百五十四話 ジェンダーフリー? その2
「え? もう全部解決してしまったんですか? さすがタクミさんですっ!」
ダビ子が俺を助けるために乗せてきたのはレイアだった。
ボルト山から連れてきたにしては、やけに早いと思ったら、レイアは俺の後をこっそりつけてきたらしい。
そういえば、大武会の前に魔王の大迷宮にきた時も、ついてきたことを思い出す。
「いつもついてくるのは、やっぱり俺が頼りないからかな? 心配させてすまないな」
「い、いえっ、そんなっ、タクミさんが無敵なのは重々承知しておりますっ、ただ、別の意味で、その、心配がありましてっ」
レイアは、慌てたように目線をそらし、ダビ子のほうをチラ見している。
「や、やっぱり、魔装備といえど、その、女の子と二人きりというのは、あまり、よろしくないかと思いましてっ」
「あ、ああ、そうか。そ、それもそうだな、俺の考えが足らなかった」
確かに長旅に男女二人きりはまずい。
スーさんにも忠告されたように、俺はダビ子をちゃんと女性として扱ってなかった。
「ごめんな、ダビ子。俺、デリカシーがなかったよ。これからはちゃんと女の子として見ていくからな」
『ブ、ブンっ、ブブブルルンブルルブルルルルブルルルッ、ブルル、ブルルルルルンっ!』
ふ、ふんっ、ようやくワタシの魅力に気づいたわけねっ、いいわ、ゆるしてあげるっ!
「き、聞こえたっ、久しぶりにダビ子の声が聞こえたよっ、スーさんっ!」
『うむんっ、これからも気をつけなあかんで』
よかった。
これでわだかまりも解けてスッキリと家に帰れる。
まあ、十豪会メンバーがいるという情報はガセだったが、そっちはまたゆっくりと……
「あれ、タクミさん、確か72体の魔族を蘇らせたんですよね? 放置しといていいんですか?」
「う、うん、そうだね。ほっとくのはマズイよね」
忘れたフリして帰ろうと思っていたが、やはりそうもいかないらしい。
「スーさん、あれって元に戻せないの?」
『そんなん無理やで。タクちゃん、もう魔王になったらええやんか』
「い、いやだよっ、あんな怖い人達、従わせることができないよっ!」
これは早く魔王マリアかミアキスを見つけないと、本当に押しつけられてしまうぞ。
「とりあえず、しばらくは魔王の大迷宮で大人しくしといてもらおう。ちょっと行ってくるから二人はここで待っててくれ」
「え? ついて行ってはダメなんですか?」
「うん、レイアはあまり会わないほうがいいとおもうんだ」
ここにいる魔族たちは魔王と共に、神と戦い絶滅したと聞いている。
神降ろしを使うレイアとは、相性が悪いんじゃないだろうか。
「絶対についてこないでね。こっそり隠れてとかなしだからね」
「はっ!? それは本当は、ついてこいというフリですねっ、タクミさんっ」
「よくわかったな、その通り…… いや、違うわっ、フリじゃないわっ、ややこしくなるから、本当についてこないでねっ」
なんとかレイアを待機させ、魔王の大迷宮に入っていく。
相変わらず辺りは真っ暗で、持ってきた松明に火をつけて、長い石造りの螺旋階段を降りていくと……
「貴様らっ、遥か昔になくなったといわれていた魔族どもかっ! まさか復活しているとはなっ!」
聞き覚えのある声が耳にはいる。
ん? 前にもこんな場面あったよね?
