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百三十四話 魔剣カルナの復活(微)

 

 なんや、ここは?


 深い深い闇の中に沈んでた。

 すべての感覚が失われ、ただ意識だけがそこにある。

 もはや、人型なのか、剣なのか、ドラゴン形態なのかもわからへん。


 ああ、そうや。

 うち、死んでしもたんや。


 粉々に砕け散ったことを、ようやく思い出す。


 ここは死後の世界なんやろか。

 このまま、永遠にこんなとこにいなあかんのか。

 もう、タッくんに会うこともなく……


『……ずっと、一緒にいたかったな』


 タッくん、頑張ってるやろか。

 一人で泣いてへんやろか。

 最後の声、聞こえたやろか。

 うちのこと、覚えててくれてるやろか。

 うち以外の誰かとコンビ組んでへんやろか。

 まさかとおもうけど、ソイツに別のあだ名で呼ばれてへんやろか。


 タッくん、タッくん、タッくん、タッくん……


 頭の中がタッくんで埋まっていく。

 会いたくて、会いたくて、あと心配でたまらん。


『タッくんっっ!!!』


 無駄やとわかっているのに、力いっぱいタッくんの名前を叫ぶ。

 しかし、声は反響もせず、ただ闇に飲み込まれていく。


 どうすることもできへん。

 それなのに、なんでやろ。

 もしかしたらと思ってしまう。


 もしかしたら、タッくんなら、うちをここから救い出してくれるんとちゃうやろか。


 そんな夢のようなことを考えている。


『……ありえへんわ。うち、いつからこんな乙女チックになってしもたんやろ』


 だんだんと、意識が薄れていく。

 このまま眠ってしまえば、もう目覚めることもないんやろか。


『……タッくん』


 最後にもう一回だけ、名前を呼んだ。


 それはまさに奇跡やった。

 その声に答えるように、闇にびきっ、と亀裂が入る。


『え?』


 そこから、まばゆいばかりの光が漏れ、亀裂はさらに広がっていく。


『タッくん?』


 亀裂の間から何かが見えた。

 指? 違う、大きな腕や。

 バキバキと、闇を引き裂きながら、巨大な腕が迫ってくる。


 タッくんやっ! 間違いないっ!

 あの腕は、いつも、うちを握ってくれてた腕やっ!

 間違うはずがないっ!!

 ほんまに、ほんまに助けに来てくれたんやっ!!


 巨大な腕がうちを掴み、失われた感覚が蘇ってくる。

 自分が魔剣の形をしていることに、やっと気がついた。


 深い深い闇の中から、その腕は、うちを、ずぼっ、と引っこ抜く。


 気がつけば、そこは、大きな城の中やった。

 玉座の前で、タッくんが、うちを天に向かって突き上げている。


『タッくんっ、うち、信じてたでっ、タッくんが助けてくれるて…… あれ?』


 同じ顔や。

 まったくタッくんと同じ顔や。

 でも違う。

 雰囲気が全く違う。


 間違うはずがないと言うたのに、めっちゃ間違えた。


『……あんた、誰や』


 タッくんと同じ顔をした男は答えずに、うちを見て静かに微笑んだ。



「やはり、タクミは魔剣を持っていないとな」


 玉座に座り、うちを掲げながら、偽物パチモンがなんか言うとる。


『ベタベタさわらんといて。うちにふれていいのは、タッくんだけや』

「まあ、そう言うな。死んでいるよりいいだろう?」


 やっぱり、うちは死んでたんか。

 それを簡単に復活させたこのパチモンは何者なんや。

 うちの声、聞こえてるみたいやし。

 タッくんと同じ顔といい、いったい……


「報告にきたよ。アザトース」


 アザトースやったんかーーい。

 いきなり現れた少女、隠密ヒルによっていきなり正体が判明する。


「これからはタクミと呼べと言わなかったか?」

「ああ、そうだったっ! ごめんごめん。次から気をつけるね、たぶん」


 この子、絶対気をつけへん。

 首にしたほうがええで。


「あれ? それ魔剣カルナ? 復活させたの?」

「ああ、サシャとの結婚式、国民に姿を見せるからな。いつも持っていたものは、なるべく身につけていたほうがいい」


 サシャと結婚?

