表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/420

百四十六話 ジェンダーフリー?

マンガクロス様週間ランキング1位感謝記念。

ありがとうございます。


本編は次週公開になります。

ちょっと待っててね。

 

 アザトース突然の来訪で、ほっこりが終わりを迎える。


 いや、ほっこりだけではない。

 これで、すべてが終わってしまう。


 そう確信できるほどの異様な変化をアザトースは遂げていた。


「な、なにそれ? し、四凶を取り込んだの? きもちわるっ!」


 ナギサの問いにアザトースは答えない。

 彼女など眼中にない、といったように俺の方を見つめている。


 怖い。超怖い。


 右肩に目も鼻も耳も口もない犬の顔。

 左肩には針鼠ハリネズミの毛を持つ虎の顔。

 腹には猪の牙をもつ人の頭。

 それらが、アザトースの部位に混ざり合うように、張り付いている。

 さらに、背中には羊の体に、目玉のない人の顔を持つ獣が、おぶさるように合体していた。


 ナギサが四凶を取り込んだと言っていたが、これらがそうなんだろうか。

 取り込まれても、それぞれ意思を持っているように、頭を揺らしている。

 向こうの世界で見たホラー映画でも、ここまで気持ち悪いものは見たことがなかった。


「ち、ちぃ」


 アザトースを見たヌルハちぃが、心配そうに俺の指を引っ張ってくる。


「大丈夫だよ、ヌルハちぃ。怖くないからね。こんなのただの見掛け倒しだ」


 ニッコリと笑ってヌルハちぃの頭をなでると、ちぃちぃ、と喜んでくれた。

 うん、最後くらいカッコつけて、死んでいこう。

 超ビビっているが、ヌルハちぃのために精一杯の勇気を振り絞り、アザトースに話しかけようとする。

 が、しかし……


「あ、あれ? アザトースは?」

「タッちんがこんなのただの見掛け倒しだ、って言ったところで、なんか消えた」

「へ?」


 見ると洞窟のすみっこに、やって来た時と同じような穴が空いている。


「帰ったの? アザトース。な、なんで?」

「わ、わからないわよっ。私に聞かないでっ」

「ちぃちぃ」


 ヌルハちぃが、机をぺしぺし叩いて、穴のほうを指差した。

 かわいい。もしかして、またほっこりもどってきた?


 にゅ。


 穴から再びアザトースが現れて、戻ったと思ったほっこりが一瞬で失われる。


「えっ? なにっ? なんで一回帰って、またきたのっ!?」

「……すまぬ。忘れものがあって取りに帰っていたのだ」


 そう言ったアザトースの手には、箱が入っているような紙袋が握られていた。


「な、なに? あ、あれなに? ば、爆弾とか持ってきたんじゃないか?」

「だ、だから私に聞かないでよっ、知ってるわけないでしょ」


 ナギサとこそこそ話していると、アザトースがすっ、と紙袋を前に出してくる。

 二人してビクンッ、と震えて抱き合ってしまう。


 しかし、アザトースはそんな俺たちを見ていなかった。

 丁寧に、深々と頭を下げている。


「……つまらないものですが、どうぞ」


 ナギサと二人顔を見合わせた後、恐々ながら紙袋を受け取った。

 恐る恐る中を見ると、中には向こうで何度か食べた大阪のお土産が入っている。


「これ、ミルク饅頭だよね?」

「そ、そうね。有名なやつね」


 もう一度、アザトースのほうを見るとまだ頭を下げたままだった。


「な、なに? これどういう意味? なに考えてるの? アザトース」

「わ、わからないわよっ、と、とりあえずいきなり戦うつもりはないんじゃない?」

「そ、そうかな? そ、そうだといいな」


 ヌルハちぃもいるし、できればすぐに戦いたくない。

 戦う前に時間が稼げるなら、ナギサにヌルハちぃを連れて逃げてもらいたい。


「あ、ありがとうございます。お茶を淹れますので、よかったら一緒に食べませんか?」


 アザトースは、下げていた頭を上げた後、静かに頷く。

 合体している四凶も、それぞれ同時に頷いたので、再びナギサと二人でビクンッ、ってなった。



 お茶を用意して、小皿に饅頭をのせていく。

 アザトースは合体しているので五つ用意した。

 あと自分の饅頭を爪楊枝で削って、超ミニチュアの饅頭も作り出す。

 もちろん、ヌルハちぃ用だ。


「ど、どうぞ」


 アザトースの前に五つの皿とお茶を並べる。

 正面に俺が座り、右隣にナギサ、ヌルハちぃはテーブルの上に置いてある、箸置きにちょこんと座った。


「……」


 無言でお茶を飲むアザトース。


 今日は何をしに来たんですか?


 そう言おうとしたが、なかなか言葉がでてこない。

 だって、戦いに来たと言われたら、すべてが終わってしまう。

 せめて、少しの間だけでも、ほっこりを長引かせたい。


「で、なにをしにきたのよ、アザトース」


 あ、終わった。

 あっさり聞いちゃったよ、ナギサさん。

 やめて。まだ聞きたくないよ、その答え。


「……様子を見にきただけだ。息子を心配するのは当たり前だろう」

「嘘ね。息子を心配する親は、何十年もほったらかしにはしないわ」


 ん? 息子? アザトースの子供がここにいるのか?

 いや、しかし、俺以外には、ナギサとヌルハちぃしかいないぞ。

 え? ま、まさかっ!? も、もしかしてっ!?


「ナ、ナギサっ、どういうことだっ! アザトースの息子って!!」

「あ、そっか。タッちん、まだ知らなかったよね。言うの忘れてた」

「な、なんで、そんな肝心なことを言わなかったんだ」

「ごめん、とっくに気づいてるって勘違いしてた」


 わかるはずがない。

 多少ボーイッシュだが、どうみてもナギサは可愛らしい女の子だ。

 それが、まさか男で、しかもアザトースの息子だったなんて、俺にはまったく予想もできなかった。


「色々と苦労してきたんだな、ナギサも」

「う、うん、確かにそうだけど、なんで今、私のこと?」


 アザトースが父親であることを、ナギサは、まったく気にしていないように話す。


 強いな、ナギサ。

 その若さで俺よりも、ずっとしっかりしている。


「ナギサ、ヌルハちぃと奥で待っててくれ。アザトースとは俺が話す」

「え? 大丈夫なの?」

「ああ、親子の争いほど醜いものはないからな。あとは任せてくれ」


 こっちにアザトースの息子がいる限り、手荒なマネはしてこないだろう。

 少なくとも、いきなり山ごと消されることはなさそうだ。


 ナギサが少し困ったような表情で、ヌルハちぃを抱きかかえ、奥の部屋に移動する。


 後姿を確認するが、やっぱりどう見ても男には見えない。


「なかなか大変な息子を持ったな、アザトース」

「あ、ああ、驚いたよ。まさか短期間でここまで変わるとは、思わなかった」


 ナギサが女の子みたいになったのは最近なのか。


 もしかしたら、ナギサとアザトースの関係性を上手く利用すれば、まだまだ戦わなくてすむかもしれない。


「よし、ちゃんと話そう、相談に乗るぞ、アザトース」


 お茶を持つアザトースの手が震えている。


 このアザトースの動揺振りを見ていると、むずかしい年頃の子を持つ父親って大変なんだなぁと、心から同情した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 10年サバイバル生活出来るッテのもかなり優秀っちゃ優秀なんだよな、戦闘以外の才能が豊富よね そういう意味では野比のび太未満なんだよねえ、タクミ のび太ってあれで総学生の頃から無人島で10年サ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