百五十三話 頼れるパイセン
復活した72体の魔族たちに、バラバラにされたドグマの骨が、砂漠の四方八方に飛び散っていた。
それでもピクピクと動いているのは、さすが不死王といったところだ。
久しぶりに蘇った魔族たちは、上機嫌で自分たちの墓である十字架の前で盛り上がっている。
ハッキリ言って、めっちゃ怖い。
獣型の魔族が多いが、ミアキスのようなかわいいネコではなく、ライオンやヒョウ、蛇やワニなど、猛獣がほとんどだ。
一人一人の力が、ギルド上位クラスか、十豪会メンバーぐらいの力を持っているのだろう。
そんな集団をまとめて復活させてしまった。
ほ、ほっといていいのかな?
い、いや、よくないな。
下手すると、魔族と人間の大戦争に発展するかもしれない。
アザトースのことも解決してないのに、そんなことになったらさらに収集がつかなくなる。
「あ、あのう、君たち、これからどうするのかな?」
恐る恐る話しかけると、騒いでいた魔族たちが俺に注目する。
「え? どうする? オレたち、どうしたらいいんだ?」
「いや、わからんよ?」
「そういえば、魔王さまはまだご存命なのか?」
「生きておられるようだが、もう隠居されて、元勇者と暮らしてるらしいぞ」
「……ふむ、これも時代の流れか」
「なら、今の魔王は、蘇らせてくれたあの人でいいんじゃないか?」
「うん、それはいいな、そうしよう」
いや、よくないよっ! 魔王誤認定のネタ、前にやったからねっ!
だいたい、死んでたのに、なんで魔王が隠居してるの知ってるのっ!?
「満場一致で、我ら一同、タクミ様ついていくことに決まりました」
「やめてっ! 決めないでっ!!」
戦力は欲しいが、魔王にされたらたまらない。
「ちょ、ちょっと待っててくれ。関係者連れてくるから、魔王の大迷宮で待機してて」
「は、わかりました。魔王様」
タクミと呼ばれてるのに、なんだか魔王と聞こえた気がする。
ほ、本当にわかってくれているのか?
ぞろぞろと、大迷宮に入っていく、魔族たち。
とりあえず、魔王マリアか四天王のミアキスを見つけて連れてこよう。
あんな恐ろしい集団、とてもじゃないが俺には扱いきれない。
「……しかし、なんで勝手に復活したんだろう」
ボルト山の時は、蘇らせようと思って復活させた。
しかし、今回の魔族たちは、俺の意志とは関係なしに、いきなり朱雀が発動したのだ。
「どうしてなんだ、朱雀?」
自分の中にいる朱雀に話しかけると、背中で再びぱたぱたと羽の音が聞こえてくる。
パタパタパタパタ、パタ、パタパタタ?
いや生き返らせな、キミ、死んでたよ?
「え? なにっ? 今、朱雀しゃべったっ!?」
なんてこった。
カルナやダビ子だけではなく、ついに朱雀の言葉まで聞こえてくる。
『言語変換の設定か。いや、魔剣との会話で自ら習得したんかもな。どちらにせよ、話が通じるのはありがたいな」
うおおっ。
もう、パタパタという音が普通に言葉にしか聞こえない。
てか、四神柱がカルナやクロエと同じドラゴ弁な事にびっくりする。
「え、えっと、朱雀さん?」
『なんや、他人行儀やな。もっとフレンドリーでかまへんで。キミ、あだ名つけるん得意やろ?』
いや、得意じゃないし。
ソッちんとか、強制的に言わされてるし。
「じゃ、じゃあ、スーさんで」
『うむん。なかなかいいやないか。やっぱりセンスあるで。ほな、ワレはタクちゃんとでも呼ばせてもらうわ』
タ、タクちゃん。
なんだか、俺、どんどんあだ名が増えていくな。
「あ、あのスーさん、いつからいるんですか? と、いうか、なんで俺の中にいるんですか?」
『いや、そんなんわからへんよ。気がついたらここにおったんやから。逆にこっちが聞きたいわ』
ぱんっ、と背中の羽に肩を叩かれる。
それツッコミなの? ノリがいまいちわからない。
『いやぁ、しかし、いままでずっと創造主の支配下で窮屈やったから、タクちゃんとこは自由でええわ。フリーダムやな』
「そ、そうなんですか?」
『そうやで。あっちはほんま監獄みたいやってん。会話どころか自由な意志も持たれへん。ただシステムとして、データを復活させてただけや。余計な感情なんてもん、まったく無かったからな』
え? そうなの? すっごい感情豊かだけど、スーさん、俺のとこに来て変わったの?
『まあ、あれやで、最初はタクちゃんのこと無礼なやつやって思ってたんやで。ワレの羽、怖がって、バイクの娘にもぎとって、とかいうてたし」
「す、すみません」
『ええんやで、ええんやで。最初来たときは、ほんま、絶望してたけど、今はめっちゃ心地いいねん。創造主のとこで何千年も真面目にやってたんが、アホみたいやわ。ワレ、第二の神生、歩み始めたみたいやわ』
ス、スーさん、めっちゃはじけてる。
『誰が創造主から解放してくれたかわからへんけど、ほんまにありがたいわ。まあ、限りなく創造主に近い存在やろな。タクちゃん、心当たりないか?』
「え? ああ、うん、そうだな。あるといえばあるような気がするが……」
俺の周りには、ありえないほど強者があふれている。
しかし、その中でもアザトースに近い存在といえば……
何気なく空を見上げ、あの二人を思い出す。
シロとクロ。
もしかして、あの二人が俺を助けるためにスーさんを連れてきてくれたのだろうか。
そんなことを考えていたら、ぶるるるるっ、と砂漠の向こうから、ダビ子の排気音が聞こえてきた。
助っ人を連れてきてくれたようだが、遠目では誰だかわからない。
『バイクの娘帰ってきたな。めっちゃ早かったやん。愛されとるな、タクちゃん』
「いや、最近、ダビ子の言葉がわからなくなったんですよ。スーさん、俺、なにかしたのかなぁ」
これまでカルナの言葉がわからなくなったことはない。
しかし、ダビ子の言葉は、つい先日からまったくわからなくなってしまった。
『ああ、それ、大丈夫やで。あの娘、しゃべってへんだけやから。ほんまにぶるるん、言うてるだけや』
「へ?」
『魔剣の娘と会ってたからちょっとすねてるだけやろ。優しい言葉でもかけたったら、すぐ機嫌なおすわ』
「ス、スーさんセンパイ」
ボルト山を復活させた時よりも尊敬してしまう。
頼れる仲間、四神柱の朱雀、スーさんが仲間に加わった。
スーさんのエピソードは、第四部、第五章の「閑話 シロ」
さらに第四部、転章の「閑話 朱雀」でやってます。
忘れてたら、また読んでみてね。




