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閑話 彼女と蜘蛛とクロエ

 

「みなさん、朝食ですよ、起きてくださいね」


 透き通るような彼女の声が聞こえてきて、慌てて目を覚ます。

 洞窟の中に微かな光が差し込み、朝日が登り始めた頃だと察知する。


「ふ、服っ! 急がないと、あ、あわわわっ」


 遅れたら朝食抜きのうえ、厳しい罰を与えられる。

 しかし、普段から服なんて着ていなかったので、素早く着替えるなんてできない。



『クロエさん、あなた、露出が激しくてハレンチです。コレを着てください』


 そう言って渡された黒いワンピースを、顔をしかめながら受け取った。


「あの、我、ドラゴンなので。服とか着るのはちょっと…… い、いえ、有り難く着させてもらいます、はい」


 彼女に睨まれると、絶対に逆らえない。

 大人しく、ワンピースを受け取って、着ることになったのだが……


「あ、あかん、翼が邪魔で通らへんっ、しっぽ、しっぽを先に穴に入れへんとっ!」


 毎朝、着替えるのに大苦戦だ。

 こんなことなら、タクミ殿と一緒に洞窟から出るべきだった。


「……いや、それはできへんな。彼女、じいちゃんやカル姉のこと、なんか知ってるはずや」


 行方不明になってる古代龍エンシェントドラゴンのじいちゃんの匂いが彼女に付いていた。

 しかも、アザトースが持っていたはずのカル姉の匂いまで、強く残っている。

 さりげなく、じいちゃんのことを彼女に尋ねてみたが、知らぬ存ぜぬを貫かれた。


「うちの鼻を舐めたらあかんで。タクミ殿を見つけたんも、うちやからな」※


 絶対に証拠を掴んで、じいちゃんとカル姉のこと見つけたる。

 ……まあ、今は、大人しく従うしかないけどな。


「はい、あと十秒でお仕置きですよ。10、9、8……」

「うわぁあぁ、ちょっ、ちょっとまってぇっ!」


 半分しか着てへんけど、慌てて食卓へ向かう。

 ワンピースが絡んで、うちは見事にズッコケた。



「それで朝ご飯抜きのうえ、腕立て1000回なのね」


 ふもとのタクミ村に、食材の買い出しに行っていたナギサが帰ってきて、あきれたようにそう言った。


「もう服着たまま、寝た方がいいんじゃない?」

「ふっ、ふっ、そんなん、ドラゴンとしてのプライドが許さへんわっ、だいたい、ほんまは服なんて、着たないねん。人間形態の時は、ちゃんと大事なとこは鱗で隠れてるねん。なんで、みんな、そこをわかってくれへんねんっ」


 彼女には言われへんから、腕立てしながらナギサに思いきり愚痴っとく。


「まあ、彼女、そういうの厳しいからね。あれは恐らく…… そ、それじゃあ、クロエ、頑張ってね」


 ナギサの背後にいつのまにか彼女が立っていた。

 あわててナギサが逃げるように去っていく。

 かなり接近するまで気付かなかったのだろう。

 まるで空気のように、彼女の気配は薄い。

 うちのように匂いで察知しないと、目視するまで気付かへん。


「クロエさん、腕立ては終わりましたか?」

「……あと百回でおわりや」

「正確には後98回ですね。正直でよろしい」


 どうやって数えてたんやろ?

 彼女の能力は底がしれない。

 アザトースやアリス、そしてタクミ殿とも違う、気持ち悪い不気味な力や。


「しかし、その言葉使いは感心できませんね。興奮すると関西弁がでてしまうようですが、それも直していきましょう」

「関西弁?」

「ああ、こちらではドラゴ弁でしたね。もうここではクロエさんしか話せないので、完全に封印してしまいましょう」


 うちしか話せへん?

 それは、じいちゃんやカル姉、さらにドラゴン一族のみんながここにおらんと言うことか?


 ぎっ、と奥歯を噛み締めながら、言いたいことを堪えて腕立てを続ける。


「それは命令なん? 守らんかったらどうなるん?」

「命令ではありませんよ。お願いのようなものです。守らなくても結構ですが、その場合は一緒に暮らすことができなくなりますね」


 出て行け、ということか。

 それはあの洞窟から?

 それとも、この世界から?


