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百七十八話 うちの師匠

 

「ちょっと色々と取り入れてみようと思うんだ」


 アリスを『彼女』の元へ送ったあと、いつも修行している丘にレイアントとヌルハちぃを呼び出した。


「え? もしかして、わたしたちがぁ、タクミさんに教えるんですかぁ?」

「ちちちぃ?」

「うん、二人とも俺の師匠になってくれ」


 このまま、剣の修行だけしていても、すぐにアリスに追い越されてしまう。

 だったらダメ元で、レイアントの神降しや、ヌルハちぃの魔法を習得してみようというわけだ。


「でもタクミさん、神降しはぁ、一族のものがぁ、幼い頃からぁ、特殊な鍛錬をしていないとぉ、身につけられないんですぅ、いくらタクミさんでもぉ、さすがに難しいとぉ、思いますよぉ」

「うん、そんなに強力なやつはいらないんだ。あくまで剣術の補助として使うから、オマケみたいな神様いないかな?」

「オ、オマケですかぁ。わ、わかりましたぁ、調べてみますぅ」


 着物の袖から、巻物のようなものを取り出すレイアント。

 東方の文字で、様々な神様が書かれている。

 うん、これだけいれば、一人くらい、しょぼい神様もいるだろう。


「ちちぃ?」

「ああ、ヌルハちぃも簡単な魔法でいいんだ。こう、剣に炎の魔法をかけて、燃える剣とか。そういうの教えてほしい。カッコいいし」

「ち、ちぃ〜ち」


 ヌルハちぃが、うーんといった感じで考えている。

 あれ? 初歩の魔法でも難しいのかな?


「もしかして、ヌルハちぃ、初歩の魔法、覚えてないの?」

「ちっちっきちぃ」


 困ったように腕を組むヌルハちぃ。


 うわぁ、そういえばヌルハチが使う魔法は、冒険者時代からド派手なものばかりだった。

 駆け出しの魔法使いが使う、ファイヤーボールやサンダーボルトなど見たことがない。

 大賢者というから、全ての魔法が使えると勝手に勘違いしていたが、どうやら色々すっ飛ばして、高度な魔法のみ習得したようだ。


「よし、ヌルハちぃは、これから初歩の魔法を習得しよう」

「ち、ちぃっ!?」

「そして覚えたら、俺に優しく丁寧に教えておくれ」

「ちちぃ、ちちちちぃ」


 レイアントと同じく、ヌルハちぃも、懐から分厚い本を取り出し読み出した。

 エルフの魔法書だろうか。

 俺には読めない記号のような文字がビッシリと書き込まれている。


「二人とも頑張ってくれ。なんとかお手軽に、俺をバージョンアップしてほしい」


 決して楽して強くなろうと思ってはいない。

 手っ取り早くレベルアップしないと、アリスに負けてしまうから、仕方なく楽をするのだ。うん、そうだ。


「タクミさぁん、いいの見つけましたぁ、この神はぁ、どうですかぁ」

「おっ、どんなのだね、レイアント師匠」

「ふわぁ、タクミさんに師匠と呼ばれるのぉ、なんだかぁ、恥ずかしいですぅ」


 レイアントが照れながら、巻物を広げて指さした。


「ん? これは何と読むんだ?」

多邇具久たにぐくと読みますぅ。カエルの神様でぇ、降ろしたらぁ、ジャンプ力がちょっとアップしますぅ」

「ちょっと、って、どれくらい?」

「ええとぉ、1.5倍くらいですねぇ」

「う、うーーん」


 オマケみたいな神様と言ったが、それはさすがにショボすぎる。

 せめて3倍くらい飛べればジャンプ斬りとか、できそうだけど。


「とりあえず保留で。あと二、三個、良さげなやつをお願いします」

「わかりましたぁ、あっ、一応、神様なんでぇ、個はまずいと思いますぅ」

「そ、そうか、えっと、あと二、三神、お願いします」

「はぁい、頑張りますぅ」


 うん、無茶なお願いだと思ったが、意外となんとかなりそうだ。

 カエルの神様ぐらいなら、俺でも降ろせそうだし、余裕があれば、二個、いや二神くらい、いけるんじゃないかな?


「ちぃちぃちーちっ!」


 ヌルハちぃも必死に初歩魔法を習得してくれている。

 しかし、調節が難しいのか、ファイヤーボールとおぼしき魔法は、指先から米粒ほどの小さな炎が出ただけだ。


「二人ともすぐには無理そうだな。剣の修行でもしておくか」


 昔、ヌルハチに買って貰った剣よりは小さいが、普通サイズの剣は難なく使えるようになってきた。

 レイアントとヌルハちぃの横で、一人素振りを始めると、トコトコと丸くて白いものが近づいてくる。


「もきゅ」

「どうした、ベビモ。もしかしてお前も修行に付き合ってくれるのか?」

「もきゅきゅっ!」


 いつもアリスとの修行を見守るだけだったベビモがやる気を見せている。

 レイアントとヌルハちぃに対抗心を燃やしているようだ。


「うん、じゃあ、ベビモはもう少し小さくなって、俺の剣をよけてくれ。あ、攻撃はしないでね。いたいから」

「も、もきゅ」


 動かないまとよりも、動く的のほうが訓練になる。

 ベビモなら、俺の剣が当たっても弾き返してくれるだろう。


「あれ? ベビモ、なんか上に乗ってない?」

「もっきゅ」


 白い綿のようなベビモの上で、黒いものがモゾモゾ動いている。

 蜘蛛だ。

『彼女』が俺を偵察させるために送り込んだ黒蜘蛛だ。


「なんで一緒にいるんだ? もしかして、敵のスパイと仲良くなったのか?」

「もきゅ、もきゅきゅ、ももきゅきゅ」


 ベビモが首を横にブンブン振ったので、蜘蛛が上から落ちそうになる。

 必死にしがみついて耐えたあと、足を三本くらい使って、ゆらすなよ、とベビモの頭をしばいている。


 なんだろう。やっぱり、この蜘蛛、どこかで見たような気がするなぁ。


 さらに黒蜘蛛は、立ち上がって、バタバタと八本の手足を動かしている。どれが足でどれが手かはわからないが。


「もしかして、お前も修行手伝ってくれるのか?」


 そう尋ねると、黒蜘蛛は、うちにまかせとき、といった感じで、自分の胸を強く叩いた。


 ん? うちにまかせとき?


「ま、まあ、よろしく頼む」


 ベビモが綿アメがしぼむように小型化し、その上で黒蜘蛛があちょーとカンフーみたいなポーズをとった。


 二人の師匠と二匹が俺を強くする。


 うん、みんな、頑張ってね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 日本だと神の数え方は「柱」なんだが・・・ タクミ、日本で育って無いからなあ(明後日の方を見ながら
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