! めちゃくちゃ痛いぞっ! これ、無理じゃないかっ!? 絶対、無理だっ!!」

「頑張って下さい。さすがヌルハチ殿、無理矢理詰め込めばなんとかなりそうです」


 限界なので、逃げようとしたら、レイアに首根っこをつかまれた。


「おまっ、こらっ、はなせっ!! 痛い痛い痛い痛いィィィィッ!!!」

「ダメですっ!! あと少しですっ!! 暴れないでっ!!」

「はなせぇぇっっっ!! 貧乳ぅぅっっっ!!!」


 これはダメだっ、絶対にダメダメなやつだっ!


 どうやらヌルハチの中に神が入れるスペースはないらしい。

 いや、これ普通の人間には無理だろう。

 タクミが神を降ろせたのは、皆が持っているはずの器が空っぽだったからなのかっ!?※


「はいらないっ! それはもう入らないっ! 入れるんじゃないっ!!」

「先っちょは入ってますっ、ここをこうグリグリすればっ!!」

「うおっ、そこはっ、よせっ、でてしまうっ、なんかでちゃうぅっっ!!」

「ただいまぁ〜………え? ええぇーーーーっっ!?」


 最悪のタイミングで帰宅するタクミ。


 全裸のヌルハチがレイアに覆い被され、無理矢理、異物をねじ込まれている現場を目撃される。


「ちぃちちちぃちぃ?」


 ……ヌルハちぃに戻って可愛く振る舞ったが、タクミはしばらく目を合わせてくれなかった。


※ タクミの器に関しては、第一部 一章 「閑話 アリスと大賢者」でヌルハチが語っています。だいぶ前のお話なので、よかったらご覧になって見て下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] タクミの場合、器が空っぽと言うより 器そのものが無いレベルやからなあ 下手すると世界が一つ丸々入り兼ねん
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