閑話 マキエとアザトース
王室から久遠匠弥が去った後、闇を剥がしたアザトースが、静かに階段を降りてくる。
「どうでした? 親子の再会は」
「……どうもしない。いまの匠弥にとって、私が誰であれ些細な事にすぎない」
私は知っている。
本当は、久遠匠弥との最終対決で、ドラマチックにその正体を明かしたかったことを。
そう、新世界で久遠匠弥と暮らした数ヶ月。
彼はダラダラとクソニート生活を送っているフリをして、私を騙していた。
だが、実際は驚くほどに身体を鍛え、コンピューターの知識を学び、街中のカメラをハッキングして、新種の培養生物を操るファイナルクエストンまで習得する。
恐ろしいまでの成長ぶりをさまざまと見せつけられた。
しかし、本当に恐ろしいのは、そんなことでない。
半身が機械で、観察能力に優れている私が、すぐ近くにいて、その強さにまったく気がつかなかったことだ。
「……久遠匠弥は、力を抑えることに優れています。新世界で私と対峙したときも、ありえないくらい弱者のオーラが漂っていました。でも実際は違う。その凄まじい真の力を、身体のうちに隠しもっていました」
相変わらず、息子を褒めると、嬉しそうに、うんうん、と首を縦に振るアザトース。ちょっとウザい。
「しかし、今日会った久遠匠弥は、その力を抑えきれていませんでした。ほんの小さな、まるで駆け出し冒険者のような微弱な力でしたが、それを感じてしまったのです」
「ああ、そうだな。あまりに強くなりすぎて、自分の中にある莫大な力が漏れてしまったのだ。それでも、必死に抑えているのであろう。出ていたのは、何億分の1にも満たない、塵芥のような微弱な力だろう」
ファイナルタクミクエストンを使うときですら、私には全くその力を感じることが出来なかった。
まるで、他の誰かが久遠匠弥の代わりに戦っているかのような。
そんなふうにさえ錯覚してしまうほどの、クソ雑魚オーラしか感じられなかったのだ。
……その久遠匠弥が、力を隠しきれていない。
「それでも『彼女』には到底及ばないはず……」
「ああ、そうだ、今はまだ、な。だが、匠弥は信じられない速度で成長している。聖杯の設定もない人類最弱から、半年も経たぬうちに、我らを超えていったんだ」
そうだ。
ハッキング技術やファイナルタクミクエストンだけではない。
こっちに戻ってからも、四神柱朱雀を奪い、禁魔法を開発し、レイアを巨大化させ、72柱の魔族を蘇らせた。
久遠匠弥の成長も、『彼女』と同じく、我々の想像を遥かに超えている。
「……時間を稼ぐ。匠弥が『彼女』に追いつくまで、私が囮になればいい。幸い、私と匠弥は瓜二つだ」
「無理よ、『彼女』がそんなもの、見抜けないわけがない」
「案はある。あくまでも時間稼ぎだ」
本当だろうか?
四神柱は変化し、四凶を失った。
今のアザトースの力は、久遠匠弥に遠く及ばない。
「大丈夫だ、マキエ。生き延びるだけなら、そんなに難しくはない。『彼女』に捕まったとしても、消去まではされないだろう」
そんな甘くはない。
今の『彼女』は、あの頃とは別物だ。
なんの躊躇いもなく、すべてを壊すような、そんな雰囲気を身にまとっている。
……マキナに会いにいくか。
失った半身を取り戻せば、戦闘能力は飛躍的に跳ね上がるはずだ。
もっとも、すでに別の人格を形成しているマキナと私が、元に戻れる可能性はかなり低いが……
「あ、あのぅ」
急に背後から声をかけられ、びくんっ、となって振り向いた。
バカなっ!?
まるで気配はなかった。
一体、この男は、どれほどまでに自らの力を抑えていられるのか。
「……か、帰ったのではなかったの? 久遠匠弥」
「ああ、一回出たんだけど、忘れ物があって戻ってきたんだ。すぐに声をかけようとしたけど、真面目な話してるみたいだったんで……」
どこまで話を聞いていたのか。
動揺している素振りはない。
アザトースの作戦が間違っていないことを確信する。
時間さえ稼げば、この男は、きっと『彼女』をも超えていく。
「で、何を忘れたの? 久遠匠弥」
「ああ、うん。仲間になったんなら、魔剣カルナを返してほしいと思ったんだけど。ダメかなぁ?」
すでに、『彼女』の手によって、カルナの魂は抜かれ、ただの剣になっている。
そんなことは、久遠匠弥にもわかっているはずだが……
「そうだな、これはお前が持っていたほうがいい」
アザトースが剣を渡すと、久遠匠弥は嬉しそうに、それを腰に収めた。
そうか。『彼女』からカルナを奪い返す。
久遠匠弥は、当たり前のように、そう思っているのだ。
「久遠匠弥、『彼女』との勝敗、どれくらいの確率なの?」
「え? 確率? いや、そんなの決まってるじゃないか。100%だよ。いや200%かな」
『彼女』を超える化物がにっこりと笑った。
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十豪会メンバー登場回です!
超絶に面白いので、みんな見てねー!
次回公開は2月22日火曜日予定です!
漫画版はなんと、あの内々けやき様に描いていただきました。
かなり素敵で面白い漫画になってますので、ぜひぜひ、ご覧になってみてください!!
第7回ネット小説大賞受賞作「うちの弟子がいつのまにか人類最強になっていて、なんの才能もない師匠の俺が、それを超える宇宙最強に誤認定されている件について」
コミカライズ連載がマンガクロス(https://mangacross.jp/)にて3/30(火)よりスタート!!
WEB版で興味を持って頂いた方、よかったら漫画版もご覧になってみて下さい!
またWEB版と書籍版もだいぶ変わっています!
一巻は追加エピソード裏章を多数追加。
タクミ視点では書き切れなかったお話を裏章として、五話ほど追加しており、レイアやアリス、ヌルハチやカルナの前日譚など書き下ろし満載でございます。
二巻は全編がかなり変更されており、さらに裏章も追加されてます!
WEB版では活躍が少なかったマキナや、出番のなかった古代龍の活躍が増えたり、タクミとリンデンの幼い頃のお話や、本編でいつもカットされているレイアの活躍が書かれています。
書籍版も是非、よろしくお願い致します!
⬇︎下の方にある書報から二巻の購入も出来ます。⬇︎
これから応援してみよう、という優しいお方、下のほうにあるブックマークと「☆☆☆☆☆」での応援よろしくお願いします!
すでにされている方、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
茄子炒め 様から素敵なレビューを頂きました。
いつも応援ありがとうございます!
言葉にならないほど感謝しています!
感想も、どしどしお待ちしています!