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百八十話 タクミバーサスアリス

 

「ちゃくみ、ただいまぁ」

「うん、おかえり、アリス」


『彼女』の元から帰ってきたアリスを、いつもの丘で出迎える。

 両手に二本の木刀を握りしめて。


「どうだった? 『彼女』との料理修行は?」

「ん〜とね、こうバビュンってかんじで、ドゴーンってなって、ピッカピカだったよっ!」


 うん、まったくなにもわからない。

 俺には想像もつかないような凄まじい修行だったのだろう。


「疲れてないか? 今日は剣の修行やめとくか?」

「だいじょぶっ、ありしゅ、げんきいぱいだよっ!」

「……そっか、じゃあ、はい、これ」

「んっ?」


 左手に握っていた木刀を渡すと、アリスはそれを受け取り、首をかしげた。


「ちぇいけんちゃくみかりばぁ、とちやうよ?」

「あれは鉄製の本物だからな。練習で使うと怪我するだろ」

「ほほぅ」


 木刀を構えて、アリスに宣言する。


「これから模擬戦を始める。俺を倒すつもりでかかってこい」

「え? ありしゅ、ちゃくみにかてないよ?」

「そんな弱気でどうする。本気以上でかかってこい。そうだな、負けたら晩ご飯抜きだ」

「やぁっ! ありしゅ、ちゃくみのごはんたべゆっ!!」


 アリスを焚きつけて本気にさせる。

『彼女』の条件を守るため、今の俺とアリスの実力を正確に測らなければならない。


 ……大丈夫だ。神降ろしも魔法も覚えた。ベビモや蜘蛛子とも特訓した。なにもできなかった以前までの俺じゃない。


 小さなアリスが木刀を構える。

 俺の身長の半分にも満たないはずなのに、とてつもなく大きく見え思わず、ずりっと後退りしてしまう。


 ……剣だけの力だけなら、もうとっくに俺より強くない?


 嫌な妄想をかき消そうと、ブンブンと頭を横に振り、もう一度、アリスを見つめる。

 しかし、元に戻るどころか、目の前に巨大な岩がそびえ立っているような圧迫感を感じてしまう。


 やばい、まったく勝てる気がしないぞ。


 それでも、今の俺ができるすべてを使って勝たなければならない。


「い、いくぞ、アリス。かかってこ…… っ!?」

「まいりゅっ!!」


 かかってこい、と言い終わる前に、アリスは一直線に俺に向かって飛び込んできた。

 アリスの背後に、蹴り足でできた砂塵さじんが舞い上がる。


「た、多邇具久たにぐくっ!!」


 慌ててカエルの神様を降ろして真上にジャンプした。

 修行の成果なのか、想像以上に高く飛べ、アリスの遥か上空で体勢を整える。


「ひゃー、ちゃくみ、とんだっ」


 ぶおんっ、とさっきまで俺のいた位置で、風を切り裂くような豪快な空振り音が鳴り響く。


 こ、こわっ、めちゃめちゃ強くなってるじゃないかっ!!


『彼女』の元へ料理修行に行ったはずなのに、明らかにアリスが強化されている。


 もしかして、料理修行じゃなく剣も教えてもらったのかっ!?


