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閑話 魔剣と王女

1日遅れました。

ごめんなさい。

 

「……ルナ、カルナ」


 誰かがうちの名前を呼んでいる。

 意識がハッキリせず、それが誰だかわからない。


『いま、ええ夢みてるねん。邪魔せんといて』


 タッくんと一緒に龍宝焼きを食べている。

 一族にしか伝わらないはずの伝統料理を、なぜかタッくんは見事にマスターしていた。

 そんなん夢でしかありえへん。


「カルナっ、起きてっ、おねがいっ」

『ああっ、ゆさぶらんといてっ、まだ食べてるねんっ』


 目の前にあった龍宝焼きとタッくんが消えていく。

 かわりに現れたのは……


『……サシャ?』

「しっ、静かにして、アザトースに気づかれる」

『静かにしてちゃうわっ、あと一歩でタッくんのあーん、で龍宝焼き食べれたのにっ、どうしてくれるんっ』

「??? 何言ってるの? 大丈夫、カルナ?」


 首をかしげて、心配しているサシャを見て、夢から覚めたことにようやく気づく。

 ここはタッくんがいる洞窟ではなくて、ルシア王国の宝物庫ほうもつこだ。


『……うちは大丈夫や。それよりサシャ、あんた、ボケとったんとちゃうん?』


 昔の仲間であるバッツを人質に取られてから、サシャはアホのようになっていた。

 アザトースが話しかけても、ほとんど反応せず、大きく口を開け、よだれまで垂らしていた。


「あんなの演技に決まってるじゃない。アザトースを油断させて、警戒させないようにしてたのよ」


 こ、こわっ。

 全然演技に見えへんかった。

 もうサシャ終わったと思っとった。


「まあ、そのおかげでこうして宝物庫に忍び込めたのよ」

『鍵はどうしたん? アザトース、新しい錠前に変えてなかった?』

「子供の頃から、よく暴れて監禁されてたから、錠前破りは日常だったの」

『うわぁ、いややわ、そんな王女』


 ルシア王国の未来、大丈夫なん?


「カルナだって、最初はずっとアザトースのそばにいたじゃない。宝物庫にしまわれたのは何かしたからでしょう?」

『ま、まあな。疲れさせよう思って、24時間ずっとしゃべとったわ』


 小さい頃のタッくんの話、根掘り葉掘り聞きまくって、うっとおしがられただけやけど。


「助かるわ。これでアザトースの手元にいる人質はバッツだけ。彼さえ取り戻せば、ここから脱出してタクミたちと合流できる」


 アホのふりしてたサシャとは、ほんまに別人や。

 生き生きした表情で、脱出計画を練り上げとる。


「そういえば、カルナはタクミに会って来たんでしょ? どうだった? 変わってなかった?」

『そやな、なんも変わってなかったわ。あいかわらず、えらい強いと勘違いされとる。……いや、なんか前よりさらにひどなってるような気もするわ』


 人類最強アリスの師匠として、宇宙最強と勘違いされていたタッくん。

 しかし、今はそんな肩書きとは関係なくアザトースや、マキエはタッくんにビビりまくってる。


「……さらに、勘違いが加速してる? やはり、誰かがタクミに協力しているみたいね」

『そうやろな。タッくん、巻き込まれやすいからな。なんかよくわからんヤツも増えてたわ』

「よくわからんヤツ?」

『せや、うちと同じ魔装備や。見たこともない変な形しとったわ。アイツだけには負けられへん』


 タッくんのところから帰るとき、洞窟の前にいた奇怪な魔装備。

 アイツ、帰り際、うちのこと鋭い目で睨んどった。


「見たことないってことは、向こうの世界の物みたいね。他には?」

『裏切ったはずのナギサが、また戻ってきてたわ。普通ならありえへんけど、タッくん、お人好しやからな』

「ナギサか…… 彼女を信頼したのは、私のミスね」


 ルシア王国の新しい騎士団長として、サシャの留守中にタッくんの世話係としてやってきたナギサ。

 しかし、その正体はアザトースの部下であり、タッくんやアリスたちの様子を偵察しにきたスパイやった。


『タッくんとこ戻ったら、また裏切らへんか、うちがしっかり見張ったるねん』


 もう絶対に、怪しいことしたら見逃さへん。

 タッくんはうちが、しっかり守ったる。


「そうね。やっぱりタクミの側には、あなたがいないとね」

『そ、そうやろっ、わかってるやんっ、うひひっ』


 あかんっ、嬉しくて、変な笑い方してしまう。


「後は、私たちが脱出するまでアザトースが大人しくしてくれたらいいんだけど…… 四凶とかと合体してるし、さすがにもう時間ないわよね」

『あ、それやねんけどな。しばらく大丈夫と思うねん』


 あの日、アザトースはタッくんの元へ最終決戦の宣誓布告をしに向かったはずや。

 うちは、命がけでそれを阻止するため、決死の覚悟で挑んだんやけど……


『なんかな、タッくんとアザトース、二人で歌っててん』

「う、歌? え、なに? どういうこと?」

『わからへん。会話もなんか意味不明やったし、まったく理解できんかった。それでいきなりアザトースが歌い出したら、タッくんも同じメロディーで合わせてきてん』

「え? なにそれ? 怖い怖い、タクミとアザトース、何してるのっ!?」


 あの時のうちとまったく同じ反応をするサシャ。

 うん、やっぱりそうなるやんな。


『……二人にしかわからん世界なんやろな。でな、またアザトースが宣戦布告しにいったら、うちも同じメロディー歌おう思うねん。そしたら、また二人も歌うんちゃうかな。宣誓布告もうやむやになるから、しばらく時間稼げるとおもうねん』

「す、素晴らしい作戦ね」


 サシャがひきつった笑顔で頷いてる。


『たんたた♪ たんたた♪ たんたたたたた♫』

「え? なんでいきなり歌いだすの? こ、怖いんだけど」

『練習や、練習。覚えてるうちに歌っとかんと、忘れてしまうからな』

「そ、そう。えらいわね」 

『サシャも覚えとき、いざという時、役に立つかもしれへんで』

「わ、わかったわ」


 二人で一緒に謎のメロディーを口ずさむ。


『たんたた♪ たんたた♪ たんたたたたた♫』

「たんたた♪ たんたた♪ たんたたたたた♫」


 夜な夜な宝物庫から不気味な歌が聞こえてくる。


 そう噂され、ルシア王国恐怖の七不思議として、いつまでも語り継がれることになった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後の方のカルナのセリフで宣誓布告とありますが宣戦布告と間違えられていると思います。
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