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九十九話 タクミの選択

 

「ちょっとみんなに相談があるんだ」


 再び洞窟に戻ってきた俺は、食卓にみんなを集める。

 シロを食べても強くなれなかったことは内緒にしておく。

 黒アリスに対抗できる唯一の手段を失ったことを知れば、みんなは絶望してしまうだろう。


「なんでしょうか、タクミさん。まさかっ、もう黒いアリス様を倒されたのですかっ」


 おおぅ。相変わらず、レイアは俺に希望しか抱かない。


「い、いや、違うぞ。倒すことだけが、解決する手段じゃないと思うんだ。ここは、どうだろうか、みんなで他の案も考えてみないか?」


 うん、だって倒せないんだもの。

 誰かナイスアイディアでも出してくれないかと、藁にもすがるおもいで、聞いてみる。


「さすがタクミさんっ! 戦えば勝つことは分かっているのに、黒いアリス様を傷つけない為にあえて別の方法を探しているという事ですねっ!!」

「よ、よ、よくわかったな、その通りだ」


 無理だ。

 もう希望に満ちた目で俺を見るレイアを直視できない。


「とりあえず、なにか、こう、話し合いで解決するほうが素敵だと思うんだ。みんなはどう思う?」

「いや、タッくん、無理やと思うで。普通の状態のアリスですら、あんまし人のいうこと聞かへんのに、今、黒アリスやで。いつもの100倍くらい、言うこと聞かへんで」


 カルナはどこから、その倍率をだしたのだろうか。


「私もカル姉と同じ意見です。あの黒くなったアリスには、かなりの決意を感じました。さすがのタクミ殿でも、戦いを避けることはできないと思います」


 うん、クロエ、避けないと俺、死んじゃうからね。


「ねえ、タクミ、あなた、もしかして……」


 勘のいいサシャが俺がまったく強くなっていないことに気づいてくれたようだ。

 ジェスチャーで、「よくわかったな、その通りだ」をサシャに送る。

 あちゃあ、という顔をして、サシャが自分のおでこをおさえた。


 い、いや、解決法は?

 ダメだ。みんな、俺が簡単に倒せばいいじゃん、みたいな空気になっている。

 そんな中……


「ねえねえ、タクミ、あれはどうかな?」


 チハルがにぱっ、と俺にかわいい笑顔を見せてくれる。


「あれって?」

「いっぱいごはんつくるのっ。みんなでごはんたべたら、なかよしになれるよっ」

「あ、ああ、そうだな、チハルはかしこいな」


 チハルの頭をなでると、嬉しそうににぱー、と笑う。


 実はすでにその案は外でシロに相談していた。

 大草原の戦いでカレーにつられて、やってきたアリスなら、うまく食事に誘えば、話し合いに持ち込めるんじゃないか、と。



『おそらく無駄カナ。アレはワタシと違い食事を摂取しない。同化したことにより、アリスも食への興味はなくなっている』

「……そうか、俺の唯一の得意分野もダメなのか」


 俺が平和的に解決できる手段がそれ以外に浮かばない。


「そういえば、どうして俺は料理だけ得意なんだ? シロの力は埋もれてしまったのに、どうして料理の技術は身についていくんだ?」

『……それはワタシも不思議に思ってイル。これは推測なのだが、器が壊れ、聖杯となる前に料理は得意だったんじゃないノカ』

「いや、そんなことはないぞ。冒険者時代に覚えて、上手くなっていったんだ」


 そうだ。最初に作ったカレーはまだまだ未熟で満足のいくものじゃなかった。


『……それは思い出しているんダヨ、タクミ。やはり、オマエは……』

「ああ、その話はいい。落ち着いたら考えるよ」


 アリスのことでいっぱいいっぱいなのに、更なる問題を抱えたくない。

 俺のことは、すべてが解決してからゆっくり考えることにする。


「さあ、どうしようか」


 力はない。料理もダメ。後は一体何があるのか。

 まったく思いつかない俺はみんなに相談することにしたのだ。



「と、とりあえず、料理は作っておこう。でも、もしもの時に備えて、他にアイデアはないかな?」


 そうは言ったものの、ほとんどのアイデアは出し尽くしたような気がする。

 みんな、考えてくれているのだが、なかなかいい案は浮かばないようだ。


『一つだけ手があるカナ』


 そんな中、シロが一つの案を出してくる。


『アリスを倒すのは、誰かに任せて、タクミはアレを封印だけすればいい』

「い、いや、シロは俺の中から出れないんだろ? 誰がアリスを倒せるんだ?」

『フム、今のワタシは広大なタクミの聖杯の中にいて出口がわからない状態ダ。だが、誰かがタクミと濃厚接触すれば、その場所にかすかな変化が生まれる。ワタシはその流れを感じて、そこから脱出できるカナ』

「ええっ!! 繋がるっ!?」


 思わず、大きな声をあげてしまったので、みんなが俺に注目する。


「つ、つ、つながるって! ど、ど、どういう事だよっ、シロっ!」

『フム、口づけをすればいい。簡単だろう、タクミは何度かしているじゃナイカ』

「ぶっ」


 吹き出して、そのまま固まってしまった。


「い、いや、しかし、俺以外だと爆破霧散するんじゃなかったのか?」

「大丈夫ダ。その状態で繋がれば、聖杯が包み込み緩和してくれる。力が溢れることもない。これはまたとない大チャンスなんダ。さあ、選択の時が来た、タクミ。誰か一人を選ぶノダ』


 え、えらいことになってしまった。

 どちらかというと、全部されただけで自分からしたことは一度もない。


(お、俺が誰かを選んでキス ……するのか?)


 食卓の五人を見てしまい、すぐに顔を背ける。

 無理だ。選ぶこともできないし、ましてや、自分からキスなんてとんでもないっ。


「お困りかのぅ」


 突然、背後から声がかかり、びっくりして飛び上がる。


 こ、このじじいっ、また気配を消して現れやがった。


 毎回、毎回、声を聞くまで、ここにいる誰もがその老人の存在に気づかない。


 バルバロイ会長が三度みたび、洞窟にやって来た。


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