その時も同じように、この大迷宮で出会っている。
十豪会のメンバーがここにいるという情報はドグマたちが流した嘘だと思っていたが、どうやら本当だったらしい。
「いいだろうっ、この聖剣エクスカリバーで、もう一度冥府に送り返してやるっ! 覚悟するがいいっ、魔族……」
「あー、やめてあげてくれないか、エンドさん」
「うきゃあっ!」
いきなり後から声をかけてしまったので驚いて可愛い声をだす勇者エンド。
ああ、そうだ、エンドって男のフリをしているけど女の子だったよな。
前に女子十豪会にも参加していたし、以前、ここでレイアと戦っている時に、柔らかい胸に触れてしまった。
い、いや待てよ。最近、男のナギサをずっと女の子と勘違いしていたな。
これは、もう一度胸を触って確認したほうが……
『タクちゃん、あかんで。またプレートつけられてしまうで』
「あぅ!!」
スーさんのおかげで、寸前のところで伸ばしかけた手を引っ込める。
あ、危ない。また、同じ過ちを繰り返すところだった。
ちゃ、ちゃんと普通に聞いてみよう。
「あ、あの、エンドって女の子だよね?」
「な、なにをいう。ぼ、僕は男だっ!」
「えっ!? そ、そうだったんだ。ごめん、勘違いしてた」
うわあ、やっぱり間違えてたっ!
ダメだ、俺、男女の見分け方がもうわからなくなってるっ。
「そ、そんなことより、タクミ殿はどうしてここに?」
エンドの声は、ちゃんとハスキーボイスになっている。
やっぱり、男だな、うん。
「いや、ここに十豪会のメンバーがいると聞いてやってきたんだよ。エンドこそ、なぜここに?」
「ああ、魔王の四天王であったアザトースが別世界の侵略者だったからな。ここになにか弱点になるような情報がないか探りに来たんだ」
さすが勇者。世界の平和を守るために真面目に頑張っている。
「すると、どうだっ、何千年も前に滅んだ魔族たちが復活しているではないかっ! これはきっとアザトースが蘇らせてこの世界を混沌に落とし入れようと画策しているに違いないっ!」
聖剣エクスカリバーを抜いて、72体の魔族たちに向けるエンド。
あ、魔族たち、困った顔で俺のほうを見てる。
これ、俺が説明しないといけない流れなのか? だ、大丈夫かな?
「あー、エンド。実はこの魔族たち、蘇らせたの俺なんだ」
「な、なんだとっ、まさかっ、きさまっ、新しい魔王にでもなるつもりかっ!?」
魔族たちに向けられていたらエクスカリバーが俺に向けられる。
そして、魔族たちの拍手と歓声が聞こえてきた。
やめて。誤解されるからやめて。
「い、いやっ、ならないよっ、ちょっと成り行きで、なんとなく復活させちゃっただけなんだっ」
「人はなんとなくで、魔族を大量に蘇らせたりしないっ!」
うむ。めっちゃ正論だ。ぐうの音も出ない。
こうなれば、もう困った時のパイセン頼みだ。
「スーさん、ピンチですっ、通訳するんで事情を説明してやってくださいっ!」
『えー、めんどうくさいわぁ。もうタクちゃん、魔王でええやん。大丈夫やて、その勇者もたぶんタクちゃんのこと好きやから、なんとかなるて』
ええっ!? 男同士なのにっ!! そ、それはそれでまた別の問題が発生してしまうっ!!
い、いや、まさかな、さすがにそんなことは無いと思うが……
「と、とりあえず、俺を信じてついてきてくれないか、エンド」
一応、それでもスーさんの言ったことを確かめるために、エンドの肩に手を置いて、瞳を見つめて話してみる。
「わ、わかった。こ、今回だけだぞ、タクミ殿」
明らかに顔を赤くして、視線を逸らしながら答える勇者エンド。
う、うん、明らかに俺の事意識してるよね?
しかも男だよね?
なんか、魔族たちもひゅーひゅー、とか囃し立ててくる。
しかし、不覚にも、顔を赤くして照れるエンドを、男なのにちょっと可愛いと思ってしまった。
エンドのエピソードは、第一部 四章「二十五話 真実はいつも一つか二つ」でやってます。
忘れてたら、また読んでみてね。




