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百六十四話 ポケットの中の記憶

 

「ど、どうしたんですかぁ、たくみさぁん」

「うん、ちょっとね、色々あってね、しばらくこっちにいてもいいかな?」


 彼女に居場所を奪われて、洞窟にいるのがしんどくなってきたので、レイアントの所へやってきた。


 大きくなってから、レイアントはヌルハちぃ用に用意したミニチュアハウスを巨大化させて、畑の近くに住んでいる。


「えぇ、も、もちろん、いいですけどぉ、そ、それってぇ、二人きりですかぁ、も、もしかしてぇ、たくみさぁん、わたしのことをォオォオっ」


 巨大な身体をもじもじさせながら、レイアントが赤くなる。


「いや、二人きりじゃないよ。ヌルハちぃもいるんだ」

「ちちぃ、ちちぃっ!」


 ここに、いるよっ! とでも言っているのか。

 肩に隠れていたヌルハちぃが、顔を出す。


「ちっ」


 レイアも釣られたのか、ヌルハちぃと同じようにチを使った。

 なんだかニュアンスは怖かったが。



「いいんですかぁ、たくみさぁん、みんなのご飯つくらなくてぇ」

「うん、向こうは俺よりすごい料理人がいるからね。しばらくはミニチュア料理と巨大料理だけ作りたいんだ」


 もう、比べられるのは沢山だ。

 ほとぼりが冷めるまで、洞窟に戻りたくない。

 あと、毎朝走るのも、正直しんどいのでサボりたい。


「でもぉ、みんな薄情ですねぇ。たくみさぁんの料理より、いきなり現れた人の料理を選ぶなんてぇ」


 レイアントは彼女の料理を食べてないから、そう言えるのだろう。

 それくらい彼女の料理は凄まじかった。

 できれば俺も料理をせずに、毎日彼女のご飯を食べたいと思ったぐらいだ。


「なんだろうな。いままでとは全く違うんだ。今までは、どんなピンチでもなんとかなるような気がしてたんだけど……」


 彼女からは、それがまったく感じられない。

 頼もしい仲間たちも、完全に彼女に胃袋を掴まれている。

 そうだ。確か、ヌルハちぃが喋れなくなる前に彼女のことを、何か言っていた。

 ラスボ…… だったか?

 あれはどういう意味だったのか?


「なあ、レイアント。ちょっと変なことを聞くけど、彼女を見てどう思った? 戦ったら勝てる気がするか?」

「う〜〜ん、そうですねぇ。なんでしょうかぁ、うまく言えないんですがぁ、戦いたくないですぅ」

「それは強そうで勝てない、ということか?」


 レイアントがその巨大な首を斜めに傾ける。


「う〜〜〜〜ん、そういうのじゃぁ、ないんですよぉ。アリス様みたいなぁ、ハッキリわかる強さではなくてぇ……」


 そこで、レイアントは思いついたように、手をパンっ、と叩く。

 鼓膜が破れそうなほどの大音響に思わず耳を塞ぐ。


「わかりましたぁっ、そうですぅ、どこかぁ、たくみさぁんに似ているんですよぉ。私、相手の強さがわからないのぉ、今までたくみさぁんだけでしたからぁ」

「へ? そうなの?」


 ぶぉんぶぉんと大きく頷くレイアント。


 しかし、俺と似ているなら、彼女の力は最弱に近いということになる。

 雰囲気だけで彼女を強いと勘違いしているだけなのか?

 だったら、特に問題はないのだが……


「あの人、たくみさぁんの敵なんですかぁ?」

「いや、それもまだよくわからないんだ」


 そう、彼女はここに来てから、これといって戦いを仕掛けたりはしていない。

 ただ、俺に対して非常に厳しく言ってくるだけだ。

 それも結構(まと)を射たことで、逆らいにくい。

 いや、彼女の言葉には、逆らうことができない力があるのだ。


「どっちにしろ、このままではマズイな。アザトースが攻めてきても、一致団結して戦えない」


 まったく攻めてくる様子がないので忘れがちだが、まだ決着はついてない。

 サシャやカルナも取り戻さないといけないし、バッツも行方不明のままだ。


「どぉするんですかぁ、たくみさぁん」

「うーーん、いまのとこ、どうしようもないな。彼女の前だと、俺、おかしな感じになっちゃうんだよ。なんでだろうな」

「ちぃちぃ」


 肩に乗ったヌルハちぃも一緒に考えてくれているのか。

 二人揃って、手にアゴを乗せて考えるポーズを取る。


「はぁっ! まさかぁっ!!」

「え? なにっ? 彼女の謎が解けたのかっ、レイアントっ!!」

「た、たくみさぁんっ! まさかぁ、あの人のことぉっ、好きになってませんよねえっ!?」

「なってないわっ!!」


 てか、圧迫感すごいからっ! 

 喰われるかと思ったわっ!!


「ち、ちぃぃ」


 肩にいるヌルハちぃも、さすがにビビっている。


「まあ綺麗な人だと思うんだけど、不思議とまったくそういう感情はわかないんだ」


 うん。同い年くらいで、あれだけ美しい人を見たら、普通なら緊張してまともに話せないはずだ。


「ち、ちちちぃ」


 ん?

 ヌルハちぃがなにかに気づいたのか。

 俺の服にある胸ポケットの中に潜り込む。

 もぞもぞと動いたあと、小さな何かを取り出して顔を出す。


「ちぃっ!」


 なんだ? コレは?

 俺はこんなもの、持っていた覚えはない。

 そういえば、この服、最近、自分で洗濯してなかった。

 そうだ。ここに来るまで毎朝、彼女が……


「たくみさぁん、なんですかぁ、コレぇ」


 レイアが知らないのも無理はない。

 コレはこっちの世界には存在しないものだ。


「これは、……USBメモリーだ」


 それは向こうの世界で知った、様々なデータを保存する半導体メモリを用いた補助記憶装置だった。



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