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百四十一話 ちょうどいいもの

 

「それって朱雀じゃないでしょうか?」

「ほぇ?」


 懐かしカレー完成試食会に招待した武器商人ソネリオンから意外な言葉を聞かされる。

 どうやら、彼も俺の背中にたまに出てくる紅い羽が見えるらしい。


「朱雀って、あの四神柱の? 気のせいじゃないのかな? 俺、そんなの拾った覚えないですよ?」

「でも、朱雀っていう言葉に反応して、激しく動いてますよ?」


 そう言われて振り向くと、素早くひっこんだのか、羽は見えなくなる。


「俺、まだ見たことないんだけど、本当なの? みんなして、俺のことからかってない?」

「いえいえ、タクミ様にそのようなことはいたしませんよ。気づかないうちに、罠にかかってたところを助けたとか、そういうのじゃないでしょうか?」

「……うーーん」


 思い出そうと首をひねるが、そんな『鶴の恩返し』みたいなことには、まったく覚えがない。


「とりあえず、試してみてはいかがでしょうか? 本物の朱雀なら死者蘇生の力が使えるはずです」

「お、おお、すごいね、それ」


 アザトースとの戦いで、亡くなった仲間たち。

 みんなを復活できるなら、こんなうれしいことはない。

 ナギサの情報が正しければ、洞窟に一緒にいたみんなは、アリスを除いて全滅している。


「でもどうすればいいんだ? 復活を願うだけでいいのかな? 成功しても失敗しても実体が近くにいないと確かめられないよね?」

「ああ、それならちょうどいいものがありますので、そちらでお試しになりますか?」


 ちょうどいいもの?

 なんだろう、とはおもったが、まあ、ちょうどいいなら、なんでもいいか。


「あ、じゃあ、それ、お願いします」

「わかりました。こちらに持ってくるのは少々問題がありますので、あとで私のところに来て頂けますか?」

「あ、こっちは少し落ち着いてきたので、すぐに行ってもいいですか? ナギサ、あと頼んでいいか?」


 村人たちにカレーを配っているナギサが、無言でオッケーサインを出してくれた。

 お手伝いのはずのヒルは、いつのまにか食べるほうに回っているので、実質、朝からほとんど一人で頑張ってくれている。

 ごめんね、ありがとう。後で、新メニューのオムカレーを振る舞うから許しておくれ。


 こっちに戻ってきてから、みんなのことを思わない日はなかった。

 亡くなったと聞いても、きっとなんとかなると信じていたのは、俺の中に朱雀がいたからなのか。


 はやる気持ちを抑えながら、ダビ子にまたがり、ソネリオンの店まで向かう。


「ほう、さすがタクミ様。もう完璧に魔バイクを乗りこなしておられる。やはり、彼女をお譲りしたのは間違いではありませんでしたね」

「いやぁ、そんなことないよ。いきなり、止まったり、暴走したり、よく喧嘩もするんだ」

「いえいえ、それは照れてるだけですよ。羨ましいことです」


 ドルンッ、とダビ子がマフラーを吹かして、ぷるぷると震えている。

 怒っているみたいだが、ソネリオンの前では我慢しているようだ。


「……」

『……』


 気まずい空気が流れて、俺もダビ子も無言のまま、目的地に到着する。


『べ、べつにアンタのことなんか、なんとも思ってないんだからねっ!』


 ダビ子がツンデレっぽい捨てゼリフを残して、一人で帰ってしまった。


「申し訳ありません、タクミ様。余計なことを言ってしまったようで。お詫びといってはなんですが、新しい魔装備を……」

「うん、いらないからね。もうやめてね」


 なぜかソネリオンは、俺にやたら魔装備を勧めようとしてくる。しかも、いつも女の子だ。

 どういう意図なのかわからないが、これ以上ややこしいことになりたくないので、食い気味に断りながら、ソネリオンの武器屋に入っていった。


「ちょうどいいものは奥の倉庫で冷凍保存してますので、装備たちを見ながらくつろいでいてください、タクミ様」

「あ、ああ」


 なんだろうか。リニューアルでもしたのだろうか?

 前に来た時は普通の装備が並んでいたのだが、今は店内の全部が魔装備と思えるくらい禍々しい装備がならんでいる。

 うん、くつろげない。なんだか周りの装備たちに見られてるような気もする。一刻も早く帰りたい。


 ソネリオンが戻ってくるまで、店の隅に隠れて、怯えながらやり過ごす。


「おやおやおや、みんな初対面なのにタクミ様に熱い視線を送っていますね。やはり、タクミ様は魔装備に好かれる才能がお有りだ」


 お札が貼ってある木箱を両手で抱えながら、ソネリオンが戻ってくる。


「なんと言われても、もういらないぞ。カルナとダビ子でいっぱいいっぱいだ」

「それは残念です。なかなかいないのですよ。魔装備と相性のいいお客様は」


 たぶんソネリオンは、商売として武器屋を開いていない。

 魔装備を自分の子供のように大切に想っているからこそ、その子達が幸せになれるようなパートナーを見つけてあげたいのだろう。


「うん、でももうこれ以上無理だからね。頑張って他の人探してね。ああ、ほら、そうだ、魔盾ビックボムをあげたザッハとかどうかな?」

「ザッハ様はすでに御得意様でございます。現在、五つの魔装備を可愛がって下さってますよ」


 すげえ、ザッハさん。いつのまにか世界トップクラスの魔装備使いになっておられる。

 もう、彼が主人公でいいんじゃなかろうか。


「ダメですよ。この世界の主人公はタクミ様ですから。まあ、気が向いたらいつでもおっしゃって下さい。最高の魔装備をご用意いたしますので」

「あ、ああ、うん、考えとくよ。ねえ、ところで俺の心読んでない?」

「気のせいですよ。そう思った気がしただけです。さあ、ちょうどいいものを、開封しましょう」


 ごまかされたような気もするが、ちょうどいいものが何か気になって、そちらに集中する。

 ソネリオンは、木箱を机の上に置き、お札を剥がして、そっ、と静かに上蓋を開ける。


 中を覗きこむと、そこには……


「どうですか? 試してみるにはちょうどいいと思いませんか?」

「……確かに、まあ、失敗しても大丈夫な気がする」


 白い箱の中で、首だけになったバルバロイ会長が満面の笑みを浮かべていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] おお、バルバロイ会長、ちゃんと復活できるといいね。
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