百五十一話 懐かしい二人とファイティングデッド
7/6発売の月刊少年チャンピオン8月号に『うちの弟子』が出張連載で載ってます! 来月にも載る予定です。
是非是非、ご覧になってみてください!
※今回でてくる『きらめきおもちゃ少年フェイス』は第四部 第五章 百三十一話「ファイナルクエストン?」でやってます。忘れた人は読み返してみてね。
「こっちであってるのか? ダビ子」
『ブルルッン』
排気音でダビ子が答えてくれる。
ちょっと前まで、何を言ってるかすぐにわかったのだが、最近はたまにしかわからない。
魔王の大迷宮に、十豪会のメンバーが何人か集まっているという情報をソネリオンが持ってきた。
みんなで行こうという案を却下して、まずは俺とダビ子だけで向かうことになったのだが……
「……ダビ子、なんか怒ってる?」
『ブブブブブンッ』
「怒ってないよっ」と言ってるような気がするが、確信が持てない。
アザトースが再びやってきてからだ。
あの日から、ダビ子はどうも機嫌が悪い。
アザトースに何かされた?
いや、あの日、アザトースはナギサのことでそれどころじゃなかったはずだ。
だったら、あの時、アザトースと一緒にいたのは……
「もしかして、カルナが?」
『ブブンッ!?』
明らかに動揺したダビ子が、いきなり急ブレーキをかけて、後輪が持ち上がる。
振り落とされそうになるのを、なんとかしがみつく。
「ダ、ダビ子、カルナとなにか話したのか?」
『……ブブブブブブン』
「……なんでもないよ」というふうに、落ち着いていつものように走り出す。
そういえば、カルナ以外に魔装備を持つのは、ダビ子が初めてだ。
俺には聞こえなかったが、アザトースが来た時に、二人はなにか話していたのか?
何があったかわからないが、カルナが帰って来たら、魔装備同士、どうか仲良くしてほしい。
『ブブンッ!』
タクミっ、と言ったのだろう。
見ると前方に、大きな鉄の十字架が何本も刺さっている。
その数、72本。
それぞれに、かつて存在した魔族の名前が刻まれている。
魔王の大迷宮の入り口だ。
そして、その十字架に、もたれかかるように二人の人影が見えた。
「十豪会のメンバー? いや、違うっ! あれはっ!?」
『ブブンッ、ブオッ、ブブブブブブンッ!!』
ダビ子も臨戦態勢に入る。
十豪会のメンバーじゃない。
でも、その二人は何度も見たことがある顔だった。
肉のない骸骨。
そして、妖艶な吸血鬼。
魔王四天王の二人。
不死王ドグマと吸血王カミラだ。
「……本当に来ちまったな。どうするんだ? カミラ」
「どうするもこうするも、やるしかないでしょう。うちの大将、腑抜けてるんだから」
待ち伏せっ!
まさか、ソネリオンが偽の情報を掴まされたのかっ!?
ドグマはともかく、大武会でクロエと互角に戦ったカミラは、とてもじゃないが勝てる相手ではない。
しかも、あの時は魔王の四天王という立場だったが今は違う。
向こうの世界から来た、アザトースの部下ということなら、ナギサやマキエのように、特殊な設定を持っているはずだ。
「ダビ子っ! 逃げるぞっ! 全力でUターンだっ」
『ブブンッ!!』
砂漠の砂を巻き上げながら、一瞬で回転したダビ子は、速度をほとんど落とさずに、Uターンに成功する。
素晴らしいの一言だ。
これなら、二人と戦わずに逃げ切ることができるだろう。
ただし、あまりのスピードに耐えきれず、俺が振り落とされていなかったらの話だ。
どべちゃ、と砂の上に無様に落ちる俺を尻目に、ダビ子は急速に遠ざかっていく。
『ぶおっ!?』
「はあっ!?」と俺が乗ってないことに気づいたときには、ダビ子は遥か彼方を走っていた。
「おいおいおい、これが本当に強いのか? どう考えても大将が負けるとは思えねえぞ」
「油断しないで。作戦かもしれないわ。ウィルスや究極魔法を使うって話よ。巻き込まないように仲間を引き離したのかも」
勝手に勘違いしてくれているが、もちろん、そんなものは使えない。
遠く離れたダビ子に向かって、誰か強い人呼んできて、と念を送る。
『ブブンッ、ブオッンッンッ!』
わかってくれたのか、ダビ子はそのまま、砂漠を一人で駆け抜けていった。
さて、戦っても勝てないし、これはもうただひたすらに時間を稼ぐしかないなぁ。
ぱんぱん、と砂ぼこりを落としながら、ゆっくりと立ち上がる。
焦っているのを隠すように、表情は、ナギサと二人でマキエを倒したときの、きらめきおもちゃ少年フェイスに切り替えた。
「……た、確かにちょっと不気味じゃねえか。なんだよ、あんな顔をする人間、みたことねえぞ」
「……最初から全力でいくわよ、準備はいい?」
うわぁ、まったく準備できてないよ。
どうにかして時間を稼ぎたいが、まったく何も浮かばない。
とりあえず、なにかするそぶりだけでも、見せておこう。
「ふっ」
と、意味深に笑みを浮かべて、右手を上にあげる。
びくんっ、と二人が想像以上に警戒して、ババババッ、と後方に飛びのいた。
その動きに今度はこっちがビックリして、びくんっ、てなる。
「カミラっ」
「ちっ、飛ぶよっ!」
どうやら、俺のびくんっ、がなにかの攻撃だと思ったらしい。
カミラがコウモリのような翼を広げて、ドグマを抱えて上空に飛びたった。
うん、どんどん離れていく。
そのままどっか行ってくれないかな。
「やるじゃないか。距離をとらなければ終わっていた」
俺のほうが。
と、心の中でそっ、と付け足しておく。
「くっ、何をしているのか、まったくわからねえ」
「そうね。まるで攻撃の気配がない。まったく何もしてないように見えるわ」
実際、何もしていないからね。
ダビ子、早く誰か連れてきて。
もう、そろそろ限界だよ。
「……仕方ねえな、アレを使うぞ、カミラ」
「アレ? あまり見たくないのよね。気持ち悪いから」
え? なに? アレってなに?
見たくないなら使わなくていいんだよ?
そんな俺の願いも虚しく、宙に浮かんだまま、ドグマがアレを決行する。
『……पुनर्जीवित लाश। चलना।』
なんだ?
聞いたことのある言葉だ。
魔王や出会った頃のアリスが使っていた魔族語か?
『और यह सब खा लो।っ!!』
ドグマの魔族語と共に、ガタガタッ、と砂漠にある72本の十字架が一斉に震え出す。
やばい。嫌な予感しかしない。
向こうの世界に行ったときに、こんな感じのホラー映画をいっぱい見ていた。
十字架の下から、ぼこっ、と何かが飛び出した。
肉のない骨の腕。
ひび割れた頭蓋骨。
カタカタと、72の骸骨が砂漠からはいでてくる。
「死者蘇生っ!? いや、ちがうっ、これはっ!!」
「そうだ、すべては全部死んだまま、ファイティングデッドだっ!」
骸骨たちの王のように。
骨だけのドグマがカタカタと笑う。
くそう。お笑い担当の四天王だったくせにっ。
「見せてもらうぞ、久遠匠弥っ、お前の力をっ!」
ぼろぼろの鎧や布を纏った72体の骸骨が俺を取り囲む。
見せる力がない俺は、きらめきおもちゃ少年フェイスのまま、かたまることしかできなかった。