「くそっ、ちぃちぃちちち、ちちちちぃ、ちちちちち、ちちちぃっ!!」


 空中から落ちる前に、ちぃ魔法を詠唱し、バチバチと木刀に雷をまとわせる。


「わぁ、ビカビカ。ちゃくみ、しゅごい」


 しかし、アリスはそれに動揺するどころか。小さな手でぱちぱちと拍手を送っていた。


「な、なめるなよっ、サンダーソードっ!」


 かすめるだけで、動きを止める必殺の剣。

 もちろん、アリスが木刀で受け止めても痺れさせることができる。


 ……はずだったが。


「ちゃい」

「へ?」


 ただ、それだけ。

 アリスがちょっと、手で払いのけるような動作をしただけで。

 その風圧でサンダーボルトの魔法が吹っ飛んだ。


 だだの木刀になった一撃を、アリスは簡単に振り払う。

 空中からの攻撃をいなされた俺は、ぎりぎりバランスを保ちながら、なんとか地面に着地した。


 や、やばい、やばい、やばい、やばい、やばいっ。


 容赦なくアリスは、俺に向かって一直線に向かってくる。


「ちちちぃちぃ、ちぃ、ちち、ちぃちぃ、ちちちちちぃ!」


 ちぃ魔法で小さなファイヤーボールをアリスに目の前に打ち込んだ。


 命中させるためではない。

 ただの目眩しだ。

 アリスの動きをほんの数秒止めるだけでいい。


宇古呂毛知ウゴロモチっ!!」


 本命は神降ろし。

 穴を掘ることが得意なモグラの神様の力を使い、目の前の地面を木刀で掘りまくる。


「うおおおおぉっ!!」


 固いはずの地面がまるで豆腐のように柔らかくなり、アリスと俺の間に、一瞬で大きな穴が出来上がった。


「ちゃあっ!」


 落とし穴と思ったのだろう。

 今度はアリスが、目の前の穴を飛び越えて、上空から剣を振り降ろす。

 だが、この穴はアリスを落とすために掘ったのではない。

 俺が入るために掘ったのだ。


 すぽん、と宇古呂毛知ウゴロモチで掘った穴に身を沈める。

 再びアリスの剣が、ぶんっ、と大きく空を斬った。


「ちゃくみ、おっこちたっ」


 さすがのアリスも、俺が自分で掘った穴に落ちたのは予想外だったようだ。

 アリスの動きが止まっているすきに、上下左右ジグザグに穴を掘りまくり移動する。


「おおっ、ちゃくみ、どこっ? どこいったっ!?」

「ふふふ、スゴいだろう。レイアントから神降ろしを、ヌルハちぃから、ちぃ魔法を教えてもらったんだ」

「えっ、ええっ!」


 予想以上にアリスがビックリしている。


「いまだっ、くらえっ!」


 地中から木刀を突き上げてアリスを攻撃したが、ひょい、と簡単にかわされた。


「ちゃちゃいっ!!」


 ばきっ、と突き出した木刀がアリスによってたたき折られる。


 ま、まずいっ ……もう攻撃手段がないっ!


「ちゃくみはっ、ありしゅがいないあいだっ、ふたりとなかよしっ、してたのっ!!」


 しかも地面の中にいるのに、アリスから激おこオーラを感じる。


「な、仲良しというか、しゅ、修行だよ。俺も色々頑張らないとアリスに追い越されるからな」

「そんなことないよっ! ちゃくみは、なにもしなくてもっ、うちゅーさいきょうなんだからっ!!」


 アリスがダムダムと地団駄を踏んでいる。うん、かわいい。でもこわい。

 アリスの地団駄で、柔らかくなった地面が崩れてきて、生き埋めになってしまうっ!!


「ちょっとまってっ、ストップだ、アリスっ! やめてえぇぇーーーーっ!!」

「やぁぁあぁっっ!! ちゃくみは、ありしゅとだけ、しゅぎょうしなきゃ、やぁなのぉっっ!!」

「わ、わかったっ、もうしないっ! 俺はもうアリスとしか修行しないっ!!」

「ほんと?」


 アリスがようやく暴れるのをやめたが、間に合わなかった。


 どごんっ、と地面が崩壊し、大量の土とともに、アリスが落ちてくる。


「うわぁああああっ!!」

「ちゃくみぃーーー!!」


 なんとか土の中でアリスを受け止め、宇古呂毛知ウゴロモチで周りの土を取り除く。


「うひひ、ちゃくみぃ」


 腕の中でアリスが甘えながら、にかーと笑い、俺たちの戦いは引き分けに終わった。





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