百五十八話 ジャイアントレイア
登場人物紹介 番外編で、【72体の魔族 おおよその特徴】を、
第五部 二章の終わりに割り込み投稿しています。
イメージがわかりますので、よろしければご覧になって見てください。
『たぁくぅみぃさあぁーーんっ』
バキバキと、大木をへし折りながら巨大なレイアがゆっくりと近づいてくる。
ゆっくりなのに、進行はとても早い。
一歩一歩の歩幅があまりに大きいからだ。
「さ、さて、私は用事思い出したから、帰らせてもらうわ」
「ま、待ってっ、一人にしないでっ」
あわてて帰ろうとするカミラの腕にしがみつく。
「は、離しなさいよっ、アレ、あんたの弟子でしょうっ、一人でなんとかしなさいっ」
「む、無理だよっ、どうにもできないよっ、お前が大きくしたんだじゃないのか?」
「知らないわよっ、村で買い物苦戦してるの見て、その隙に変装してこっちに来たのよっ」
うん、なんとなくわかってた。
また、レイアは一人で勝手になにかとんでもないことをやらかしたのだろう。
「もう、ほんっとアンタたちと関わりたくないわっ、異世界なんてどうでもいいから、向こうに帰って、オシャレして恋して、普通に過ごしたいわっ」
本音がダダ漏れるカミラにちょっと同情してしまう。
『だぁぐぅみぃざああぁぁーーんっ』
かなり近くまでやってきたレイアを見上げ、できれば俺も関わりたくないと涙ぐむ。
その隙を見逃さなかったカミラが、俺の拘束を振り払い、コウモリの翼を広げて、高く舞い上がる。
「ばーか、ばーか、お前らみんな、モウに蹴られて死んじまえっ」
子供みたいな捨てゼリフを残して、去って行こうとするカミラ。
『うっさい』
「ほぇ?」
目の前のハエをはらうように、巨大なレイアの手のひらがカミラに迫り……
ばちんっ、と強烈な音と共に、カミラが遥か彼方まで吹っ飛んだ。
『ただぁいまぁ、たぁくぅみさぁん』
「う、うん、おかえりなさい」
ついに、目の前にそびえ立つレイア。
こわい。これ、ちょっとつまずいたら、俺、踏み潰されちゃう。
「な、なんでレイアは、そんなに大きくなってしまったんだい?」
『わかぁんないですぅ。気づいたらおっきくなってましたぁ。でもでもでもっ! ほらっ! ほらっ! タクミさん、大きいのぉ、好きですよねぇ』
レイアが、嬉しそうにおっきい胸をはっている。
いやいやだから、俺は普通におっぱいが好きなだけなんだって…
だいたいおっぱいだけじゃなくて、全部おっきくなってるじゃないかっ!
ダメだ。この大きさでまた切腹さわぎになったら、俺一人ではどうにもできない。
洞窟の中にいるはずの、ヌルハちぃや、ナギサは一向に出てこない。
くそぅ、みんな逃げたなっ。
そうだっ! こんな時こそ、先輩だっ!
「スーさん、助けてくれっ、レイアが巨大になって帰ってきたっ、元に戻してくれっ」
『いや、そんなん無理やで、タクちゃん。あれ、完全にバグっとるわ』
「え? なに? バグ?」
『メインシステムがおかしなっとる。ターミナルが故障したのかもしれん。身長設定が狂っとる』
スーさんが何を言っているのか、ほとんどわからない。
『神降ろしは、システムの一部を借りるからな、その影響をモロに受けたんや。大きくなりたいという願望が、ねじ曲がって受理されたんやろな。残念やけどシステム復旧まで大きいままや』
「な、なんてこったい」
ヌルハチが小さくなって、ヌルハちぃになったのはなんとかなったが、これはもうどうしようもない。
一回の食事で、おそらく一年分の貯蓄がなくなってしまう。
しかも、この大きさのレイアをどこに置いておけばいいのだろうか。
そして、ヌルハちぃみたいな、可愛いあだ名も思い浮かばない。
「そういえば着ている服ごと大きくなってるな。どういう仕組みなんだ?」
『こんなん初めてやからわからんけど、レイアを触媒としてシステムのバグが漏れてるんやろ。身に付けているものや、長時間触っているものは、同じように巨大化するみたいや』
ほほう。
それなら、衣食住のうち、衣と食はなんとかなりそうだ。
それどころか、レイアに触ってもらえば、食材を大きくしてとんでもない巨大料理が作れるかもしれない。
「あ、そういやレイア。モウ乳は買ってきたのか?」
『はぁい、タクミさぁん、今度こそぉ、ちゃんとぉ、買って参りましたぁ』
レイアが胸元から、モウ乳瓶を取り出した。
予想通り、俺の身体と同じくらいの超ビッグサイズだ。
「すごいぞ、レイア。これなら、仲間だけじゃなくて、お世話になったタクミ村の人たちや、魔王の大迷宮で待機してる魔族たちにも、料理が振る舞える」
『う、嬉しいですぅ、タクミさぁん。はじめてぇ、おつかいで褒められましたぁ』
巨大なレイアが涙ぐんで喜んでいる。
一粒の涙が、どしゃっ、とまるで洪水のように降り注ぐ。
『あぁ、すみません、タクミさぁん』
「いいよ、いいよ、大丈夫だ」
ずぶ濡れになった服をしぼりながらレイアに提案する。
「それより、山で採れた食材を大きくなるまで触っててくれないかな。今日から毎日、巨大料理祭りにしたいんだ」
『はいっ、タクミさんっ』
うん、予想外だったけど、これはこれでよかったかもしれない。
最初は怖かったけど巨大なレイアもなんだか可愛くて見えてきた。
『なあなあ、タクちゃん、巨大料理もいいけど、レイアにみんなを巨大化してもらったら、簡単にアザトース倒せる気せえへん?』
「ダメだよ、スーさん、そんな反則みたいなことできないよ。バグだったら、ちゃんと戻ってから正々堂々戦わないと」
『タクちゃんは真面目やなぁ。まあ、そういうとこがええんやけどな』
向こうの世界で、巨人が人間を襲う漫画を見たけど、ちょっと怖かった。
戦うにしても、遺恨を残さず、出来るだけ平和に戦いたい。
『タクミさぁん、大きくなりましたぁ』
巨大な山の食材を抱えて、レイアが戻ってくる。
「おかえり、レイアント」
ごくごく自然に、巨大レイアのあだ名が口からこぼれ出た。
タクミの性癖については、
第四部 序章『百九話 二回目のおつかいインフィニティ』
の最後でタクミ自身が叫んでます。
ぜひご覧ください(=^ェ^=)




