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閑話 アリス 強さより大切なもん?

 

 木製の両開きの扉を開けて、酒場にやってきた。


 まだ、日も明るく、客はまばらだが、それでもテーブルには数人の冒険者たちがエールを飲みながら談笑している。


 ワタシは、まっすぐに店主がいるカウンターに向かい、昼間に仕留めたボアの肉の塊をどん、と置いた。


「これで、いつものやつを」


 あからさまにイヤそうな顔をしながら、それでも店主はボア肉を受け取り、それを捌いて調理を始める。


「あのなぁ、ここは普通の酒場なんだ。物々交換じゃなくて、ちゃんと換金してきてくれねえかなぁ」

「ごめん、次は頑張ってみる」

「……前もそう言ってたんだよなぁ」


 ブツブツ言いながらも、店主は料理を作ってくれる。

 ちゃんと換金しようと思っているのだが、そんな時間はワタシにはなかった。

 本来なら、こんな所によらず、肉など生のまま、かぶりつきたいくらいだ。

 だが、それでも毎日、この酒場に通っているのは……


「おい、知ってるか。また、新たな伝説が誕生したぞ」


 テーブル席の客から声が聞こえてくる。

 来たっ!

 五感を特化させ、ぴくんっ、と聴力のボリュームをマックスまであげる。


「おいおい、またかよ。この前、消失したボルト山が復活したばかりだぞ」

「ああ、そうだ。またやってくれたんだよ。今度は魔王の大迷宮ラビリンスで、数千年前に滅んだ魔族たちを復活させたらしい」

「う、うそだろっ!? マジかよっ!!」


 おおおおっ、とテーブルに歓声が巻き起こる。


 ワタシも思わず、ガタッ、と椅子から立ち上がってしまう。

 バカなっ! 魔王の旧友っ、あの72柱の魔族を復活させたのかっ!?


「な、なんだっ!? まだできてねえよっ、ちょっとまってくれっ!」

「いや、すまん。ちがうんだ。ゆっくり作ってくれ」


 盗み聞きをしていることがバレたら面倒だ。

 なんとか平静を装って、椅子に座り直す。

 しかし、それでも心臓の鼓動は早鐘を打つように、ばくんばくんと鳴り続ける。


 どこまでだっ!

 どこまで強くなっていくんだっ!


「なあ、それってやっぱり、またあの人なのか?」

「ああ、そんなことができるのは、世界に一人しかいない」


 当たり前だ。

 他の誰がそんなことを真似できるか。


「宇宙最強、元ギルドランキング1位、タクミ。アイツがやったに決まってるだろ」


 再び、テーブルから歓声が湧き上がる。


「やっぱりそうなのかっ、じゃあ、ルシア国王になったあのタクミは偽物で間違いないんだなっ」

「ああ、最初から怪しいと思っていたんだ。本物にしては威厳がありすぎるんだよ、あの国王は。俺は以前からタクミについて調べていたからな。本物は普段、ほんっとうに力がないみたいに腑抜けた間抜け面をしているんだ」


 気づかれないように、カウンターで小さく頷く。

 そうだ。タクミはその果てしなく強大な力を見せびらかしたりしない。

 ワタシには及ばないが、この男、タクミのことをなかなかよくわかっている。


「それとこれはまだ未確認情報だがな。偽物のタクミがこの前、本物に会いにボルト山に向かったらしいぜ」

「偽物? ルシア国王のほうか? だいたい何者なんだよ、ソイツ」

「噂では魔王の四天王。闇王アザトースらしい」


 なにっ!!

 ルシア国王のにせタクミはアザトースだったのかっ!?


「ほらよ、いつものボアステーキ定食だ。熱いうちに……」


 ぎょくんっ、と一口でステーキもごはんもミソスープも一気に流し込む。

 店主が唖然としているが、それどころじゃない。

 いま、肝心なところなのだっ。


「そ、それでどうなったんだ!?」


 どうなったんだっ!?


