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二十話 魔王タクミは動かない

 

「んにゃ」


 獣人王ミアキスが円卓の中心で俺を魔王と呼ぶ。

 ほとんどの者があっけに取られる中、最初に動いたのは、円卓に右足を乗せ、立ち上がっていた狂戦士(バーサーカー)ザッハだった。


「とりあえず、死んどけ」


 2メートル近いザッハがその身長と変わらないような巨大な大剣をミアキスに向かって真横に振るう。


 それは剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、(以下略)とりあえず鉄塊だった。


 ぱしん、という軽い音がして、その大剣は軽く受け止められた。

 片手である。

 左手で軽々と、摘むように大剣を掴むミアキス。


「……っ!!」


 ザッハが渾身の力を込めているように見えるがビクともしない。


 ヒョイと左手をあげると大剣ごとザッハが宙に浮く。


「邪魔すんにゃ」

「は、離せっ!」


 そのまま、ミアキスが軽く手首を曲げて放り投げる。

 ものすごい勢いで大剣ごとふっ飛んでいくザッハ。

 あっと言う間に豆粒ほどに小さくなり、遠くから、どかんと何かにぶつかった衝撃音が響く。


 そのままザッハは、会議が終わるまで戻って来なかった。


「噂以上に凄まじいの。魔王四天王の一人、獣人王ミアキス」


 それでもバルバロイ会長の顔からは笑みが消えない。


「じゃが、流石にこの人数を一人で相手はできまいて」

「んにゃ? 出来ますけど、にゃにか?」


 そのミアキスの台詞に、十豪会(じゅうごうかい)の参加者達から一斉に殺気が溢れ出す。


「勇者も舐められたものだな。このエクスカリバーを見ても同じことが言えるか」

「殺戮モード開始。コレヨリ戦闘ヲ開始スル」

「所詮は獣、儂にとってはただの獲物じゃ」

「……迅速かつ静かに、処分する」


 勇者エンド、半機械マキナ、超狩人ダガン、隠密ヨルが立ち上がる。


「ストップっ、一旦、ストーープっ!」


 今にも戦いが始まる寸前で俺は叫んだ。

 ここで殺し合いが始まったら収集がつかない。

 ミアキスが勝っても負けても俺は魔王認定されてしまう。


「話し合いだ。ここは話しあって解決しよう」

「魔王様がそう(おっしゃ)るなら、吾輩(わがはい)は構わんにゃ」


 円卓の上に乗っていたミアキスが、空席となったザッハの席に座る。


「いまさら何を話すのじゃ、魔王タクミ。もう確固たる証拠は出てしまったぞ」


 隣の席のバルバロイが意地悪い笑みを俺に向ける。


「まだだ。俺自身がまだ認めていない」

「まだそんな事をいうか、リンデン、計測じゃ」

「はい。現在出揃った情報を元にタクミ様が魔王である確率を計算致します。二秒で出ました。99.9999%です」


 ほぼ確定の数字が出る。だが、諦めない。最後まで足掻いてやる。だって魔王じゃないんだもん。


「まだ100%じゃない。質問だ。獣人王ミアキス。何故、俺を魔王と思った? お前は魔王の顔を知っているのか?」

「んにゃ? ……いえ」


 これまでおどけた表情だったミアキスがすっ、と真面目な顔になる。


「莫大な力を抑える為、魔王様は精神(アストラル)体となり、人の器に入ります。故に魔王様の真の姿をこれまでに確認したことはありません」


 語尾から、にゃ、がなくなる。

 こっちが本性か。


「では何故、俺を魔王と呼んだ?」

「失礼ながら、復活されてからずっと魔王様の気を探っておりました。今は気配を消しておられますが、数刻前、確かに魔王様の気をこの地で感じたのです」


 ちょっと待て。それって……


 俺は魔王じゃない。それだけはハッキリとわかる。

 

 と、いうことは……っ!


 十豪会(じゅうごうかい)のメンバーを見渡す。

 この中に本当の魔王が存在しているということかっ!


「俺の他にまだ沢山いる。どうして俺に断定した?」

「……数日前、アリスに会いました」


 またアリス来た。

 アリス、今度は獣人王に何したの?


「復活されて十年、魔王様は一度たりとも、その気を表に出されませんでした。我々四天王は、人間の中から独自に魔王様候補を探していたのです。その第一候補がアリスでした」


 確かにアリスが魔王だったら納得してしまいそうだ。


「十年前、魔王様が復活する以前から魔王の大迷宮(ラビリンス)に住み着き、人間とは思えぬ力を持つ女。どう考えても、魔王様が器に選んだ人間だと思っておりました」


 ちょっと待て。魔王が復活する前から、魔王の大迷宮(ラビリンス)にアリスが住んでいた?

 えっ? 俺がアリスを保護したダンジョンて、魔王の大迷宮(ラビリンス)なのか?


「吾輩は確信を持って、残りの四天王と共にアリスの元を訪れました。しかしアリスは魔王様ではなかった。人間でありながら、人間の限界を遥かに超える力、その力を如何にして手に入れたのか、吾輩達はアリスに尋ねました」


 ああ、なんかもう嫌な予感しかしない。


「ただ一言。タクミ様、貴方が教導してくれたおかげだと申されておりました」


 嘘だっ! ダンジョンで拾った時から人間の限界超えてたよっ! 最初から鬼のように強かったよっ!

 心の中で絶叫する。


「もはや、魔王様はタクミ様、貴方以外に考えられません」


 獣人王ミアキスが深々とお辞儀をする。


「もう決まりじゃな」

「確率が120%を計測しました」

「魔王タクミ、勇者として貴方を倒します」

大虐殺(ジェノサイド)モード発動。コレヨリ魔王トノ戦闘ヲ開始シマス」

「魔王か、生涯最後の獲物として相応しいわ」

「……滅殺する」


 バルバロイ、リンデン、エンド、マキナ、ダガン、ヨル。

 円卓の六人、半分が俺を魔王と認定する。

 だが、違う。ミアキスの探知が正しければこの中に、本当の魔王が隠れているのだ。


「タクミさんっ、大丈夫です。タクミさんが魔王でも私はどこまでもついて行きますっ」

「チハルもいっしょにいくっ」


 うん、魔王違うからね。

 ついてきてくれるのは嬉しいけど、レイアもチハルも俺を魔王認定してない?


「わたくしめも、アリス様の指示の元、タクミ様の手足となり、働かせて頂きます」


 いや、お前はいらない。帰れゴブリン王。


「……俺もタクミにつく」


 初めてリックが言葉を発し、俺の方を見てうなづいた。

 ああ、なんだか、すごくほっ、とする。

 リックだけは俺を魔王じゃないと信じていてくれそうだ。

 ……信じてるよね?


「ちょうど半分に別れたにゃ。六対六。バトルするかにゃ」


 獣人王ミアキスのその一言で俺を除く、全員が一斉に立ち上がった。有り得ないほどの殺気が十豪会(じゅうごうかい)の会場を包み込む。


『タッくん、立ち上がらへんの?』


 立ち上がれる筈がない。

 だって腰が抜けているんだもの。


「さすがタクミさんっ。この程度の者共、立つまでもない、座ったまま余裕で倒せるっ。そういう事ですねっ」


 レイアのその言葉に全員が俺に注目する。

 俺に言えることは、もはやあの言葉しかなかった。


「よくわかったな。その通りだ」


 魔王タクミ伝説が始まった。





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