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百九話 二回目のおつかいインフィニティ

 

「モウ乳がいるのですね。わかりました、私が買って参ります」


 全く同じ言葉セリフを聞いたことがあった。

 十ヶ月くらい前、まだレイアがここに来たばかりの頃だ。

 あの時は、芋のスープを作るため、その材料となるモウ乳を買いに行ってもらった。

 そして、自信満々におつかいに行ったレイアは、モウ本体と魔剣カルナとチハルを持って帰ってくる。


「い、いや、大丈夫だぞ。俺が行ってくるからみんなと修行していてくれ」

「大丈夫ですよ、タクミさん。あれから私も成長しました。ちゃんと普通にモウ乳だけ買ってきますよ」

「そ、そうか。そうだよな。大丈夫だよな」


 閉鎖的な隠密の里で、閉鎖的に暮らし、常識知らずなところがあったレイアも、あれから随分と成長した。


「じゃあ頼むぞ。今回はモウ乳以外は何もいらないからな」


 前回の反省点を踏まえて、ついでに剣や盾を買ってきてくれなんて、絶対に言わない。


「任せてくださいっ。二回目のおつかい、死ぬ気で行ってきますっ」


 あれ? 最初の時も死ぬ気とか言ってなかったか?

 せ、成長してるよね? だ、大丈夫だよね?