「圧倒的な実力差で偽物を追い返したらしい。もはや戦うまでもなかったらしいぜ」


 テーブルがさらなる大歓声で盛り上がる。


 そ、そこまでなのかっ!

 ワタシが敗れたアザトースに、タクミは圧勝できるくらい強くなっているのかっ!?


 酒場に通うようになってから、タクミの噂を毎日聞いていた。

 ここに通う男が、街中で仲間にタクミのことを話しているのを聞いて、後をつけて入ったのが始まりだ。


 こことは違う世界に行って帰ってきた。

 そこでファイナルタクミクエストンという新種の培養微生物を発見し、操る術を身につけた。

 向こうの世界の知識をわずかな期間でマスターし、バイクというマシンを作り出した。

 封印された古代魔法を超える究極魔法を生み出した。

 四神柱の朱雀と合体し、生きながらにして神となった。


 男から聞くタクミ伝説は、これまでの伝説を遥かに超えるものだった。

 アザトースという敵に出会い、ついにタクミは本気になったのだ。


 いつか、タクミの隣に並び立つ。

 そう思って幼い頃から死ぬほど修行してきた。

 そして、その道はずいぶん近くにきたものだと勝手に勘違いしていた。


 胃の中のかわず。

 いや、かわずですらなかったのかもしれない。

 ワタシとタクミの力の差は、いまもどんどんと広がっていっている。


「ごちそうさまっ!!」


 席を立ち、店主に背を向ける。


「おお、次はちゃんと金もってこいよ。あと、すごい臭いするから、ちゃんと風呂入れよ」


 そんなことをしている暇はない。

 深々と被ったフードのまま、お辞儀して店の入り口に向かう。


「で、ほかにもあるのか? タクミ伝説は?」

「ああ、なんでもタクミは……」


 出ていこうとしたが、扉を開けたまま止まってしまう。

 ああっ、一刻も早く修行しなければならないのにっ! 

 タクミの隣にっ、いつかまた、そこに並ぶために、強くならなければならないのにっ!


 ……でも、あとちょっとだけ。ほんの少しだけ、タクミの武勇伝を聞いていたい。


「……なんでもタクミは、新しい仲間のおっぱいを揉んだらしい。スケベ反省中らしいぜ」


 ばぎんっ、と握っていた入り口の扉が崩壊する。


「……どうも、古くなっていたみたいだな」

「ええっ!? 先週修理したばかりだぜっ、なんで、もげたんだっ!」


 店主が駆け寄ってくるが無視してテーブルに向かう。


「ちょ、ちょっと、その話くわしく聞かせてもらっていいか?」


 タクミがワタシ以外のおっぱいをさわった?

 そんなはずはない。

 タクミはスケベとは真逆のジェントルマンだ。

 レイアをワタシの代わりに送り込んだ時にも、信じられないくらい何もしなかった。


「ほう、アンタもタクミのことを知りたいのか? いいぜ、なんでも話してやる。俺ほどのタクミマニアは他にいないからな」


 エールを飲みながら、男が語り始める。


 聞いてしまえば修行の妨げになるだろう。

 もしかしたら、一生タクミと会うことはできないかもしれない。

 それでもワタシは、こくん、と頷き、男の話を聞き始める。


 その日から修行に、バストアップの鍛錬が追加された。


封印された古代魔法を超える究極魔法を生み出した、のお話は、第四部 転章 百三十八話 とっても危険な魔法陣でやってます。忘れてる人は見てみてね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 胃の中のかわず 誤字なのか、食欲旺盛なアリスなりの慣用句なのか判別に困るぜ… あと自称?タクミマニアの情報確度ヤベーな。絶対一般人じゃねぇだろ…関係者の誰かが変装してるレベルな気がするん…
[一言] 胃の中のかわず タクミに飲み込まれもう現実のタクミを直視できなくなってしまったさまを言う言葉。胃の中では周りをタクミ囲まれ他との比較は出来ず、ただただ逃げられない壁となったタクミを見て萎縮し…
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