 もしかして、サシャ、本物のタッくんと間違えて結婚しようとしてるんか?

 あかん。

 ちゃんとコイツ、パチモンって教えたらなあかんっ。


「で、どうだ? 私の息子は?」

「いやぁ、ちょっと予想外というか。まあ予想通りというか。息子さん、ゲームにハマって、引きこもりニートみたいになってますよ」


 息子?

 まさか、それがほんまのタッくん?

 やったら、まさかアザトースは、タッくんの……


「……ま、前の報告では、カッコいいこと言ってなかったか? よくわかったな、その通りだ、とか」

「三日坊主でした。ちょっと休憩とか言って、それからずっと休憩してます」

「……」

『……』


 タッくんや。

 まごうことなきタッくんや。

 そうやねん。タッくん、やる気見せても、あんまり持続せえへんねん。


「……わかった。しかし、引き続き監視を怠るなとマキエに伝えてくれ」

「え? 経費の無駄じゃないですか?」

「……」

『……』


 なんか変な空気になり、無言でヒルは退散していく。


「……う、うむ、監視を油断させるための作戦か。さすが私の息子だ」

『いや、普通にダラけてるだけやとおもうで』

「……」


 助けにきたのはパチモンやったけど、タッくんはタッくんらしくやってる事にちょっと安心した。



「ア、アザトースっ! か、監視カメラがっ、タクミにハッキングされたっ!」


 ヒルが顔面蒼白で王室に飛び込んできた。


「し、しかも、ファ、ファイナルクエストンを操ってっ! 微生物でっ! 重力をっ!!」

「落ち着け、ヒル。マキエはどうなった?」

「タ、タクミに完全敗北し戦意喪失。ターミナルキーを渡したそうです」


 アザトースがうちを握りしめて、玉座から立ち上がる。


「ふっ、やはり私の息子。甘く見てはならんな」


 いやいやいやいやいやいや、ありえへんよ?


 アザトース、なんかめっちゃ嬉しそうに立ち上がったけど、タッくん、そんなんでけへんよ?


「し、信じられない。何も知らなかったタクミが、わずか数ヶ月ですべての監視システムをハッキングするなんてっ」


 うん、ヒルさん、それ、タッくんちがう。

 ナギサが持ってきたDVDの操作も、タッくんだけ、できへんかった。

 絶対、誰かが裏で協力してるで。


「どうするの、アザトースっ。早くターミナルに増援を送らないとっ!」

「いや、ターミナル局員は全員撤退させろっ! この世界で迎え撃つっ! これより匠弥たくみは、最重要コードネーム、ファイナル・タクミ・クエストンと命名するっ!」


 うん、だからなに? 

 ファイナル・タクミ・クエストンてなに?


 いろいろツッコミたいけど、おいつけへん。


「了解っ! 戦闘員は全員、ルシア王国に収集しますっ! 警戒レベルはMAXっ、裏フェーズ、グランドゼロに移行しますっ!」


 なんか、すっごいことになってるやん。


 あかん、あかん。タッくん、やってきたら、瞬殺されてしまうやん。


 やっぱり、うちががんばらなあかんな。


 アザトースによって、力の大半は封印されとる。

 人間形態にもドラゴン形態にもなれず、必殺技さえ使われへん。

 でも、この混乱の中なら、必ずスキが生まれるはずや。


 タッくんの相棒は、うちだけやからなっ!


 アザトースの腕の中で、プルプルしながら、うちは復活を決意した。





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― 新着の感想 ―
[良い点] うぅっ、カルナは分かってたのか、ハッキングするタクミなんてタクミじゃないって。。。 何たる信頼感! 読者として優秀なタクミに爆上げしたなんて、不甲斐なしっっ 髭を剃って出直します
[一言] タクミとアザトースってやっぱり似た者同士なんだなぁw
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