百二話 終焉
「……タクミに想いをぶちまける?」
円卓のど真ん中に立ち、アリスは堂々と宣言した。
「なら、それはワタシからだ」
突然のアリス乱入に、十豪女子会の全員が唖然となる。
それはそうだろう。
この会議は、俺からシロを継承し、アリスと戦う者を決めるために開かれたのだ。
その前にアリスが来てしまっては、会議の意味がなくなってしまう。
「……あの3人はどうしたのじゃ?」
円卓の中心に立つアリスに最初に話しかけたのは、バルバロイ会長だった。
「邪魔だから消した。塵すら残っていない」
「ふむ。そうか。やはり、付け入る隙はありそうじゃの」
……あの3人とは誰だろうか?
誰かがアリスの犠牲になったかもしれないというのに、バルバロイ会長は、笑みを浮かべる。
「一人も死んでおらんよ。消えたのは、ゴブリン王が作り出したダミーじゃ」
ピクリ、とアリスの表情が一瞬歪む。
だが、それはすぐに元に戻った。
「どうでもいい。どうせ、後から全部壊す」
確かにアリスはクロと同化して強くなっている。
まったく敵わなかったシロと互角に戦うこともできた。
なのに、なぜだろうか。
俺もバルバロイ会長のように、今のアリスには以前の強さを感じない。
そう、アリスの強さは決して力だけではなかったはずだ。
「で、貴女はタクミにどんな想いをぶつけにきたの?」」
皆がアリスの登場に動揺していると思っていた。
だが、一人だけ、真っ直ぐにアリスを見据え、動じない者がいる。
「……リンデン・リンドバーグ」
アリスが睨みつけるが、リンはまったく揺るがない。
それどころか、笑みを浮かべてアリスを挑発する。
「どうしたの? 私じゃなくてタクミを見たら? それとも恥ずかしくて顔も見れないの?」
「ふ、ふんっ、なにを馬鹿なっ、そんなはずがないだろうっ」
ギギギ、という鈍い音が聞こえてくるようだ。
無理矢理、力尽くでアリスが首を俺のほうに向ける。
「タ、タ、タクミッ」
「なんだ、アリス」
ぐるんっ、と物凄い勢いでアリスの首が反対側に回転した。
一瞬、首がちぎれ飛んだと思ってしまう。
「だ、大丈夫か? アリス」
「な、なんでもない。だ、大丈夫」
首を抑えながらアリスが答える。
思わぬ所でアリスに大ダメージを与えてしまった。
「タ、タ、タクミッ」
「なんだ、アリス」
まったく同じシーンがリピートさせる。
だが、今度はアリスは顔を背けない。
「ワタシはタクミのことをっ!!」
「空間魔法【極】無限回廊」
隣にいるリンが不意にそう呟く。
突然、アリスの周りに無数の小さな螺旋階段が出現した。
「なっ!?」
「言わせるわけがないでしょう」
ぐるぐるとアリスに、螺旋階段が取り囲むように纏わり付く。
「そんなものと同化しないと、何もできない貴女に、ここにいる資格はない」
「このような玩具でっ!」
目に見えぬほどの斬撃で、アリスが螺旋階段をすべて打ち払う。
だが、粉々に砕かれたはずの螺旋階段が、まるで時間を巻き戻したように再生され、さらにアリスを取り囲む。
「しばらく反省してなさい」
「リンデン・リンドバーグっ!!」
アリスの身体を螺旋階段が完全に覆う。
それでも螺旋階段は、ぐるぐると回転しながら、凝縮されていく。
そして、最後は空間に吸い込まれるように、螺旋階段は、アリスごとその姿を消した。
「リ、リンっ、ア、アリスはっ?」
「……閉じ込めた。永遠にループする回廊の中に」
「えっ?」
もしかしてアリスはこのまま、ずっと戻って来れないのか?
「心配なの? 戻ってきたら、アリスは世界を壊してしまうかもしれないのに」
「ああ、そうだ。俺にとってアリスは……」
続く言葉が出てこなかった。
俺にとってアリスは一体なんなんだ?
幼い頃に拾って、少しの間、一緒に暮らしていた。
妙に懐いてきて、勝手に俺のことを宇宙最強だと勘違いする。
俺はそんなアリスのことをどう思っていた?
手のかかる娘?
いやそうじゃない。
大武会で再会した時、俺はアリスのことを……
ピシッ、となにかが軋むような音がした。
考えが中断され、辺りを見渡す。
目の前にある空間に、小さなヒビが入っていた。
「……うそ、でしょ!? いくらなんでも早すぎるっ」
ピシッ、ピシッ、と空間のヒビが広がっていく。
『マズいな、逃げたほうがいいカナ』
俺の中にいるシロの声に、いままでにないような焦りが混じっていた。
『完全に融合した』
パァァアァアンッ、と目の前の空間が破裂して、中から何かが溢れ出す。
バラバラになった小型の螺旋階段だ。
しかし、今度はさっきのように再生しない。
黒い煙のようなものに覆われ、ぐちゃぐちゃに溶けていく。
どんっ、と割れた空間から黒い足が飛び出し、円卓を踏みつける。
その円卓も螺旋階段と同じようにバラバラに砕け散った。
「アレは……」
空間からゆっくりと出てきた者は、俺が知っている者ではない。
だが、そのシルエットは、どう見ても彼女なのだ。
「まさか、アリスじゃないよな?」
それは、もはや人の形をしているだけの黒い破壊、そのものだった。
『タクミ、残念だが』
もうシロの声は焦っていない。
完全に諦めたように言葉を続ける。
『終焉だ』
アリスのような黒い塊が、その力を解放した。
「うちの弟子」2巻発売から一ヶ月が経ちました!
おかげさまで2巻もご好評頂いております!
コロナで大変な時期ですが、この作品は優しいお話なので、誰かが死んだりとか悲しい展開はありません(//∇//)
是非、笑って元気になって下さい!
Web版の内容を大きく修正加筆し、1巻と同じく裏章として、完全書き下ろしを多数追加いたしました。内容を少しだけ紹介させていただきます。
裏章
1 リックとヨル
2 リックとバッツ
3 タクミとリンデン
4 ベビモとアリス
5 タクミとレイア
閑話 大草原の大団円
「タクミとリンデン」の過去話は、の過去話は2話分の大ボリュームで今回の黒いモノを絡めたお話を、より一層楽しんで頂ける内容となっております。
「ベビモとアリス」はちょっとほのぼのする優しいお話です。
「タクミとレイア」はいつもカットされていたレイアの裏話です。
「大草原の大団円」は、意外な語り手によるweb版ではなかった真の第二部エピローグとなっております。
是非ご覧になって下さい(//∇//)
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これからも【うちの弟子】をどうかよろしくお願い致します!
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