十八話 十豪会 開会
洞窟前の草原に巨大な円卓が設置される。
豪華な装飾の入った直径5メートル程の円卓に、ぐるりと囲むように12の席が用意される。
その席の前には、時計と同じ0から11の数字が刻まれていた。
大事な話は皆が揃ってからじゃ、そう言って、バルバロイ会長は一旦帰宅した。
代わりにメイド服をきた大人しそうなメガネの女の子がやってきて、一人で何もかも準備してしまう。
「バルバロイ会長の秘書を務めさせて頂いておりますリンデンと申します。以後お見知り置きを。タクミ様」
丁寧にお辞儀をするリンデンさん。
ただの秘書でないことは一目でわかった。
お辞儀をしながら片手で巨大な円卓を担いでいたからだ。
「よろしければお茶などは如何でしょうか? こちら西方の香り豊かなブルーローズを使用した特製ハーブティーでございます」
円卓を担ぐ手と逆の手にティーポットとカップが乗せられたお盆が現れる。
先程までその手には何も持っていなかった。
空間を操る魔法を使うのか、確かに設営準備にはもってこいの能力だ。
「ありがとう、頂くよ」
ハーブティーを飲みながら、リンデンさんの仕事ぶりを眺める。
周りの草木を刈り取り、円卓の周りに同じ装飾を施した豪華な椅子を並べていく。
やめて。俺の家の前にこんなもの作らないで。
迅速で無駄の無いリンデンさんの働きにより、あっと言う間に十豪会の会場が出来上がった。
翌朝、冒険者ランキング上位の者たちが次々とやって来た。
正午前には全員が揃い、会場に集結する。
12の席はすべて埋まり、圧倒的な威圧感を持つ冒険者達が並ぶ。
それぞれランキングの数字に合わせた席の前に座わり、俺の前には大きな数字の1の文字があった。
右隣り0の席にバルバロイ会長、さらにその右、11の席にはリンデンさんが座っていた。
そして、最も異質を放っているのは、俺の左側。本来ならアリスが座るはずの2の席に座っている人物だった。
知っている顔。いや、本当につい最近、ここに二度と来ないと誓った人物がそこにいた。
リンデンさんに渡された出席者名簿を、この時初めて確認する。やはり、見間違いではない。
ゴブリン王ジャスラックが座っている。
「お前、もうここに来ないと誓ったよなっ!」
「申し訳ございません、タクミ様。アリス様の命により代理人として、参加させて頂いております」
「なんでお前がアリスの代理なんだっ?」
「永遠の服従を誓いました。わたくしめのちっぽけな命はもはやアリス様のものとして捧げております」
アリス、お前、ゴブリン王に何したの?
なんか、デジャヴを感じる。
古代龍の時といい、アリスと戦った者は、みんな人格が変わっている。人じゃないけど。
「始まります。私語はお控えください」
リンデンさんに怒られる。
大人しく出席者名簿をもう一度確認して、全員の顔と名前を見比べた。
【十豪会出席者名簿】
ランキング零位 会長 「バルバロイ・サウザ」
ランキング一位 宇宙最強 「タクミ」
ランキング二位 人類最強 「アリス」
(代理人)ゴブリン王 「ジャスラック」
ランキング三位 大賢者 「ヌルハチ」
(代理人)幼女 「チハル」
ランキング四位 勇者 「エンド」
ランキング五位 半機械 「マキナ」
ランキング六位 狂戦士 「ザッハ」
ランキング七位 超狩人 「ダガン」
ランキング八位 隠密 「ヨル」
ランキング九位 神降ろし 「レイア」
ランキング十位 沈黙の盾 「リック」
ランキング外 司会進行 「リンデン・リンドバーグ」
突っ込むとこが多すぎて処理が追いつかない。
ヌルハチの代わりに座るチハル。
ランキングに入っていたレイア。
昔の仲間のリック。
ランキングの半分が知り合いじゃないかっ。
さらに初めて見る四位から八位の面々。
一人、一人がかなり濃い。
皆、特徴がありすぎて、これでもかと個性を主張している。
ランキング四位の勇者エンドは、青いマントを羽織り、いかにも勇者です、みたいな格好をしていた。
少し赤毛のショートヘアに栗色の瞳。女の子と間違いそうになる甘いマスクの美青年。さぞかしオモテになるのだろう。
俺がじっと見ていると、エンドはキッ、と睨んできた。
ランキング1位を狙っているのだろうか?
だとしたら、すぐにでも差し上げてしまいたい。
視線をランキング五位の半機械マキナに移す。
右肩から半分が鉄のような金属で覆われていた。
機械でないほうの左半分は、薄手の布を巻いていて、人肌が垣間見える。
顔の下部分は機械のマスクで覆われて上半分しか見えない。さらに伸びた灰色ショートボブの前髪が右目部分を覆っており、顔は目を閉じたような細い左目しか見えなかった。
たまに呼吸するかのように、機械部分が点灯し、空気が漏れるような音がしている。
落ち着いた感じの女性で、俺が見ていても、前を向いたまま微動だにしなかった。
「おい、まだかよ、早く始めろよ」
逆にランキング六位の狂戦士ザッハは落ち着きがなかった。
足を6と書かれた円卓の上に投げ出し、悪態をついている。
巨大な男だった。二メートルはゆうに超える身長に、そのサイズに似合うような巨大な大剣を背負っている。
ボサボサの長い髪に猛禽類を思わせる鋭い瞳、口からは牙のような犬歯が見えている。
着ている服の面積が小さく、盛り上がるような絶大な筋肉がほとんど露出していた。
暑苦しいことこの上ない。
見ていると絡んで来そうなので、早々に隣に視線を移す。
「落ち着け、ザッハ。もう始まる」
隣に座るランキング七位の超狩人ダガンがザッハをたしなめていた。
どうやら二人は知り合いのようだ。
伝説の狩人ダガン。
名前は聞いた事があった。
野生のモンスターの討伐数では、彼の右に出るものはいないとされている。
初老に差し掛かろうという年にも関わらず、その身体からは重厚なオーラが溢れ出ていた。
まるで獣を狩る側でなく、獣そのものと見間違うような男、それがダガンの第一印象だった。
そして最後にランキング八位の隠密ヨルの方を見る。
全身を黒装束に包んでいる為、男性か女性かすらわからない。
ヨルはじっ、と一点、レイアに向けて視線を送っていた。
レイアはあえてその視線を避けるように、正面を向いている。
「……忌子が」
ぼそり、とヨルが呟いた言葉にレイアが反応し、一瞬だけヨルを見る。
しかし、レイアは何事もなかったように再び視線を切り、ヨルを無視していた。
どうやら二人の間には、なにか因縁があるようだ。
「会長、時間です」
「うむ」
太陽が真南に位置する時刻。正午ちょうどを迎える。
「では、これより十豪会を開会するっ! 」
バルバロイ会長の声が草原に響き渡った。




