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百四十九話 タクミ猛反省中

 

 エメラルド鉱石で囲まれた大鍾乳洞で、レイアとクロエに再会した。

 感動の再会になるはずだったが、二人が俺を見る目は、寒気がするほど冷ややかだ。


「ど、どうしたんだ? 二人とも」

「それはこっちのセリフですよ、タクミさん」

「ほんまや、それ、いったいなんなん」

「はっ!」


 あまりに慌ててやって来たので完全に忘れていた。

 俺の胸にはまだ『スケベ反省中』のプレートがかかったままだった。


「スケベなこと、したんですか? タクミさん」


 レイアの背後にドス黒い何かが浮かんでいる。


 えっ? その悪魔みたいなの、降ろすつもりなの?

 やめて、超こわいから降ろさないでっ。


「ふーん、うちらが行方不明の間に、タクミ殿はスケベなことしとったんや」


 クロエが人間形態からドラゴン形態に変化していき、大きな口をがぱぁ、とあける。

 え? かじるの? 俺、食べられてしまうの?


「ちょっ、ちょっとまってくれ、違うんだっ! スケベな気持ちなんてまったくなかったんだっ!」

「へえ、じゃあなんで反省中なんですか?」

「なにをしたんや。うち、詳しく聞きたいわ」


 ナニこれ。

 アザトースと対峙した時より数倍怖い。


 本当のことを言って大丈夫なのか?

 嘘をついて、後からバレたらさらに酷いことになりそうだ。

 仕方がない。ここは正直に……


「今後の勉強のために、ちょっとナギサの胸を触ろうとしただけなんだ」


 どんっっっ、とレイアの身体に悪魔が降臨した。

 同時にクロエが天に向かって、豪炎を撒き散らす。


 あ、ヤバい。

 俺、死んじゃう。


 俺の中にいる朱雀は、俺が死んでも生き返らせてくれるのだろうか。

 ちょっと無理な気がする。


「さ、触ってないよっ、手を伸ばしただけでノータッチだよっ!」


 最後にそう叫んだが二人は、許してくれなかった。



「モウ?」

「うん、モウ」


 胸のプレートに、レイアが「モウ」という字を書き込んだ。

 達筆である。

 これで、プレートは「スケベ猛反省中」に変わってしまう。


「で、ナギサまでどうしてこっちに来たんだ?」


 エメラルド鉱石の大鍾乳洞前で正座させられている俺の前に、留守番しているはずのナギサがダビ子に乗ってやって来た。


「ちょっとね、古代こだい龍之介りゅうのすけに会いたくてね。中にいる?」


 そういえば、クロエの祖父である古代龍エンシェントドラゴンは向こうの世界で、有名な俳優だった。


「今は出かけてるみたいだぞ。しばらく帰ってないそうだ」

「……そう、それは残念ね」


 なにやら、俳優に会いに来ただけではなさそうな、そんな雰囲気を醸し出している。

 二人の間に、俺の知らない何かがあるのだろうか。


「ん? どしたの? タッちん?」

「いや、なんでもない」


 ナギサは本当に謎だらけだ。

 アザトースの息子で女装しているだけではない。

 どうして、向こうの世界の組織を裏切って俺の味方になってくれているのか。

 その明確な理由は今もわかっていない。


「レイアとクロエは?」

「なんか特訓してる」

「最終決戦に向けての特訓? 気合い入ってるわね」

「う、うん。そ、そうだね」


 言えなかった。

 二人が触られたくなるバストトレーニングをしているなんて、言えなかった。


「お二人が帰ってきたら、あとはアリスだけね」

「そうだな、いったいどこにいるんだろう。カレーを作ってもこなかったのは初めてだ」


 自分の意志でやってこないのか。

 どうしても来られない状態なのか。


「いつ、どこにいてもアリスに見られている気配があったんだが、それもなくなってる。でも、死んでるてことはないと思うんだ。うまく言えないけど、どこか近くにいるような気がするんだ」

「そうね、そのうちひょっこり現れるんじゃない?」


 風が吹いて、ナギサの髪がたなびいている。

 短髪だったが、最近、髪を切る暇がなく、少し伸びてきた。

 ますます女性らしくなっていて、やはり、どう見ても男には見えない。


「なに見てるんですか? タクミさん」


 ひゅんっ、と男にしかないタマが縮み上がる。

 いつのまにかレイアが現れ、俺の背後に立っていた。


「あれですか? また胸を触りたくなって見てるんですか?」


 怖くて後を振り向けない。

 これまで感じたことのない強い殺気がダダ漏れしている。


「ほう、あれが例の胸やねんな」


 殺気が二つに増えた。


「うちは大きすぎるし、レイアはちょっと小さいな。タクミ殿はああいう中くらいのが好きなんか」


 二人が俺の背後から、ゆっくりと、そしてジロジロと眺めながら、ナギサに近づいていく。


「あれ? 嫉妬? そうよね、二人とも私より長い間一緒にいるのに、タッちんが触ろうとしたこと、なかったみたいだしね」


 ふふん、と挑発するように胸をはるナギサ。


 ビキビキビキビキという音とともに、レイアとクロエの血管が破裂しそうなくらい浮き上がっていく。


「ちょっ、やめっ、みんな落ち着いてっ」

「タクミさんは」

「タクミ殿は」

「タッちんは」


「「「黙っててっ!!!」」」


 息ぴったりじゃないか。

 三人が胸のことで熱い議論を繰り広げだした。


 とりあえず、「スケベ猛反省中」のプレートをつけたまま、正座で見学する。


「……別にどの胸も触りたいわけじゃないんだけどな」


 そう、一人つぶやいた時だった。


「……本当に?」


 間違いない、この声はっ!


 懐かしい声が聞こえて振り返る。

 しかし、そこには誰もいない。

 ただ、奥まで続く大鍾乳洞の入り口が見えるだけだ。


 幻聴だったのか?

 いや、今のは絶対に……


 もうすぐアリスが帰ってくる。


 まだ争ってる三人の喧騒を背に、強く強く確信した。



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― 新着の感想 ―
[一言] アリスがかえってこなかったのは、まさか胸がないのを気にしていたとか?w
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