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百四十二話 あっつい想い(物理的に)

 

 笑ったまま生首になったバルバロイ会長と見つめ合う。

 なぜ笑顔のまま亡くなったのだろうか。

 そんなことは、さておき。

 とりあえず、本当に生き返らすことができるか試してみる。


「はあっ」


 右手を広げ、前に突き出しだが、まったく反応がない。

 そんなに簡単にはいかないらしい。


「蘇るがいい、バルバロイよ」


 次は神様っぽく、語りかけたが無反応。

 うん、ちょっと恥ずかしい。


「触れてみたらどうですか? タクミ様」

「えっ」


 できることなら触らないで、復活させたい。

 普通の生首でも勘弁してほしいのに、バルバロイ会長の顔、めっちゃ笑顔なんだもの。


「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ」


 恐る恐る、指先だけバルバロイのおでこに触れてみる。

 ぽわっ、とそこが光り、温かくなっていく。


「あ、タクミ様、羽がっ! 羽がパタパタ動いてますっ!」

「え? 本当に? このままでいいのかな? ん?」


 バルバロイ会長の顔に生気が戻り、さらなる変化がおこる。


「うわっ、首からなんか出てきたっ! 気持ち悪いっ! やめていい? 離していいっ!?」

「ダメですっ、タクミ様っ、それ再生してるんですよっ! 途中でやめたら中途半端に復活して、よけい気持ち悪くなりますよっ!!」

「なにそれっ!?」


 離しても地獄、離さなくても地獄。

 まさか、生き返らせるのが、こんなにリアルで気持ち悪いとは思わなかった。



 結局、小一時間ほどで、バルバロイ会長は完全復活を果たす。

 少し身体がだるいそうだが、なんの問題もないようだ。

 あと、笑ったままで死んでいたため、笑顔のまま、しばらく戻らないらしい。うん、怖いからこっち見ないで。


「とにかく成功してよかったですね、タクミ様。これで他の皆様も甦らすことができます」

「そうだな。やっと本番に入れるよ」

「え? わし、本番じゃなかったの? 練習だったの? ねえ、こっち見て」


 バルバロイ会長を完全無視して、ソネリオンと次の段取りを相談する。


 肉体の一部に触れないと復活させれないことが判明したので、いますぐみんなを生き返らすことはできない。

 レイア、クロエ、カルナ、ヌルハチの四人は、アザトースの襲撃を受けた洞窟で亡くなったと思われるが、その一帯は山ごと無くなっている。

 遺体の一部を探すのは、かなり困難かもしれない。


「そういえば、ソネリオンは、バルバロイ会長の首、どうやって手に入れたんだ?」

「会長が亡くなられた時に、私もその場にいたのですよ。十豪会じゅうごうかいのメンバーとして」


 十豪会を襲撃したアザトースから逃すために、首を跳ねられながらも、バルバロイ会長は他のみんなを転移魔法で逃したらしい。

 ソネリオンは比較的、近い場所に飛ばされたので、後から戻って、首だけ回収して持って帰ったそうだ。


「他の十豪会のメンバーは、みんな行方不明なのか?」

「そうですね。まだザッハ様しか発見しておりません。かなり遠くまで転移されたようですね」


 リックや魔王がいてくれたら、随分と頼りになるのだが、ザッハだけなのか。うん、特にいらないかなぁ。


「まずはアザトースによって消されたボルト山に向かってみてはいかがでしょうか? もしかしたら、なにか見つかるかもしれません」

「そうだな。望みは薄いけどダメ元で行ってみようか」


 こっちに帰ってきてから、一度ナギサと見に行ったけど、山があった場所には、巨大なクレーターが広がっているだけで何も見つからなかった。

 せめて、山が残っていれば、色々探索できたかもしれないが……


「いや、ちょっと、まてよ」

「? どうなされました? タクミ様」

「いや、朱雀って、死んだ者を復活させるけど、山はどうなのかな? 植物とかも生き物のカテゴリーに入るなら、復活させることが出来ないか?」

「ほう、確かに、それは一理ありますね。あの山には、動物たちもたくさん暮らしていたはずです。うまくいけば、そのまま、すべてが再生されるかもしれません」


 ソネリオンが頷いていると、背中のほうで、ばっさばっさ、と激しい音が聞こえてきた。


「そんなのできないって、言ってるみたいですね」

「いや、できないのならこんなに激しく拒絶しないだろう。できるけど、やりたくないから慌ててるんじゃないのかな?」


 図星だったみたいで、朱雀の羽がピタリと止まる。

 たぶん、山ごと復活させるのは、すっごい疲れたりするんだろうな。


「頑張ってくれ、朱雀。後でとびっきりのカレーを食べさせてやる」


 まあ、実際に食べるのは俺なんだけど。

 しかし、毎回カレーを食べるたびに、朱雀の羽が嬉しそうに動いていることを俺は知っている。

 そして、今回も、仕方ないなぁ、という風に、朱雀の羽はパタパタと動いていた。



 ダビ子が帰ってしまったので、タクミ村からボルト山跡地には、徒歩で向かう。

 まだ笑顔のままのバルバロイ会長は、気持ち悪いのでお留守番だ。


 小一時間ほどで、辿り着き、目の前に広がる巨大なクレーターを、ソネリオンと二人で眺めている。


「うん、実際、目の前にしたら、無理なんじゃないかと思ってしまうなぁ」

「まあまあ、少しでも復活できればいいじゃないですか。とりあえず試してみましょう」


 バルバロイ会長の時もだったが、ソネリオンは朱雀にかなり興味があるようだ。

 まるで、少年のようにキラキラと瞳が輝いている。

 チョビ髭なのに。


「よし、やってみるか」


 どこまでも続くような深いクレーターに、手を触れる。

 バルバロイ会長の時とは比べ物にならないほどの、火傷しそうな熱量が、そこに流れてきた。


「熱いっ! 腕が燃えてるっ! これ、無理じゃないっ!? 絶対、無理だっ!!」

「頑張って下さいっ、タクミ様っ!! 山が再生していますっ!! おおっ、すごいっ!! 紅い羽が六枚にっ!! おおっ、まさに燃える神のごとくっ!! 素晴らしいですっ、タクミ様っ!!」


 限界なので、手を離そうとしたら無理矢理ソネリオンに押さえ込まれた。


「おまっ、こらっ、はなせっ!! あついあついあついあついィィィィッ!!!」

「ダメですっ!! あと少しですっ!! ああっ、私もあついっ!! でも、頑張りますっ!!」

「はなせぇぇっっっ!! チョビひげぇええっ!!!」


 二人の絶叫が響き渡ること、数時間。


 俺のあっつい想い(物理的に)をのせて、10年間お世話になったボルト山が、見事に完全復活を遂げた。




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