「……すぐには無理かもしれんけど、ちょっとずつ直していくわ ……いきます」

「ええ、ええ、それでいいですよ。クロエさんは素直で好感が持てますね」


 勘にさわる。

 イラっ、とするわ。

 すぐにでも、どつき倒したいけど、勝てるイメージがまったく浮かばへん。

 今はまだや。

 一緒にいて、観察して、なにか彼女の弱点を見つけんと、対抗できひん。


「……腕立て、終わりました」

「はい、ご苦労様、朝食は温め直して置いてあるわ。食べたら食器はキッチンに置いといてね」

「はい、わかりました」


 言うことを聞いていれば、タクミ殿より美味しい食事を提供してくれ、優しくしてくれる。

 しかし、そこには、タクミ殿といた時のような安らぎはない。


「ん? なんや、この匂いは?」


 彼女が離れた後、ふっ、と嗅いだことのない匂いがした。

 ほんの微かに残った香り。


 この世界にはない匂い。

 なのにどこか懐かしい匂い。

 なぜ、この世界にはない匂いなのに、どこか懐かしいのか。


「……そうや、あの時の匂いとおんなじや」


 もう覚えてへんほど小さい頃、一度だけ嗅いだことがある。


 いつやったやろか。

 まだ小さいうちの手を引いて、カル姉がそこに連れてった。


 エメラルド鉱石で囲まれた大鍾乳洞の奥

 じいちゃんだけが入れる隠し部屋に、うちら二人はこっそり入ったんや。


 そこに何があったかは覚えてへん。

 いや、もしかしたら中のものは、なにも見てなかったのかもしれへん。

 覚えてるんは、じいちゃんにめちゃくちゃ怒られてるカル姉と、微かに漂う、この匂いだけや。


「なんかある、絶対そこに、なんかある」


 ドラゴン形態で行ったら、こっから1時間もかからへん。

 今すぐにでも……


「ん?」


 いつのまにか、小指の指先にキラキラと光るものが、巻き付いていた。

 それは、透明な細い糸のようなもので、洞窟の外まで続いている。


「なんやこれ? いつのまにこんなんついたんや? 蜘蛛の糸? そういえば、ちょっと前まで、彼女の肩に蜘蛛おったな」


 何かの警告だろうか?

 あの蜘蛛が彼女の使い魔だとしたら、こっから離れたら、すぐバレてしまうかもしれん。


「それでも行くしかないわ」


 洞窟の外に出て、窮屈な服を脱ぎ捨てる。

 やはり、警告なのか。

 その途端、蜘蛛の糸がきゅっ、と小指を強く締め付けた。


「うるさいわっ、うちはいくんやっ」


 警告を無視してドラゴン形態へと変形していく。

 全身を鱗が覆い尽くし、背中の翼から巨大化して……


「あ、あれ?」


 いかへんっ、巨大化できひんっ!

 それどころか、翼小さくなってへんか?

 なんや、これ!?

 鱗まで剥がれていくやんかっ!!


 ぼとっ、と何かが地面に落ちた。


「う、うそやろ」


 頭からドラゴンの象徴であるツノがなくなっている。


「うち、人間になってしもた」


 なぜか、未だ小指に繋がっている糸の先から、黒い蜘蛛が姿を現した。



※ クロエが転移の鈴に残ったタクミの残り香で、探し当てたエピソードは、第一部 一章 六話 恐怖はまさしく過去からやってくる に載っています。



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発売から一ヶ月、皆様、もうお手元にありますでしょうか?


小説版にはない面白さ全開です!

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元気に動き回るタクミたちを見てやってください!

どうか、よろしくお願い致します!


挿絵(By みてみん)


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第7回ネット小説大賞受賞作「うちの弟子がいつのまにか人類最強になっていて、なんの才能もない師匠の俺が、それを超える宇宙最強に誤認定されている件について」


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WEB版で興味を持って頂いた方、よかったら漫画版もご覧になってみて下さい!


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タクミ視点では書き切れなかったお話を裏章として、五話ほど追加しており、レイアやアリス、ヌルハチやカルナの前日譚など書き下ろし満載でございます。


二巻は全編がかなり変更されており、さらに裏章も追加されてます!

WEB版では活躍が少なかったマキナや、出番のなかった古代龍エンシェントドラゴンの活躍が増えたり、タクミとリンデンの幼い頃のお話や、本編でいつもカットされているレイアの活躍が書かれています。


書籍版も是非、よろしくお願い致します!



挿絵(By みてみん)

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これから応援してみよう、という優しいお方、下のほうにあるブックマークと「☆☆☆☆☆」での応援よろしくお願いします!

すでにされている方、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.


茄子炒め 様から素敵なレビューを頂きました。

いつも応援ありがとうございます!

言葉にならないほど感謝しています!


感想も、どしどしお待ちしています!

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