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十七話 またきた誤認定

 

 ゴブリン王の襲来から三日が経ち、久しぶりに特に何もない平穏な日々を送っていた。


「今日の昼はキノコと鶏団子の鍋だ。キノコはチハルが取ってきてくれたんだよな」

「うん、チハル、とってきたっ」


 三人と魔剣のカルナで鍋を囲む。

 チハルは俺の膝の上が定位置になり、正面に座るレイアが羨ましそうに見つめている。


『うまそうやなぁ、後で汁だけでもかけてくれへん?』

「後で洗うの大変だから却下で」


 それでも雰囲気だけでもと、カルナの分も器によそう。

 お供え物みたいになってしまったが、カルナは満足したのか何も言わなくなった。


 平和な午後が過ぎていく。


 すでに十豪会(じゅうごうかい)の手紙の事など、すっかりと忘れていた。


「わしにもよそってくれんかの?」


 その声を聞くまでは。



 レイアが驚いて、後ろに飛び退いた。

 声を聞くまで、ここにいる誰もがその老人の存在に気がつかなかった。


 俺の左側、レイアの右側に枯れ木のように細い、しわしわの老人が座っていた。

 鍋を囲む俺たちの中に自然に紛れ込んでいる。


 一体いつからそこにいたのか。

 俺はともかくレイアにすら気配を感じさせなかったことに驚きを隠せない。

 それでも平静を装い老人に鍋をよそう。


「な、何者だっ」


 レイアがカタナに手をかけようとするのを、手のひらを前に出して、制止する。


 この老人を俺は知っていた。


 最も戦いたくない相手。

 過去にヌルハチがそう言っていた老人。


 冒険者ギルド 会長 バルバロイ・サウザがそこにいた。



「ふぉふぉふぉ、うんまいのぅ。これはなんじゃ、つみれに鳥の軟骨を砕いていれておるのか」

「ええ、潰したレンコンも混ぜ、芋から取り出したデンプン粉を水でとき、とろみもつけています。食感が楽しめるでしょう」

「うむうむ、美味美味」


 押せば倒れそうな老人。

 見た目だけなら、誰もがそう思うだろう。


「純粋な強さだけなら古代龍(エンシェントドラゴン)やアリスのほうが遥かに強いだろう。だが、一番戦いたくないのはバルバロイだ」


 ヌルハチにそうまで言わせるバルバロイの戦い方を聞いたことがある。

 不意打ち。

 あらゆる手段を使って相手の不意をつく。

 自分を弱く見せ、油断させ、気配を殺し、罠を張り巡らせる。

 そして、確実に相手を倒せるその瞬間のみ、爆発的にパワーを上げて一撃で仕留める。


 ヌルハチの話を聞いていなければ、にわかに信じられなかっただろう。

 こんな俺でも勝てるんじゃないか、そう思えるほど、バルバロイはか弱く見える。


「あのじじい、きやい」


 膝の上のチハルがバルバロイをじっ、と見た後、ぷいっ、と顔を背けた。


「ふぉふぉ、嫌われてしもうた。飴ちゃん、いるか?」

「いりゅっ」


 飴ちゃんを奪うように取って、すぐにそっぽを向くチハル。

 ヌルハチと同じでかなりバルバロイの事が嫌いみたいだ。


「で、今日はどのようなご用件でこちらに来られたのですか? バルバロイ会長」

「ああ、うん、先日、十豪会(じゅうごうかい)のお知らせを届けたのだが見てくれたかの?」

「いえ、見逃しておりました」

「はて? 封を開ければわしにわかるようになっておるのじゃがの」

「さあ、獣か何かが開けたのではないでしょうか」


 お互いにこやかな顔で談笑する。

 はっきり言おう。超怖い。


「そうか、それは……」


 バルバロイの気配が一瞬、消えそうになるほど希薄になる。だが、次の瞬間。


「仕方ないのう」


 爆発的にその存在が膨れ上がった。

 いきなり目の前に数十メートルもの巨人が現れたような存在感。

 圧倒的な力と重圧が洞窟を包み込む。


「かっっ!」


 レイアが飛び上がるように立ち上がりカタナを抜く。


『なんやっ、やるんかいっ』


 カルナも勝手に鞘から抜けて黒玉を出している。


「挑発だ、静まれ、二人とも」


 そう言ったのはチハルだった。

 また、大人の声だ。

 先程までとは違い、真剣な表情でバルバロイを睨んでいる。


「すまんすまん、ちょっと反応を見たかったんじゃよ」


 ふっ、と風船がしぼむようにバルバロイの気配が小さくなる。


「やっぱり、このじじい、きやいっ」


 同時にチハルが元に戻って、俺に抱きついてくる。

 レイアとカルナも落ち着いたのか、再び席につく。


「お主の力、少し垣間見ようとしたのだが、あれに反応しないとは、底がしれんの」

「当たり前だ。タクミさんはお前如きが測れるような小さな器ではないわっ」


 レイアさん、挑発しないで。

 器、小さすぎて測れないの。

 ビビって動けなかっただけなの。


「まあ、用件は簡単じゃ。十豪会(じゅうごうかい)にランキング一位のお前さんがおらんのは格好つかんからな。ギルド本部で開催するのはやめて、ここで開催することにしたんじゃ」

「は?」


 あまりの驚き展開に言葉を失う。


「もうすぐ皆がここに集結する。ああ、茶はいらんよ。雑用はわしの部下がやるからの」


 ヌルハチが嫌うのもよくわかる。

 食えない爺さんだ。

 人が嫌がることを瞬時に見抜いて実行に移すことに長けている。


「なら俺はギルドを抜けます。元々、引退したつもりだったので、なんの未練もないですしね」

「タクミさんっ、ランキング一位の座を惜しみなく捨てられるとはっ。なんという偉大な心構えっ。そうですねっ、そんな称号などなくとも、ご自身が宇宙最強であられる事は、かわりのない普遍の事実ですものねっ」

「よくわかったな、その通りだ」


 レイアの言葉にかぶせてちょっと食い気味に言う。

 もうこの話を終わらせたいっ。


 元々、ギルドに行って、ランキングから外してもらう予定だった。会長に直接言えたし、手間が省けて好都合だ。


「そいつはやめておいたほうがいいのぅ」


 だが、バルバロイは真っ白く伸びた自らのあご髭を触りながら、不敵な笑みを浮かべる。


「今回、始祖の魔王が復活したことで、この集まりを開催しようとしたのは、見たじゃろう?」


 確かにそう書いてあった。

 だが、頷きはせず話を聞く。


「しかし、わしらは魔王の場所を把握しとらん。わかっているのは十年前にすでに復活していたこと、そして現在、力を隠し、どこかに隠れているということ、その二つだけじゃ」

「それが俺がギルドを辞めるのとどう関係が?」


 その質問にバルバロイが本当に嬉しそうな笑みを浮かべて、俺を指差す。


「冒険者ランキング一位 タクミ。ギルドは今、お(ぬし)を魔王の第一候補として疑っておる」


 エッ? ……ついに俺、魔王に誤認定!?


 冒険者ランキング一位の最強魔王が今、誕生しようとしていた。









 

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[良い点] wwwwww 真相を知っていればwwまあ、そこそこw無い話な はずなのにwwww このお話ww巧すぎですヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪ 素晴らしい(∩´∀`)∩ワーイ♬︎ 電車で、き…
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