「た、た、頼んだぞ。本当に信じてるからな」


 本当に信じなければよかったと、後で死ぬほど後悔した。



 レイアが帰ってくるまでの間、久しぶりに芋の皮むきをして時間を潰す。

 あれから、一日も欠かさず、レイアは芋むき修行を行なっていた。

 最初はカケラしか残らなかった芋も、今は綺麗に剥けている。


「あれ、うまくいかないな」


 恥ずかしいことに、俺の芋は、レイアのものより、形が崩れ、惨めなものになっていた。


「大丈夫だ。また一からやっていく。ずっとそうだったんだ」


 今日は気合いを入れて、芋のスープを作るため、レイアにおつかいを頼んだのだ。

 自分に起こった不安を取り除くかのように、俺はひたすら芋をむき続けた。



 どうしてこうなった。


 前回と同じように、レイアが帰って来たのは夜もふけ、辺りが暗くなってからだった。

 あまりに遅いから、また何かあったのだろうかと予想はしていたが、その予想のななめ上を突き抜ける事態が起こっている。


「た、た、た、ただいまです」


 目を合わせずにレイアがそう言った。


「……お、お、お、おかえり」


 よく返事ができたと思う。

 なんとか、そう言いながら目をこすって、改めて状況を確認する。


 ああ、やっぱりまぼろしじゃない。

 なかなか現実を受け入れられない。


 それでも、勇気を振り絞ってレイアに尋ねてみる。


「どうして、そんなことになったんだ?」

「さ、さあ、な、な、なんのことでしょうか? 別に変わったところはないのですが」


 レイアは俺と目を合わせない。

 ダラダラと汗を流している。


「い、いや、明らかにおかしいだろ。そ、それは……」


 ダメだ。

 ちゃんと言葉にすることはできない。

 俺も直視できずに目を逸らしてしまう。


『ん? どうしたん? タッくん、心音がすごいで。レイア、なんかしたん?』


 俺の腰で、魔剣になって寝ていたカルナが目を覚ます。


『なんや、なんもしてへんやないの …… んんっ!?』


 カルナも気がついてしまったようだ。

 二つの巨大な塊に。


『なんやっ! ちょっと、タッくんっ! レイア、めっちゃ巨乳になってるやんっ!! うちとおんなじくらいやったのにっ!』

「わ、わからん。帰ってきたらデカかったんだ。き、着物の中になにか入っているんじゃないかな」


 そう、控えめだったレイアの胸は、今は着物からはち切れんばかりの巨乳になっている。


「な、何も入ってませんよ、も、元からこのサイズです」


 しかし、レイアは頑なに目を合わさない。

 さらに、わざとらしく口笛を吹こうとするが、できないようで、口でひゅーひゅー、言っている。

 できれば、このまま、突っ込まないでいてあげたいが、そういうわけにもいかなかった。

 レイアの変化は胸だけではない。

 その頭にも、変なものが二つ付いているのだ。


「えっと、レイア」

「は、はい、タクミさんっ」


 びくっ、とレイアの身体が震え、チラッとこちらを向いて、またすぐに目線を逸らす。


「その頭のツノも、最初からあったかな?」

「い、いえ、こ、これは、その、オ、オシャレな髪飾りですっ」


 それはあまりにも無理がある。

 どう見ても髪飾りに見えないそれは、明らかに……


「それ、モウのツノだよね?」

「……………違いますよ?」


 とぼけているが騙されない。

 だいたい、レイアが巨乳な時点で、もうレイアではない。

 もしかしたら、またゴブリン王が変身した偽レイアかもしれないのだ。


「レイア、詳しく説明してくれ。でないと、うちに入れるわけにはいかない」

「ええーーーっ!せっかくこんなに大きくなったのにっ!!‥‥‥はっ」


 ついに、レイアが自分の変化を口にする。

 言わなければ、知らんぷりできると思ったのだろうか。


「どうしてそんなことになってしまったんだ、レイア」


 なんで、モウ乳を買いに行って、モウになって帰ってくるんだよっっ!! 


 と、叫ぶのをなんとか我慢して、穏やかに話す。


「……これは、自ら望んで牝乳神スラビーを降ろしたのです」

「え、ええっ!」


 牝乳神スラビーという気になる言葉ワードが出てきたが、とりあえず今はスルーしておこう。

 全部突っ込んでいたら、話が進まない。


「タクミさん、最近落ち込んでたみたいだったから、私、元気になってほしかったんですっ」


 いや、俺が元気になることと、レイアが牝乳神を降ろすことの繋がりがわからない。


「だ、だって、だってタクミさんはっ!」


 お、おう、俺は?


「大きいのが好きじゃないですかっ!!」


 一瞬、時が止まってしまったかのようにフリーズしてしまう。

 え? レイアは俺を元気ずけるために巨乳になったのか?

「……うん、あの…… レイア、この際だからハッキリ言っておく…… 俺は、決して巨乳好きではない。」

「ほ、本当ですか、タク……」

『ほんまなんかっ! タッくんっ!!』


 レイアの声は、一瞬でカルナのドデカい声にかき消されてしまう。


『だって、タッくんの理想の姿になったシロ、巨乳やったやんっ! めっちゃジロジロ見てたやんっ!』


 カルナの発言にレイアもうんうん、と頷いていた。

 どうやら、カルナに力を吸わせる修行しているうちに、魔剣カルナの声が少し聞こえるようになったのかもしれない。


「いや……べ、別にそこばかり見ていたわけじゃないっ。だから元に戻ってくれ。お、俺は控えめなものも、す、好きだからな」

「タクミさんっ」

『タッくんっ』


 三人の心が一つになる。

 これで無事にレイアも元通りに……


 かたん、と背後で地面に何かが落ちる音がした。

 振り向くと修行から帰ってきたクロエが、修行で使う木刀を落としている。


「そ、それは本当ですかっ! タクミ殿っ! 我のは、我のこれは、お気に召さないのですかっ!!」


 涙目でクロエが突撃してくる。


「ちょっ、ちょっとまって、お、大きいのも、大きいのも好きだからっ!!」

「……やっぱり、巨乳がお好きなのですね」

『タッくん!!さっきのは嘘なんかっ!!』

「あぁーもぉーっ!! 俺はどんなおっぱいでも、おっぱいがっ! 好きなんだよっ!! ……はっ」


 なぜか、俺は自分の性癖を叫ぶという事で、事態を収束させた。

 どうやらゆっくり落ち込むこともできないようだ。


「はい、この話おしまいっ! みんな解散っ!!」


 そう言いながらも、少し元気になっている自分に気がついた。




 

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