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百二十三話 幼女回生

 

「波動球・さん


 手のひらに貯めた大きな魔力の塊をぐっ、と握り潰す。

 弾けてバラバラになった数百の魔力の粒が姉妹に向かって、豪雨のように降り注ぐ。


「ヒル姉ちゃんっ! いっぱいきたっ!!」

「落ち着いてっ! 全部返すよっ!!」


 アサが両手を上にあげると、傘のようなオーラが広がり、光輝く魔力の雨をすべて受け止めていく。

 アリスの時と同じように、ヒルがアサの背中に手を置いて、その魔力を吸収していく。


「おっけー、全弾かえすよ!」


 ヒルが残ったほうの手を広げて前に突き出す。

 そこから、自ら放ったものと同じ魔力の雨が飛び出してきた。


「波動球・ダン


 巨大な魔力の球を作り出し、自分自身を包み込む。

 そこへ魔力の雨が降り注ぎ、パパパパパンッ、と弾けて消滅していく。


 単発の攻撃だけではなく、分散させた多重攻撃も効かぬのかっ。


 攻撃を受け止め、反射させる姉妹。

 どういう原理かはわからないが、それを実行するのに、体力も魔力もつかわない。


 ヌルハチがアリスの攻撃を流して返した時、それだけで身体が崩壊してしまったことを思い出す。


 ……これが「設定」というものか。

 このような力があること事態信じられん。

 世界の摂理を根底から捻じ曲げている。

 本当にコイツらは、別の次元からやってきたのだ。


 ギリっ、と奥歯を噛み締める。

 こちらはもう、ほとんど魔力が残っておらぬ。

 この身体を維持できるのも、後少しだろう。

 非常にしゃくだが仕方がない。



「あああぁああぁっアアアアアアアァアっ!!」


 天に向かって、絶叫しながらアリスが立ち上がる。

 やはり、こやつと共に戦うしかないようじゃ。

 そう思って振り返った瞬間だった。


「あ」


 思わず間抜けな声をあげてしまう。

 さすがのアリスも、普通の攻撃は通用しないとわかっていると思っていた。


 だが、記憶でも失ったのか。

 拳を振り上げ、アリスは姉妹に突っ込んでいく。


「どけぇえええっ!!!」


 先ほど見たばかりのやりとりが、寸分違わぬ形で行われる。

 アリスの拳を両手で受け止めたアサの背中に、ヒルは左手を置き……


「もっかい返すね、アリス」


 ぽん、と優しくヒルの手がアリスの胸に触れた。

 まったく同じように、周りの木や岩を破壊しながら弾けるように吹っ飛んでいく。


「これは、本当に厄介じゃな」


 再び、立ち上がっても、アリスはまた同じように突っ込んでいくだけだろう。

 仕方あるまい。

 それがアリスだ。

 だったら、こちらが合わせるしかないのじゃろう。


 転移の鈴を通して、倒れているタクミのほうを見る。

 カルナがマキナに似た何かと対峙しているが、こちらも状況はかんばしくない。


 攻撃が当たらないマキナもどき。

 攻撃が届かないナギサ。

 攻撃が絶対に当たるダガン。

 攻撃を受け止め、反射するシスターズ。

 理不尽なまでに無敵な能力「設定」。


 ああ、そうだったのか。

 壊れた器。

 何もかも受けとめるタクミの力は、コイツらの「設定」と同じものだ。


「ねえねえ、もうあきらめた? じっ、としてたら痛いことしないよ。ね、ヒル姉ちゃん」

「うん、アサの言う通りだよ。これ以上やるなら、もう手加減しないよ」


 タクミという存在の違和感は出会った頃から感じていた。

 姉妹がいうように、本当にこの世界の人間ではないのだろう。


「ん? なに? まだやるの? 無駄だと思うよ? ね、ヒル姉ちゃん」

「ああ、そうだよ。だいたいアレは元々こっちのもんだからさ。回収するまで大人しくしててよ」


 アレ? こっちのもん? 回収?


 怒りが臨界を突破して、それでもそれを内に閉じ込め、ゆっくりと姉妹に向かって歩いていく。

 そして、それに呼応したように立ち上がったアリスが後ろから突っ込んできた。


 その追い抜き様、アリスが耳元でつぶやく。


「言ってやれ、ヌルハチ」


 残った魔力。

 その最後のしぼりカスまで、出し切りながら、姉妹に向かって言い放つ。


「タクミはヌルハチのものだ」

「いや、ワタシのものだ」


 アリスがこちらを振り向いた。

 刹那の睨み合い。

 そのあと、二人同時に、ニッ、と笑い、二つの声が重なり響く。


「「おまえらにはやらん」」


 三度みたび、アリスが姉妹に向かって、豪快に拳を叩きつける。


「無駄だって言ってるだろっ!!」


 同じようにそれをアサが受け止め、力は手を添えたヒルへと流れていく。


「もう手加減なしだっ!!」


 アリスの力だけではない。

 ヒルが吸収した力に、さらに自分の力をのせて、アリスに向けて解き放つ。


 その瞬間に、魔力を爆発させ、飛ぶように移動した。

 ヒルの手がアリスに届く前に、その眼前に割り込む。


 一本のパイプをイメージする。

 力を流すただの一本のパイプ。


 かつて受け入れたアリスの力。

 その何十倍もある圧倒的な力を、身体の正面で受け入れ、流していく。


 ビキビキビキビキビキビキ、と全身にヒビが入り、崩壊していく。

 それでも、なんとか人の形を保ちながら、力は右手に流れ、伝わった。


「ちょっ、ちょっ! ちょっとまってっ!!」

「……またぬわ」


 とん、とその右手をヒルの胸に軽く置いた。


「ヒル姉ちゃんっ!!」


 凄まじい轟音と共に、視界から完全に消え去るまで、ヒルが吹っ飛んでいく。


「……仕方ないのう」


 すべての魔力を使い果たした。

 大賢者ヌルハチとしての活躍はここまでだ。


「今回はおいしいところを譲ってやる」


 魔力残量がゼロになり、身体が幼児のように小さくなっていく。


「ま、まだだっ! ヒル姉ちゃんがいなくても、まだ私がっ!!」


 連打だった。


 バギィバギィバギィバギィっっっ、と攻撃を吸収するアサの手に向かって、アリスは何発も拳を打ち込んだ。

 力を放出するヒルを失ったことにより、行き場を無くした巨大な力がアサの身体を膨らませていく。


 パっっっっっっンっっっっ、という破壊音。


 限界を超えたアサが爆発してバラバラになったものだと勘違いした。


 しかし、それは……


「……カルナっ」


 マキナもどきによって、魔剣カルナが破壊されていた。

 パラパラとその破片が宙に舞っている。


 ああ、そうか。

 そうだったのか。

 タクミと出会ってからだ。

 あの時からずっと誰も不幸にならなかった。


「それも……」


 まるで、何かに守られているように、平和な世界が続いていたのだ。


「それも「設定」だったのかっ!?」


 途絶えそうになる意識の中で、決定的な何かが、崩れていくのを感じた。


 風船のように膨らんだアサを、アリスが蹴り飛ばし、マキナもどきに向かっていく。


 ダメだ。行かせてはならない。

 ぜんぶ。これからはなにもかも全部なくなってしまう。

 アリスを止めようと手を伸ばす。


「だめっ!!」


 しかし、小さくなった幼女の手では届かない。


 穴の空いた左胸から火花を散らし、マキナもどきが凶悪な笑みを浮かべ、アリスと対峙する。


 魔力が尽き、ヌルハチの意識が消える中……


 タクミを救うため、チハルが目覚めた。




 

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